なぜ私たちは、生食由来の食中毒を古来より何度も経験しながら、やっぱり「生食」をしているのだろうか。避けがたいその魅力とは何なのか、そこにはどんなリスクが潜んでいるのか。人文・自然・社会科学の様々な知見を集積した、生食議論の参考となる一冊。
目次
はじめに (一色 賢司)
第1章 生食とは
総説 私たちはどのように生食してきたか (原田 信男)
1. はじめに
2. 火と調理
3. 日本の生食と膾・鱠
4. 鱠から刺身へ
5. おわりに
第1節 日本における生食文化
第1項 「生」という言葉の意味 (瀬戸 賢一)
1. はじめに
2. 〈食材が〉熱を通さず新鮮なさま
3. 〈食材が〉中まで熱を通さず食に適さないさま
4. 生の畏れ
第2項 日本人と魚介類 (畑江 敬子)
1. 国民栄養調査による肉類と魚介類
2. ことわざ
3. 旬と俳句の季語
4. 江戸時代の魚介類の上級,下級
5. 日本人はいつから魚介類を生で食べてきたか
6. 世界の生食料理
7. 刺身
8. 刺身包丁
9. 刺身のけん,つま,辛味
10. 刺身の醤油
11. 生食の問題点,ヒスタミン中毒,寄生虫,フグ毒
第3項 生肉を食べる郷土料理 (永山 久夫)
1. 「なます」は古代の生肉料理
2. レバーの生食もあった
3. 信州のユニークなタンパク質源
4. 会津,熊本,鹿児島の名物郷土料理
第4項 野菜の生食はいつから一般的になったのか (大羽 和子)
1. はじめに
2. 野菜の生食文化の歴史
3. サラダ用生野菜は第ニ次世界大戦後に一般的になった
4. 日本の漬け物文化と西洋のサラダ文化
5. おわりに
第5項 生卵と卵かけごはん (小川 宣子)
1. 鶏の家禽化
2. 卵料理の歴史
3. 生卵
4. 卵かけごはん
第2節 海外における生食文化
第1項 ヨーロッパにおける生食 (南 直人)
1. 「生のもの」と「火を通したもの」
2. ヨーロッパで食べられている「生のもの」
3. 今後「生のもの」は受け入れられるか?
第2項 朝鮮の生食と日本 (鄭 大聲)
1. 生食の文化と歴史
2. 動物性食品
3. 植物性食品
4. 生食料理の調味料
5. おわりに
第3項 中国の食文化における「生食」 (西澤 治彦)
1. はじめに
2. 中国人でも口にしないもの
3. 歴史的に遡ると
4. 復活する「魚生」料理
5. 生態環境と文化的要因
第4項 極北の生食 (岸上 伸啓)
1. はじめに
2. 極北環境とイヌイット
3. イヌイットの伝統食
4. イヌイットの食生活の変化と健康被害
5. イヌイット社会における伝統食の重要性
6. おわりに
第3節 なぜ今生食なのか
第1項 なぜ今生食か (高橋 久仁子)
1. 「生」を概観する
2. 「生」が冠せられても非加熱食品とは限らない
3. 食肉類の生食が原因と推察される食中毒の12 年間の推移
4. 食中毒死亡者数の変遷
5. 部活動顧問教諭の指示による牛レバーの生食による食中毒
6. 「生こそヘルシー」という誤解:酵素を食べるといいことがあるのか
7. 十分な加熱の必要性を軽視するマスメディアからの食情報
8. 生食可能な食品の拡大
第2項 食肉の生食に関する実態調査 (磯部 順子)
1. はじめに
2. 事業者の「食肉の生食」提供の実態
3. 消費者の「食肉の生食」に対する意識と実態
4. 食肉の生食と食中毒との関連
5. まとめ
第3項 「生」という言葉のシズル感 (大橋 正房)
1. はじめに
2. 「生スイーツ」の食感
3. 「生」を付けた名前の魅力
4. 「生」で実感する価値
5. 「生」という語に込める想い
インタビュー 食肉の現場から
ドイツの多様な食肉文化を支えたもの/ヘラ スパイス ジャパン(株)小島豊氏に聞く
第2章 生食のおいしさとは
総説 生で食べることのおいしさ (伏木 亨)
1. はじめに−生で食べることへの強いこだわり
2. 生の魚を食べる緊張感
3. 料理をしない究極の料理
4. 生肉を食する
5. 野菜の生食
6. おわりに
第1節 生肉・非加熱食肉のおいしさとは
第1項 食肉の熟成に伴うテクスチャー変化 (石下 真人)
1. 筋肉から食肉へ
2. 食肉の安全と家畜の検査
3. 熟成
4. 食肉のおいしさ
5. 生肉と加熱肉
6. おわりに
第2項 非加熱食肉製品向きの肉質 (島田 謙一郎)
1. はじめに
2. 非加熱食肉製品という言葉の定義
3. 非加熱食肉製品の種類
4. 非加熱食肉製品の原料肉
5. おわりに
第3項 非加熱食肉製品の製造とその特性 (三上 正幸)
1. はじめに
2. 日本における非加熱食肉製品
3. 骨付き生ハムの性状
4. 骨付き生ハムの特徴
5. おわりに
第4項 生食のおいしさとやみつきの生理学 (山本 隆)
1. はじめに
2. おいしいものとは
3. おいしさの成り立ち
4. おいしさの脳内機序…
5. 生のおいしさ,加工のおいしさ
6. 好きになる条件
7. やみつきの原理
8. おわりに
第5項 加熱による肉の変化 (福岡 美香/酒井 昇)
1. はじめに
2. タンパク質の加熱変性
3. 加熱による呈味成分の変化
第6項 霜降りから赤身へ? 牛肉の嗜好変化と生食の関係 (山本 謙治)
1. はじめに
2. 人気を呼ぶ赤身肉
3. 料理人の赤身肉への希求
4. 赤身肉と赤身肉品種
5. 黒毛和牛と赤身肉品種の関係
6. 赤肉サミットにおける評価
7. ドライエージング熟成と赤身肉
8. 赤身肉のおいしさと生食
第7項 レバ刺し風コンニャクの開発 (菱谷 龍二/妹尾 浩二)
1. はじめに
2. 当社の紹介
3. 当社の独自技術
4. マンナンレバー開発のきっかけ
5. マンナンレバーがヒットした理由
6. コンニャクの安全性とは
7. コンニャクの将来性
8. 当社のビジョン
第8項 非加熱食品として生まれ変わった「牛とろフレーク」 (藤田 惠)
1. 牛肉を生で食べるという提案
2. 牛を育て,肉にして売る
3. 牛とろフレークの誕生
4. 食中毒の壁
5. 牛とろを無くす訳にはいかない
6. おわりに
第2節 生魚(刺身)のおいしさとは
第1項 魚介の呈味成分と味 (福家 眞也)
1. はじめに
2. 呈味成分研究法の概要
3. 脂質の役割
4. タンパク質の味への影響
第2項 魚介類の生きのよさとおいしさの関係 (坂口 守彦)
1. はじめに
2. 生きのよさとその測定方法
3. 生食される主な魚介類と活魚
4. 活魚の呈味成分と風味
5. 活魚のテクスチャー
6. おわりに
第3項 テクスチャーを分析 (畑江 敬子)
1. 魚介類はなぜ生で食べることができるか
2. 刺身の切り方とコラーゲン量
3. 魚類の鮮度とテクスチャー
4. イカ,タコのテクスチャー
5. 貝類のテクスチャー
第4項 魚介の生食調理法の知恵とおいしさ (松本 美鈴)
1. はじめに
2. 刺身の誕生
3. 刺身の調理法
4. たたき料理
5. 昆布締め料理
6. 刺身の切り方
第5項 加熱との比較 (畑江 敬子)
1. はじめに
2. 加熱による魚肉の硬さの変化
3. 生魚と,加熱魚のエキス成分の分離しやすさ
4. 加熱したときに身の締まる魚種と身のほぐれる魚種
5. 脂質の多い魚種と脂質の少ない魚種
6. トリガイの加熱
7. アワビの加熱
8. イカの加熱
9. 焼き魚
第3節 生野菜のおいしさとは
第1項 テクスチャーを分析・加熱による変化 (渕上 倫子)
1. はじめに
2. 生野菜の組織構造とテクスチャー
3. 生野菜の保蔵によるテクスチャー変化
4. 野菜サラダのテクスチャー(水浸漬によるテクスチャー変化)
5. 和え物,漬け物のテクスチャー(脱水によるテクスチャー変化)
6. 加熱による野菜のテクスチャー変化
7. 乾燥よる野菜のテクスチャー変化
8. 酵素による野菜の軟化
9. 冷凍処理による野菜の軟化
第2項 生野菜の食味食感評価 (堀江 秀樹)
1. はじめに
2. トマト
3. キュウリ
4. レタス
5. おわりに
第3項 生野菜の咀嚼音とオノマトペ (髙橋 淳子)
1. 生野菜の咀嚼音とオノマトペ
2. 食品に使われるオノマトペ
3. 生野菜のおいしさとオノマトペ
4. 欧米で使われる野菜の食感の語彙とオノマトペ
第4項 生野菜の鮮度とおいしさ (大羽 和子)
1. はじめに
2. 生野菜の鮮度に関する評価法
3. 生野菜のおいしさ
コラム 生野菜ビジネスの現場から (中野 紀子)
「 全て生で食べられる」にこだわった野菜の通販
第4節 食行動科学からみた生食 (今田 純雄)
1. はじめに
2. 生食の定義
3. 自然食品(ナチュラル・フード)への嗜好
4. 生気論的食物観
5. フードシステムに対する不信,反発
第5節 生野菜類と生魚介類の栄養 (井上 貢)
1. 生魚介類の栄養
2. 生野菜の栄養
3. まとめ
第6節 畜産副産物の機能性 (佐藤 三佳子/森松 文毅)
1. はじめに
2. 畜産副産物とは
3. コラーゲン
4. エラスチン
5. プラセンタ
6. その他
7. おわりに
第3章 生食のリスクとは
総説 生食とリスク (一色 賢司)
1. 食品安全と食品衛生
2. 何を原材料にして食べているのか
3. 食生活とリスク
4. 食中毒と生食
第1節 2011 年ユッケ集団食中毒事例の概要 (綿引 正則)
1. はじめに
2. 腸管出血性大腸菌感染症
3. 食中毒の概要
4. 細菌学的特徴
5. 発生要因
6. 本食中毒事例が与えた影響
7. おわりに
第2節 生肉のリスク 原因菌と食中毒事件 (工藤 由起子/小田 みどり)
1. はじめに
2. 生肉(生卵を含む)の喫食と関係する主な食中毒菌
3. 腸管出血性大腸菌の食中毒事例
4. カンピロバクターの食中毒事例
5. サルモネラの食中毒事例
6. おわりに
第3節 魚介類のリスク 原因菌・毒と食中毒事件 (西渕 光昭)
1. はじめに
2. 食中毒の発生原因となる魚介類由来の病原体および毒性物質
3. 食中毒事件発生状況およびその予防
4. おわりに
第4節 野菜類のリスク 原因菌・毒と食中毒事件 (宇賀 昭二)
1. はじめに
2. 野菜類の微生物汚染
3. 日本で発生した主な食中毒事件
4. 海外で発生した主な食中毒事件
5. おわりに
第5節 東京都におけるウイルス性食中毒発生事例 (林 志直)
1. はじめに
2. 食中毒起因ウイルス
3. 東京都内におけるウイルス性食中毒の発生状況
4. 二枚貝のノロウイルス汚染
5. 輸入二枚貝による食中毒事例
6. E 型肝炎食中毒
7. 東京都内における野生ニホンジカのE 型肝炎ウイルス保有状況
8. 生食嗜好と食中毒
第6節 生食による寄生虫感染症のリスク (杉山 広)
1. はじめに
2. アニサキス
3. 肺吸虫
4. 旋尾線虫
5. 原因不明下痢症
6. ナナホシクドア
7. フェイヤー住肉胞子虫
8. 寄生虫感染症と食品衛生法
9. まとめ
第7節 新しい食中毒,リスクの複雑化やアウトブレイクについて (豊福 肇)
1. はじめに
2. 生食による新しい食品由来疾患
3. 食品カテゴリーごとの問題
第4章 生食の対処技術と衛生管理
総説 生食のリスクに対する制御技術の可能性 (一色 賢司)
1. 食べる行為とリスク管理
2. 有害物質対策
3. 有害微生物対策
4. 衛生管理とHACCP システムについて
5. 大きな流通,小さな流通
第1節 食品微生物の非加熱殺菌技術
第1項 工学的手法 (五十部 誠一郎)
1. はじめに
2. 非加熱処理の特徴
3. 非加熱殺菌法の実用化の導入可能性
4. 主な非加熱処理
5. 熱劣化抑制型加熱処理での固体表面殺菌および加工処理
6. おわりに
第2項 放射線利用 (等々力 節子)
1. 放射線と照射工程
2. 放射線殺菌の基礎
3. 食品の放射線殺菌
4. 食品の放射線殺菌の安全性と規格基準
第2節 微生物などの利用による危害微生物制御技術 (松田 敏生)
1. はじめに
2. バイオプリザベーション
3. 病原性危害細菌の制御を主目的とした乳酸菌の利用
4. Carnobacterium piscicola による食品保存と安全性向上
5. その他の乳酸菌の利用による食品危害微生物の制御
6. 要約と結論
第3節 伝統的調理の有効性 (松本 美鈴)
1. はじめに
2. ルイベ
3. あらい
4. 酢漬け
第4節 香辛料の抗菌性 (中谷 延二/菊﨑 泰枝)
1. 食文化のなかの香辛料
2. 香辛料の抗菌性
3. 食中毒菌に対するスクリーニング
4. おわりに
第5節 フグ肝無毒化 (野口 玉雄/大貫 和恵)
1. はじめに
2. TTX 毒化機構
3. 無毒フグの生産
4. フグにとってTTX とは
5. フグ肝の機能性
第6節 衛生管理,検出技術 (川本 伸一)
1. フードチェーンアプローチによる食品衛生管理
2. 食品衛生管理のための検出技術
第7節 鮮度保持技術(冷凍・冷蔵) (鈴木 徹)
1. はじめに
2. 低温保存の基本原理
3. 温度帯による保存性の違い
4. 低温下での鮮度および品質変化
5. 冷却速度,凍結速度と鮮度・品質
6. 急速冷却,凍結の手段とその物理
7. 付加的な鮮度保持管理技術
8. 凍結による寄生虫リスクの回避
9. おわりに
第5章 生食のリスクコミュニケーション
総説 食の安全と安心の間にあるもの (唐木 英明)
1. 不安を感じますか
2. 人間の判断の特徴
3. 日本の食品は安全ですか?
4. 天然・自然は安全ですか?
5. おわりに
第1節 リスク評価・リスク管理・リスクコミュニケーションの仕組み
(戸部 依子)
1. 食品の安全と安心を届ける仕組み−食品のリスク分析−
2. 微生物学的リスク分析
第2節 昨今の食中毒問題とその規制強化から学ぶもの (関崎 勉)
1. はじめに
2. 腸管出血性大腸菌の恐ろしさ
3. 事件発生から法規制に至るまで
4. 近年の食中毒発生動向からの推測
5. 食中毒菌の汚染源
6. 消費者の食の安全意識維持のために何をすべきか
7. おわりに
第3節 消費者は生食のリスクをどうとらえているか (細野 ひろみ)
1. はじめに
2. 調査方法
3. リスクをどの程度高いと感じているのか
4. 確率や重篤度はどのように捉えられているか
5. 食品の汚染度に関する認識
6. どのようなハザードだと捉えられているか
7. リスクを回避するための行動
8. おわりに
第4節 信頼関係の構築に必要なこと (日和佐 信子)
1. はじめに
2. 消費者の意識
3. 情報の問題
4. 行政の問題と役割
5. 企業の問題
6. おわりに