iPS細胞誕生から10年の節目を迎える今、再生医療の実用化に向けた研究開発はいっそう熱を帯びている。しかし一方で、細胞を移植するのみの現手法では十分な治療効果が得られない可能性が懸念されている。また、細胞のみで実用的な三次元組織を構築することは困難であるとの見方が強い。このような課題をクリアするためには、体内環境に近い周辺環境を細胞に与え、細胞の能力を最大限引き出すことが肝要となる。そしてその最有力と目されるのが、本書テーマである「足場材料(スキャフォールド)」である。
前半の【技術・開発編】では、足場技術の現状と展望、作製手法、開発事例について、各分野の第一線でご活躍されている専門家の方々に解説して頂いた。後半の【市場編】では、再生医療の市場動向、薬事審査・規制等の制度動向、足場用素材の需要動向、足場材料メーカー動向について、独自取材に基づき、図表を多用して最新情報を詳述している。
(本書「はじめに」より一部抜粋)
目次
【第I編 技術・開発編】
第1章 バイオマテリアル足場技術の現状と今後―再生治療と再生研究― (田畑泰彦)
1 再生医療の考え方
2 再生医療におけるバイオマテリアルの重要性
3 バイオマテリアル細胞足場を活用した再生治療
4 バイオマテリアル細胞足場を活用した再生研究
4.1 表面の物理化学的性質の異なるバイオマテリアル足場
4.2 表面の生物学的性質の異なるバイオマテリアル足場
4.3 3次元構造をもつバイオマテリアル足場
4.4 物理刺激とバイオマテリアル足場との組み合わせ
4.5 細胞が3次元化するバイオマテリアル足場
5 足場を利用した再生医療の未来に向けて
第2章 足場材料の構造制御と複合化技術 (川添直輝、陳国平)
1 はじめに
2 多孔質足場材料の一般的作製方法
3 空孔サイズを制御したコラーゲン多孔質足場材料
4 空孔の配列をパターン状に制御したコラーゲン多孔質足場材料
5 パターン状多孔質足場材料を用いた筋肉組織の再生
6 足場材料における合成高分子素材と天然高分子素材の複合化
7 ポリ乳酸/グリコール酸スポンジとコラーゲンマイクロスポンジの複合化
8 ポリ乳酸/グリコール酸メッシュとコラーゲンマイクロスポンジの複合化
9 おわりに
第3章 自己組織化現象を利用したペプチド性足場材料の開発 (堤浩、三原久和)
1 はじめに
2 ペプチドの自己組織化を利用したヒドロゲルの開発
2.1 自己組織化ペプチドの分子設計
2.2 自己組織化ペプチドの組織化特性の制御
2.3 ペプチドの自己組織化構造への生理活性配列の導入
3 自己組織化ペプチドゲルの細胞足場材料への応用
3.1 生体外における細胞の三次元培養の足場材料としての自己組織化ペプチド
3.2 組織再生のための自己組織化ペプチド材料の応用
3.2.1 神経組織再生への応用
3.2.2 骨組織再生への応用
3.2.3 血管再生への応用
3.2.4 心臓組織再生への応用
4 おわりに
第4章 脱細胞化技術と足場材料への応用 (中村奈緒子、岸田晶夫)
1 はじめに
2 脱細胞化組織を用いた再生医療
2.1 種々の脱細胞化技術
2.2 脱細胞化組織
2.2.1 角膜(同所性の組織再構築)
2.2.2 骨(異所性・脱細胞化組織由来の組織再構築)
2.3 組織から器官へ
2.4 脱細胞化組織への機能性付与
3 おわりに
第5章 細胞機能性表面の設計と再生医工学への応用 (柿木佐知朗)
1 はじめに
2 スキャホールドに求められる特性と機能
2.1 多孔質スキャホールドに対する細胞・生体の応答
2.2 細胞機能性ペプチドリガンド
3 リガンド固定化法
3.1 高分子
3.2 金属・セラミックス
4 チロシンをアンカーとした細胞接着性ペプチドリガンド固定化技術
5 おわりに
第6章 in situ架橋ハイドロゲル (穂積卓朗、太田誠一、伊藤大知)
1 in situ架橋ハイドロゲルと材料設計
2 in situ架橋ハイドロゲルの足場材料への応用
2.1 軟骨
2.2 骨
2.3 血管
2.4 神経
2.5 皮膚
2.6 声帯
2.7 膀胱
3 今後の展望
第7章 細胞移植に向けたタンパク質担持機能性ハイドロゲル (中路正)
1 はじめに
2 移植神経前駆細胞の生存促進・接着促進を目指した機能性ハイドロゲル
2.1 脳由来神経栄養因子担持ヒアルロン酸ゲル
2.2 上皮成長因子担持コラーゲンゲル
2.3 N-cadherinペプチド担持コラーゲンゲル
2.4 神経系細胞接着性キメラタンパク質担持コラーゲンゲル
3 移植時に惹起される炎症・免疫応答からの細胞保護能を有するハイドロゲル
4 生着神経前駆細胞の初期?中期分化誘導のための機能性ハイドロゲルおよびドーパミン神経への分化誘導のための微粒子コンポジットハイドロゲル
5 総括
第8章 ペプチドゲルスキャフォールド:PanaceaGel (永井祐介、成瀬恵治)
1 はじめに
2 PanaceaGelのペプチドデザインとゲル形成について
3 細胞3次元培養
4 スキャフォールドとしての応用例
5 その他の研究例
6 おわりに
第9章 コラーゲンビトリゲル (竹澤俊明)
1 はじめに
2 新しい足場素材「コラーゲンビトリゲル」を開発した経緯
3 ネィティブコラーゲンビトリゲル膜を用いた基盤研究
3.1 再生医療分野での基礎研究の発展
3.2 創薬および動物実験代替法の分野での基礎研究と展望
4 アテロコラーゲンビトリゲル膜の再生医療分野への応用研究
4.1 絆創膏型人工皮膚の開発状況
4.2 人工角膜の開発状況
5 おわりに
第10章 ヒトI型コラーゲンタイプRCP、Cellnestの開発、利用事例について (佐々木翼)
1 はじめに
2 開発の経緯
3 ヒトI型コラーゲンタイプRCP、Cellnestの構造、特徴について
4 ヒトI型コラーゲンタイプRCPの利用事例について
4.1 頭蓋骨再生
4.2 セルザイク
5 おわりに
第11章 ラミニン-511E8フラグメント:iMatrix-511 (水野一乘、藤田和将、山本卓司、服部俊治)
1 はじめに
2 ラミニン分子構造とドメイン
3 ラミニンの分子種
4 ラミニンと他の分子との相互作用
5 iPS細胞培養基質としてのラミニン-511E8フラグメント
6 iMatrix-511の利用
7 今後の展望
第12章 アパタイトファイバースキャフォールド (相澤守、松浦知和、本田みちよ)
1 はじめに
2 硬組織再生を対象としたスキャフォールドの現状
3 アパタイトファイバースキャフォールド(AFS)
4 AFSを利用した再生培養骨の構築
5 AFSを利用した肝再生オルガノイドの構築
6 おわりに
第13章 ナノカーボンスキャフォールド (宮治裕史、西田絵利香、近藤勝義、梅田純子、古月文志)
1 ナノカーボンのスキャフォールドへの応用
2 チタン表面へのカーボンナノチューブ-ネットの構築
3 カーボンナノチューブ配合骨再生用スキャフォールド
4 酸化グラフェン配合スキャフォールドの生物学的特性
5 酸化グラフェン配合スキャフォールドによる骨、皮膚再生
6 今後の展望
第14章 複合化ナノファイバーを用いた足場材料 (山口恭平、金翼水)
1 はじめに
2 足場材料としてのナノファイバー
3 エレクトロスピニング法を用いたSF/TMOS複合ナノファイバーの作製および繊維芽細胞の接着性評価
4 エレクトロスピニング法を用いたSF/HA複合ナノファイバーの作製および骨芽細胞挙動評価
5 コア/シェル構造を有したコラーゲン徐放足場材の開発
6 おわりに
第15章 リン酸オクタカルシウム・コラーゲン複合体(OCP/Collagen)とその臨床応用 (鎌倉慎治)
1 はじめに
2 リン酸オクタカルシウム(OCP)とその骨再生能
3 OCP・コラーゲン複合体(OCP/Collagen)の開発と非臨床試験
4 OCP/Collagenの臨床試験
5 おわりに
【第II編 市場編】
第1章 再生医療の市場動向
1 再生医療の定義
2 再生医療の分類と概要
3 再生医療市場の概要
4 スキャフォールド製品の市場
第2章 足場材料に関連する薬事審査・規制等の制度動向
1 足場材料の定義
2 2000年代に再生医療の法規制が望まれた理由
3 2013年に成立した3つの再生医療関連法
3.1 再生医療推進法(正式名称は再生医療を迅速かつ安全に受け入れられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律)
3.2 医薬品医療機器等法(旧薬事法。正式名称は医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)
3.3 再生医療等安全性確保法(正式名称は再生医療等の安全性の確保等に関する法律)
3.3.1 ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針
3.3.2 生物由来原料基準
3.3.3 製造販売承認の要件としての基準
3.3.4 細胞・組織利用医薬品等の取扱い及び使用に関する基本的考え方
3.3.5 ヒト(自己・同種)由来細胞や組織を加工した医薬品または医療機器の品質及び安全性確保に関する指針
3.3.6 ヒト幹細胞加工医薬品等の品質及び安全性確保に関する5指針
3.3.7 薬事法改正に伴う新しい基準・指針の策定作業
3.3.8 『再生医療等提供基準』等の策定作業
3.4 健康・医療戦略推進法
3.5 日本医療研究開発機構法
3.6 足場材料(スキャフォールド)に関する日本の薬事審査・制度動向
3.6.1 足場材料(スキャフォールド)に関する日本の相談制度
3.6.2 実際に行われた足場材料販売までの流れ
3.7 スキャフォールドに関する海外の薬事審査・制度動向
第3章 足場用素材別の動向
1 生体吸収性合成高分子
1.1 ポリL -乳酸(poly-L-lactic acid, PLLA)
1.2 ポリグリコール酸(polyglycolic acid, PGA)
1.3 乳酸‐グリコール酸共重合体(poly(lactic-co-glycolic acid), PLGA)
1.4 ポリカプロラクトン(PCL)
1.5 ポリ酸無水物
1.6 ポリカーボネート
1.7 合成ポリペプチド
1.8 ポリシアノアクリレート
2 生体吸収性天然高分子
2.1 キチン・キトサン
2.2 ヒアルロン酸
2.3 コラーゲン
2.4 ゼラチン
2.5 ケラチン
2.6 ラミニン
2.7 ポリヒドロキシ酪酸(polyhydroxybutyrate,PHB)
2.8 リン酸エステル
3 無機化合物
3.1 ハイドロキシアパタイト(水酸化リン酸カルシウム)
3.2 β-TCP(β-リン酸三カルシウム)
3.3 炭酸カルシウム
3.4 ナノカーボン(フラーレン/カーボンナノチューブ/グラフェン)
第4章 足場材料メーカー動向
1 セルシード
2 オリンパス テルモ バイオマテリアル
3 科研製薬
4 クラレ
5 メドジェル
6 ジーシー研究所
7 コバレントマテリアル(新社名:クアーズテック)
8 メニコン・ライフサイエンス
9 3D MATRIX
10 ソフセラ
11 新田ゼラチン
12 ニッピ
13 高研
14 富士フイルム
15 アルブラスト
16 グンゼ
17 エム・エム・ティー
18 富士ソフト
19 東洋紡