日本の森林は約2500万haあり、国土面積に占める森林面積は約67%。森林面積は過去約40年間横ばいで推移している。我が国は森林大国といえる。その森林資源=木質バイオマスは、石油資源に代替し得る可能性のある、再生可能でカーボンニュートラルな資源として注目を集めている。
2012年7月1日にスタートした再生可能エネルギーの固定価格買取制度を契機に、間伐材や製材所廃材などの未利用木材をエネルギー源とした木質バイオマス発電所の建設ラッシュが起こった。これは木質バイオマスのエネルギー利用としての側面である。
一方でマテリアルとしての利用開発も継続して行われてきた。既に実用化が進む木材とプラスチックの複合体である木材プラスチック複合材料(WPC)、そしてセルロースナノファイバー(CNF)やリグニンの研究開発がある。特に、鋼鉄の1/5の軽さで5倍超の強度を有するCNFや芳香族資源であるリグニンの利用に関して注目が高い。国は「日本再興戦略」2014年改訂版にCNFの産業化を明記するなど力を入れている。
最近はCNFがリグニンで覆われたままの状態であるリグノCNFの研究開発も活発である。従来はリグニンを除去してCNFのみを精製していたが、リグノCNFのまま用いることでリグニン除去工程を簡略化でき、強度もより強くなる。
上記のように盛り上がる木質バイオマスのマテリアル利用について、本書はその最新の開発動向と市場動向をまとめたいという考えから企画した。
【開発編】では、木質バイオマスの変形加工技術や液化処理、木材プラスチック複合材料、木質繊維を利用した繊維強化プラスチック、そしてCNF・リグノCNFやリグニンの開発動向について、各分野の代表的な専門家の方々のご協力を得て解説して頂いた。
【市場編】では、集成材・合板・木質ボード・セルロース断熱材・竹素材などの木質系材料、WPC、セルロース、リグニン、ヘミセルロース、セルロース誘導体などの市場・メーカー動向に関して、独自取材に基づいた最新の情報を掲載している。
目次
【開発編】
第1章 木質系材料の流動性発現と大変形加工技術 (金山公三)
1 はじめに
2 木材の微細構造と流動成形
3 流動成形例と各種特徴
4 おわりに
第2章 木材とプラスチックの複合材「ウッドプラスチック」 (伊藤弘和)
1 はじめに
2 ウッドプラスチックの概要
2.1 ウッドプラスチックの歴史
2.2 ウッドプラスチックの製造方法
2.2.1 ウッドプラスチックの原料
2.2.2 コンパウンド化
2.2.3 成形
2.3 ウッドプラスチックの規格化
2.4 エクステリア用途向けウッドプラスチックの展開
3 プラスチック製品に向けた展望
3.1 フィラー充填プラスチック分野に向けて
3.2 繊維補強プラスチック分野に向けて
3.3 ウッドプラスチックのポテンシャル
3.3.1 軽量化
3.3.2 有機素材
3.3.3 フィラー形状の多様化
3.3.4 高充填化
3.4 プラスチック製品への実用化に向けた課題
4 まとめ
第3章 木質プラスチック複合材料(WPC)における相溶化剤の機能と役割 (青木憲治)
1 はじめに
2 接着のメカニズム
3 相溶化剤の役割
4 相溶化剤の種類
4.1 極性モノマー共重合体
4.2 グラフト変性ポリマー
5 グラフト反応のメカニズム
5.1 無水マレイン酸変性ポリエチレン
5.2 無水マレイン酸変性ポリプロピレン
5.2.1 グラフト率と分子量
6 おわりに
第4章 植物バイオマス―プラスチック複合材料の開発 (吉岡まり子)
1 はじめに
2 木粉以外のバイオマスの混練複合材料化検討
3 セルロースナノファイバー/ポリエチレン複合体のリチウムイオン電池用セパレータへの応用
3.1 セルロースの化学修飾と微細化・ナノファイバー化
3.1.1 セルロースの化学修飾と微細化・ナノファイバー化の方法
3.1.2 セルロースの化学修飾と微細化・ナノファイバー化の検討結果
3.2 CeNF複合ペレット製造
3.2.1 CeNF複合ペレット製造方法
3.2.2 CeNF複合ペレットの分散状態
3.3 CeNF複合セパレータの製造
3.3.1 CeNF複合セパレータ製造方法
3.4 セパレータの特性
3.4.1 セパレータ特性の評価方法
3.4.2 CeNF複合セパレータ特性および電池評価結果
3.5 セルロースナノファイバーのリチウムイオン電池用セパレータへの応用に関する上記取扱いおよびデータの考察
3.6 セルロースナノファイバーのリチウムイオン電池用セパレータへの応用に関する小節の結論
4 おわりに
第5章 木材の液化処理によるリグノセルロース資源の再利用 (栗本康司)
1 はじめに
2 木材の液化処理とは
3 多価アルコールによる液化処理とリグノセルロース資源の利用方法
4 廃コンパネを原料とした多孔質複合体の製造とその利用
4.1 骨材および液化木材の調製
4.2 木材―ウレタン樹脂複合体の製造と特性
4.3 農業資材としての利用
5 現場施工による木質系廃材の利用
6 最後に
第6章 セルロース・ミクロフィブリルを骨格とする天然繊維の力学的挙動と強度評価 (合田公一)
1 はじめに
2 天然繊維の構造と強度特性
3 天然繊維の断面形状と断面積変動
4 天然繊維の力学的挙動
5 天然繊維の強度分布モデルとヤング率変動
5.1 天然繊維の強度分布モデル
5.2 天然繊維のヤング率変動に関する一考察
6 結言
第7章 竹繊維利用強化プラスチックの開発 (西田治男, 附木貴行)
1 はじめに
2 竹の構造
3 竹の解繊によるファイバー化とコンポジットの物性
4 マイクロファイバーへの解繊とコンポジットの物性
4.1 リグノセルロースマイクロファイバーへの解繊
4.2 BP/プラスチックコンポジット(BPC)の溶融成形性
4.3 BP/PPコンポジットのモルフォロジーと熱的性質
4.4 BPC押出成形体の吸水性
4.5 BP/PPコンポジットの機械的性質
4.6 BPC成形体の帯電防止特性
5 ナノファイバーへの解繊とワンポットコンポジット合成
5.1 リグノセルロースナノファイバーへの解繊
5.2 二軸押出機を用いたナノファイバーへの解繊
5.3 BLCNF/プラスチックコンポジット
5.4 BLCNF/プラスチックコンポジットの力学物性
6 まとめ
第8章 セルロースナノファイバー (矢野浩之)
1 はじめに
2 木材の構造とセルロースナノファイバー
3 セルロースナノファイバーの製造
4 構造用途への展開
4.1 CNFシート成形体
4.2 CNF強化ポリ乳酸樹脂
4.3 CNF強化ポリオレフィン樹脂
4.4 CNF強化樹脂の発泡
4.5 透明ナノコンポジット
4.6 セルロースナノファイバー強化天然ゴム
4.7 セルロースナノファイバーの染色
4.8 CNF強化樹脂材料の製造プロセス開発
4.9 リグノセルロースナノファイバー
5 セルロースナノファイバーに関する最近の動向
第9章 リグノセルロースナノファイバーの製造と複合材料への応用 (遠藤貴士)
1 はじめに
2 木質構造とナノファイバー製造原理
3 ナノファイバー製造方法
4 水熱・メカノケミカル処理技術
4.1 木質組織の効率的解繊プロセス
4.2 水熱・メカノケミカル処理プロセスの実際
5 リグノセルロースナノファイバーの乾燥方法
6 リグノセルロースナノファイバーの樹脂複合化技術
6.1 木粉系複合材料
6.2 ナノファイバーの樹脂への複合化のポイント
6.3 凍結乾燥法によるナノファイバー複合化
6.4 マスターバッチ法によるナノファイバー複合化
6.5 固相せん断法によるナノファイバー複合化
7 おわりに
第10章 リグニンの構造と新しい応用展開 (舩岡正光)
1 はじめに
2 リグニンの形成とその特徴
3 天然リグニンのネットワーク制御と機能性材料化
4 工業リグニンの高分子材料化
5 フェノールモノマー誘導技術
6 リグニンの新しい応用展開に向けて
第11章 リグニンによる高機能難燃材料への展開 (野寺明夫)
1 はじめに
2 リグノフェノールによる難燃化
2.1 ポリオレフィン
2.2 ポリカーボネート
2.3 難燃剤との相乗効果
3 リグノフェノール複合材料の特性
3.1 ポリプロピレン難燃材料
3.2 ポリカーボネート難燃材料
4 今後の展開について
【市場編】
第1章 木質バイオマスの現状と展開
1 木質バイオマスの現状
2 木質バイオマスの展開
3 木質バイオマスの種類
3.1 木材,廃材,木粉など
3.2 木材パルプ
3.3 セルロース
3.4 ヘミセルロース
3.5 リグニン
3.6 セルロース誘導体
第2章 木質系材料の市場動向
1 木材市場の概要
2 木質系材料の種類別市場動向
2.1 木材/木質ボード
2.1.1 集成材
2.1.2 合板(plywood)
2.1.3 単板積層材(Laminated Veneer Lumber:LVL)
2.1.4 パーティクルボード(Particle Board:PB)
2.1.5 ファイバーボード(Fiber Board:FB)
2.2 木材パルプ
2.3 竹
3 開発動向
4 企業動向
4.1 木材/木質ボード
4.1.1 集成材
4.1.2 合板
4.1.3 木質ボード
4.2 セルロースファイバー(セルロース断熱材)
4.3 ディックウッド
4.4 竹
第3章 木材プラスチック複合材料(WPC)の市場動向
1 WPC素材の概要
1.1 WPCの種類と特徴
1.2 WPCの原料
1.2.1 木材(木粉)
1.2.2 樹脂
1.2.3 相溶化剤
1.3 WPCの生産方法
1.3.1 成形性と原材料の関係
1.3.2 成形設備
1.3.3 その他の設備
1.3.4 加飾(表面意匠付加)工程
2 市場動向
2.1 木粉コンパウンドの市場規模
2.2 市場動向
3 WPC製エクステリア製品メーカーの動向
第4章 セルロースの市場動向
1 セルロース材料の概要
1.1 セルロース系繊維
1.2 セルロース誘導体
1.3 セルロースナノファイバー
2 木質(植物)セルロース関連技術の動向
2.1 脱リグニン技術
2.2 紡糸技術
2.3 セルロースナノファイバー製造技術
3 市場動向
3.1 セルロース粒子
3.1.1 概要
3.1.2 企業動向
3.2 セルロース系繊維
3.2.1 レーヨン(ビスコースレーヨン)
3.2.2 キュプラ(銅アンモニアレーヨン)
3.2.3 テンセル(リヨセル)
3.2.4 アセテート(半合成繊維)
3.3 セルローススポンジ
3.3.1 概要
3.3.2 企業動向
3.4 セロファン(セロハン)
3.4.1 概要
3.4.2 企業動向
3.5 セルロースナノファイバー
3.5.1 概要
3.5.2 企業動向
3.6 セロオリゴ糖
3.6.1 概要
3.6.2 企業動向
第5章 リグニンの市場動向
1 概要
2 リグニンの製造技術
3 リグニンの市場開発動向
3.1 リグニンスルホン酸塩の利用
3.2 リグニン製品の研究開発動向
3.2.1 リグニンポリマー
3.2.2 炭素繊維の開発
3.2.3 ホットメルト型接着剤
4 企業動向
4.1 日本製紙
4.2 BASFジャパン
4.3 山宗化学
4.4 河野新素材開発
4.5 兼松
第6章 ヘミセルロースの市場動向
1 ヘミセルロースの概要
2 ヘミセルロースおよびヘミセルロース誘導体の種類
2.1 キシラン
2.2 グルコマンナン
2.3 ガラクタン
2.4 アラビノガラクタン
3 木材ヘミセルロースの抽出技術
3.1 針葉樹からのキシラン,グルコマンナンの抽出技術
3.2 広葉樹からのキシランの抽出
4 木材ヘミセルロース由来のオリゴ糖
4.1 広葉樹キシランからのキシロオリゴ糖の製造
4.1.1 酸加水分解による生成
4.1.2 酵素加水分解による生成
4.1.3 蒸煮による生成
4.2 針葉樹からのオリゴ糖の製造
4.3 その他のオリゴ糖の製造技術
5 ヘミセルロースの市場開発
5.1 キシロオリゴ糖
5.2 キシロース,フルフラール
5.3 水溶性キシラン(グルクロノキシラン)
5.4 オリザロース
第7章 セルロース誘導体の市場動向
1 セルロースエーテル
1.1 概要
1.2 セルロースエーテルの市場動向
1.2.1 メチルセルロース(MC)
1.2.2 ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)
1.2.3 ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)
1.2.4 エチルセルロース
1.2.5 ヒドロキシエチルセルロース(HEC)
1.2.6 カチオン化セルロース
1.2.7 ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)
1.2.8 カルボキシメチルセルロース(CMC,カルメロース)
2 セルロースエステル
2.1 概要
2.2 セルロースエステルの市場動向
2.2.1 アセチルセルロース(酢酸セルロース)
2.2.2 酢酸フタル酸セルロース
2.2.3 ニトロセルロース
3 企業動向
3.1 信越化学工業
3.2 ダイセル
第8章 セルロース誘導体応用製品の市場動向
1 医療用途
1.1 医療用コーティング剤
1.1.1 概要
1.1.2 市場動向
1.2 その他の応用製品
1.2.1 医薬用高成形性結晶セルロース
1.2.2 バイオ医薬製造用クロマトグラフィー充填剤
1.2.3 酢酸セルロース分離膜
1.2.4 セルロース発熱シート
2 化粧品用途
2.1 概要
2.2 市場動向
2.3 開発動向
3 液晶用フィルム
3.1 概要
3.2 TACフィルムの用途
3.2.1 偏光板保護(TAC)フィルム
3.2.2 視野角拡大(WV)フィルム
3.2.3 反射防止フィルム
3.3 市場動向
3.4 企業動向
3.4.1 富士フイルム
3.4.2 コニカミノルタ
3.4.3 大日本印刷
3.4.4 凸版印刷
4 食品分野
5 セルロース系プラスチック
6 一般工業分野
6.1 添加剤
6.2 自動車用エンジンフィルター
6.3 スピーカー用振動板