EB(電子線)は最も有力な照射手段とされながら、監修者(鷲尾)がシーエムシー出版から『低エネルギー電子線照射の応用技術』として1999年に出版して以来、EBの材料創製を目的にした基礎科学から実際の応用展開まで全体を把握できる成書が存在しない状況であった。
そこで、本書においては、材料創製におけるEB技術の高い潜在価値を解説することを目的に、大学等で量子ビームの研究に従事している研究者や企業における製品開発に携わる技術者の方々にお願いして執筆いただいた。
前半の「EB利用の基礎編」では、EBの加速方法や照射によって材料にどのような物理現象がおこり、その後化学現象に進展していくのかを平易に解説した。その後、材料創製分野でのEB技術の中心である「重合・グラフト重合」と「架橋反応」について、その基礎現象と応用展開に不可欠な諸特性について説明した。
「最近の装置の動向と計測技術 編」では、民間企業4社の開発担当者に、それぞれの装置開発の最新の状況をご紹介いただいた。また最新の電子発生技術として、半導体カソードを用いた電子銃の技術開発についてご執筆をいただいた。最後の「EB照射技術の産業利用 編」では、材料創製分野における最近のEB利用技術の目覚ましい発展と拡張をなるべく広範にカバーするため、グラフト重合技術、架橋技術の展開例を取り上げた。更に、新たな応用展開として、滅菌、ガス浄化やナノインプリント技術についても紹介した。
本書によって、EB技術の基礎科学、応用技術としての優れた特徴から、今回紹介した開発が必然として発展していることを理解していただくことで、多くの読者にとって新たな分野でのEB利用展開の一助になれば幸いである。
目次
【EB利用の基礎 編】
第1章 EB反応の基礎
1 はじめに
2 EBとは何か
3 EB利用の歴史概観
4 加速電子の物理
5 加速電子と物質の相互作用
6 ストッピングパワー(あるいはLET:Linear Energy Transfer)
7 EB誘起反応の制御因子(誘電率や粘度,温度効果)
7.1 ハイドロカーボン系
7.2 ハロカーボン系
8 EBにより誘起される反応中間体の量の見積もり
9 文献について
第2章 重合・グラフト重合
1 EB(放射線)による重合反応
1.1 総論
1.2 溶液重合
1.3 固相重合
2 EB(放射線)によるグラフト重合
2.1 総論
2.2 グラフト重合の特徴
2.3 機能性膜への応用
2.4 機能性繊維への応用
第3章 架橋反応について
1 はじめに
2 放射線架橋反応
3 架橋反応への物理的・化学的アプローチ
4 材料の特性改善
5 実用化の例
5.1 耐熱性材料
5.2 熱収縮材料
5.3 発泡体材料
5.4 超耐熱性セラミック繊維
5.5 フッ素系高分子材料
5.6 ハイドロゲル材料
6 おわりに
【最近の装置の動向と計測技術 編】
第4章 岩崎電気(株)グループの低エネルギー電子線(EB)装置の動向
1 EBとは
2 岩崎電気グループのEB装置の歴史
3 低エネルギー型EB装置の変遷(詳細)
4 EB 技術を実用化するまでの流れと装置
4.1 ラボ(実験)機
4.2 パイロット試験
4.3 生産機
5 おわりに
第5章 日立造船の低エネルギー電子線エミッタ
1 はじめに
2 電子線エミッタと電子線滅菌装置
3 低エネルギー電子線照射の特色
4 おわりに ―表層処理プロセスへの応用―
第6章 NHVコーポレーションの電子線照射装置
1 はじめに
2 EPSの概要
2.1 EPSのしくみ
2.2 走査型EPS
2.3 エリアビーム型EPS
3 EPSの特徴
3.1 高い処理能力
3.2 自己シールド
3.3 搬送装置
3.4 制御装置
4 今後の展望
4.1 遠隔監視・予防保全
4.2 装置の小型化
5 おわりに
第7章 浜松ホトニクス(株)の低エネルギー電子線照射源
1 はじめに
2 電子線の低エネルギー化
2.1 電子線の低エネルギー化市場要求背景
2.2 低エネルギー電子線加工プロセスの特徴
3 低エネルギー電子線照射装置の紹介:浜松ホトニクス(株)製EB-ENGINE
3.1 低エネルギー電子線照射源に求められる技術課題
3.2 EB-ENGINEの特徴
3.3 EB-ENGINEの応用分野
4 課題と今後の展望
第8章 多彩な電子ビームを発生する半導体フォトカソード電子銃の開発
1 はじめに
2 半導体フォトカソードの電子放出と機能性表面
3 高度かつ多彩な電子ビームの生成
3.1 パルス構造の電子ビーム
3.2 大電流と電子の単色性で実現する高輝度化
3.3 高いスピン偏極度を持つ電子生成
3.4 面電子ビーム生成
4 材料特性を生かした半導体フォトカソードのNEA状態の長寿命化
5 半導体フォトカソードを搭載した電子銃
6 おわりに
第9章 電子線の計測技術
1 はじめに
2 電子線照射の概要とその特徴
3 電子線計測の重要性
4 線量計測システム
5 線量計測の実際
5.1 照射効果研究とスケールアップへの橋渡し
5.2 加速器・発生装置及び照射場に係る線量計測
5.3 線量の近似計算
6 電子線の線量計測に関連する国際規格等
【EB照射技術の産業利用 編】
< (1) グラフト重合 >
[フィルタ]
第10章 放射線グラフト重合法による不織布への機能性付与とフィルタメディアへの応用
1 はじめに
2 連続式放射線グラフト重合装置
3 ケミカルフィルタ
4 薬液浄化用金属除去フィルタ
5 ヨウ素抗菌フィルタ
[金属捕集]
第11章 放射線グラフト重合によるセシウム捕集材の開発
1 はじめに
2 放射線グラフト重合技術の適用
2.1 電子線照射による「前照射法」
2.2 バッチ式グラフト重合
3 基材の選定
4 セシウム捕集材の開発
4.1 技術内容
4.2 セシウム捕集材の量産化
5 セシウム吸着性能の評価
6 セシウム捕集材の特徴と具体的用途について
7 スケールアップ
8 放射線グラフト重合の環境対策及び工業上の応用
9 今後の展望
第12章 希少金属回収のための高機能分離材料の開発
1 はじめに
2 放射線グラフト重合法を用いた固相抽出材料
2.1 HDEHP担持繊維の作製
2.2 グラフト鎖上に担持したHDEHPと溶液HDEHPの抽出特性の類似性
2.3 HDEHP繊維充填カラムを用いた溶出クロマトグラフィーによるネオジムとジスプロシウムの分離
3 HDEHP繊維を用いたネオジム磁石金属成分分離回収プロセス
4 まとめ
[機能性繊維]
第13章 電子線グラフトによる繊維機能化技術の開発
1 はじめに
2 地域新生コンソーシアム研究開発事業について~産官学連携~
3 EBRIQⓇについて
4 EBRIQⓇのメカニズムと特長
5 EBRIQⓇシリーズのラインアップ
6 EBRIQⓇの各機能について
6.1 EBRIQⓇ消臭
6.2 EBRIQⓇ抗菌
6.3 EBRIQⓇ湿潤発熱
6.4 EBRIQⓇ防炎
6.5 EBRIQⓇ接触冷感
6.6 EBRIQⓇ保湿
6.7 EBRIQⓇ機能複合
7 今後について
第14章 機能性衣料品,介護用品および衛生材料への応用
1 はじめに
2 消臭機能材料の合成
3 機能性衣料品および生活介護用品の実用化事例
4 衛生材料への応用
5 おわりに
第15章 電子線エマルショングラフト重合及びこれを利用したバイオディーゼル燃料転換用触媒の開発
1 はじめに
2 電子線エマルショングラフト重合
3 バイオディーゼル燃料
3.1 BDF転換用塩基型グラフト触媒
3.2 BDF転換用酸型グラフト触媒
3.3 酸型・塩基型グラフト触媒による廃食油のBDF化
3.4 塩基型グラフト触媒の再生処理
4 おわりに
[膜]
第16章 燃料電池用高分子電解質膜の開発
1 はじめに
2 固体高分子型燃料電池
2.1 作動原理
2.2 プロトン伝導性高分子電解質膜
2.3 放射線グラフト重合技術によるPEMの作製
2.4 電子線照射技術の活用
3 アルカリ形燃料電池
3.1 PEM形燃料電池との違い
3.2 AEMの作製とその性能
4 おわりに
< (2) 架橋 >
第17章 電子線(EB)架橋による超耐熱性炭化ケイ素連続繊維の開発と航空機エンジン部品への応用
1 はじめに
2 SiC繊維の特性
3 セラミックス複合材(CMC)への検討
4 電子線不融化による低酸素含有率SiC繊維の開発
5 高弾性率SiC繊維の開発
6 航空機エンジンへの展開
第18章 床材への利用
1 はじめに
2 EBコーティング技術
2.1 従来の塗膜形成技術に対する優位性
2.2 EB硬化塗膜の特徴
2.3 EB硬化型樹脂の分類
2.4 EB硬化塗膜の製造方法
3 EB硬化技術を用いた床用化粧シートの開発
4 結論
第19章 「量子ビームナノインプリント」による高分子の改質と微細加工
1 はじめに
2 ナノインプリント技術
3 量子ビームを用いた微細加工技術
4 量子ビームナノインプリントリソグラフィ
4.1 ポリテトラフルオロエチレンの微細加工
4.2 耐熱性を向上させたポリ乳酸の微細加工
4.3 ハイドロゲルの微細加工
5 おわりに
第20章 電子線照射による生分解性・生体適合性ヒドロゲルの創製とその応用
1 はじめに
2 放射線照射による架橋反応を利用したゲルの創製と物性
3 放射線架橋生分解性ゲルの応用例
4 おわりに
< (3) 分解(菌・無害化) >
第21章 電子線を用いた排ガス処理技術
1 はじめに
2 排ガス中のSO2,NOx 処理技術
3 ゴミ燃焼排ガス中のダイオキシン類分解処理
4 排ガス中の揮発性有機化合物(VOC)分解処理
5 おわりに
第22章 飲料用PETボトルの電子線滅菌技術の紹介
1 はじめに
2 電子線殺菌のボトリングラインへの応用展開
3 ボトリングラインと無菌充填システム
4 EB滅菌方式無菌充填システムの紹介
5 実用化における課題と開発した技術
5.1 EB照射環境の制御
5.2 EB照射と環境滅菌
5.3 ボトル全面へのEB照射と安定した搬送機構
5.4 EB滅菌の殺菌効果と検証
5.5 EB照射効率向上のための偏向技術
5.6 静電・帯電現象と緩和技術
5.7 製品への安全性評価
5.8 作業環境の安全性評価
5.9 耐久性能の向上技術
6 これまでの実績と評価
7 今後の展開,課題
8 おわりに
第23章 医療機器・医薬品等の電子線滅菌について
1 はじめに
2 電子線滅菌の概要
2.1 電子線照射施設と電子線発生原理
2.2 医療用品の電子線滅菌施設の特徴
2.3 電子線滅菌の殺菌原理
2.4 滅菌と無菌性保証等の用語について
2.5 電子線滅菌の特徴
3 医療機器の電子線滅菌実用化と電子線滅菌法の誕生の経緯
4 滅菌バリデーションの導入と医療機器のドジメトリックリリース
5 EOG滅菌から電子線滅菌切替えの動向
6 無菌医薬品の電子線滅菌の実用化
7 おわりに/今後の医療用品への電子線の利用展望