近年、周知のごとく、ものづくりの領域で3Dプリンターが普及を始め、世界的なブームを引き起こしている。3Dプリンターで一体何を作るのか?今、世界で競争が始まっている。そんな中、バイオ・医療の分野への応用が熱い注目を集めている。
人類は、健康な生活を脅かす生老病死という生命の宿命に苦しめられながら、それを克服しようと、原因を追究し医学という学問を進歩させ、克服する手段として様々な医療機器や薬を開発してきた。また、医療従事者達はそれらを使いこなし、日々、診療の腕を磨いている。このような医学、医工学、薬学の進歩、現場の医療従事者の技術向上の努力の結果、今日の医療がある。この進歩の図式は今後も続く。
しかし、これだけではまだ現代医療の一面を見ているにしかすぎない。研究室での新発見や新技術が実際に医療現場に届くまでに必須の産業化技術にも目を向けねばならない。ここはほとんどが企業・産業界が担っている。実際には、技術の芽を医療現場で使える医療製品に仕立て、しかも高い品質を保証しながら安定して提供する技術が開発されている。産業界では、産業化技術の開発とともに、実際に設備投資を行い、製品を生産して現場へ届ける事業も行っている。新しい医療技術が必要としている現場に届くためには必須の作業であり、高度な医療実現には意義ある事業である。
このようなバイオ・医療の本質と大局的な流れを俯瞰しつつ、第I編では、医工学と産業化の視点から医工学技術開発の意義について述べ、第II・III編では、教育訓練用臓器モデルから人工臓器への応用、バイオ・再生医療への応用について、幅広く各分野の最前線を執筆いただいた。第?編では産業化技術に光を当て、最後の第?編では、業界のトピックス、これからの展望を述べさせていただいた。
いずれの稿からも執筆者の医療の進歩への熱い意気込みがあるのを感じとっていただけると思う。医療への参入、医療の進歩への貢献とはどういうことか、何らかの糧にしていただけると本望である。
(「はじめに」より一部抜粋)
構成および内容
Ⅰ編 Introduction
(バイオ人工組織・臓器開発の意義と製造技術開発の意義)
1章 医工学の見地から 中村真人
1 はじめに:バイオプリンティングと3Dプリンティング
1.1 バイオプリンティングの背景
1.2 バイオプリンティングが挑むTissue Engineeringの壁と課題
2 バイオプリンティングの構想
2.1 バイオプリンティングとは?
2.2 「機械で臓器を作れるか?」:バイオプリンティング構想の本質
2.3 バイオプリンティングの特徴
2.4 Tissue Engineeringの課題への印刷技術による挑戦
3 バイオプリンティングの最近の動向
3.1 3Dプリンタの大ブームの影響
3.2 バイオファブリケーションの再定義とこれからの方向
4 医工学の見地から
4.1 医工学とは?
4.2 医工学の特徴
4.3 医工学の見地から見たバイオプリンティング1
4.4 医工学の見地から見たバイオプリンティング2
5 まとめ:バイオプリンティングがいつかあなたの生命を救う
2章 産業化の見地から 水谷 学、紀ノ岡正博
1. はじめに
2. 再生医療における治療法の分類と課題
3. 失われた機能を代替する再生医療製品の開発に必要な技術
4. バイオ3D組織・臓器におけるスケールアウト型生産方式の可能性
5. バイオ3D組織・臓器の製造技術開発の産業的意義
6. おわりに
Ⅱ編 3Dプリンタの医療応用 概要と実際
1章 医学用臓器モデル
1 骨モデル:3次元骨モデル 清徳則雄
1.1 概要と背景
1.2 用途と種類
1.3 機種とコスト
1.4 まとめ
2 骨モデル(生理作用に基づく骨モデル予想) 久保田省吾、野村和隆、堀口悠介、南郷脩史
2.1 はじめに
2.2 骨の機能
2.2.1 骨組織の獲得
2.2.2 軟骨内骨化
2.2.3 皮質骨と海綿骨
2.2.4 骨リモデリング
2.2.5 カルシウム恒常性の維持
2.2.6 力学負荷への適応
2.3 骨粗鬆症
2.3.1 骨折リスク
2.3.2 骨質
2.3.3 MDCTによる骨粗鬆症骨の観察
2.3.4 MDCTにより腰椎海綿骨が観察が可能
2.3.5 骨粗鬆症治療経過観察
2.4 骨折リスク予測
2.4.1 骨密度による予測
2.4.2 石灰化度分布による予測
2.4.3 骨形態変化による予測
2.4.4 FRAXによる予測
2.4.5 骨代謝マーカーによる予測
2.5 有限要素法(FEM)による椎体骨折リスク予測
2.5.1 骨材質
2.5.2 解析モデル、物性値
2.5.3 骨折リスク
2.5.4 結果
2.6 表面応力均一化法による骨リモデリング予測
2.6.1 Image based骨再生シミュレーション
2.6.2 表面応力均一化法と骨吸収・形成カップリングを加味した骨再生シミュレーション
2.7 まとめ
3 心臓モデル:3Dプリント臓器モデル-先天性心疾患への応用 白石 公
3.1 はじめに
3.2 先天性心疾患の診療における超軟質精密心臓レプリカの必要性
3.3 3Dプリンティングの基本技術
3.4 光造形法と真空注型法の併用によるレプリカ作成
3.5 心臓レプリカの問題点
3.6 心臓レプリカ:これからの応用
4 Computer支援臓器3次元造形 森 健策
4.1 はじめに
4.2 3Dプリンタによる臓器モデル造形方法
4.2.1 直接造形法ならびに間接造形法
4.2.2 臓器モデル表現方法
4.3 3Dプリンタによる臓器モデル造形法
4.3.1 処理の概要
4.3.2 画像読み込み
4.3.3 セグメンテーション処理
4.3.4 STLフォーマットへの変換
4.3.5 3Dプリンタによる臓器
4.3.6 後加工処理
4.4 3Dプリンタで造形された臓器モデルの利点と利用法
4.4.1 3Dプリンタで造形された臓器モデルの利点
4.4.2 3Dプリンタで造形された臓器モデルの利用法
4.5 おわりに
5 バイオ3Dプリンティング3Dから4Dへ・先端医療への応用 國本桂史
5.1 はじめに
5.2 次元造形(医療における支援システムとしての臓器モデル)
5.3 3D臓器モデルについて
5.4 臓器モデルの制作プロセス
5.5 臓器モデルの3D造形例
5.5.1 高解像3D肺モデルの造形へ
5.6 生体間肺移植手術のための術前シミュレーションで使用する超現実感3D肺モデルの作製
5.7 ダ・ビンチ利用の腫瘍切除手術の術前シミュレーションで利用する3D腎臓モデルの作成
5.8 これからの3D臓器モデル利用の展開について
6 BIOTEXTURE生体質感造形技術によるバイオ触感実物大臓器立体モデルを用いた外科手術支援と生体反応シミュレーション教育 杉本真樹
6.1 はじめに
6.2 臓器立体モデル造形の臨床的意義
6.3 生体質感造形技術BIOTEXTUREの原理
6.4 手術支援用BIOTEXTURE生体質感臓器モデルの実際
6.5 生体質感臓器立体モデリングの将来展望
2章 人工臓器部品・インプラント用途の製造開発
1 整形外科領域におけるカスタムメイドを目指したインプラント開発 井上貴之
1.1 はじめに
1.2 三次元プリンターの種類
1.2.1 特徴と用途
1.2.2 樹脂造形
1.2.3 金属造形
1.3 人工股関節用臼蓋カップ
1.4 仮想空間からの実体モデル化
1.4.1 医用画像による骨格形状の再構成
1.4.2 術前計画
1.4.3 カスタムメイド計画
1.4.4 造形用データの作成
1.4.5 実体化
1.5 カスタムメイド手術器械
1.6 インプラントへの応用
1.7 今後の展望
2 3Dプリンティング技術の人工関節分野への応用 松本政浩、古谷野啓子
3 人工乳房製作に応用した3Dプリンターの応用と課題 池山紀之
3.1 はじめに
3.2 現在行っている乳がん用人工乳房の製作方法
3.3 3Dプリンターの応用
3.4 3Dデータの取り方
3.5 3Dプリンターによる人工乳房作製方法
3.6 将来の展望
3.7 おわりに
Ⅲ編 再生組織・臓器の製造技術の開発
1章 再生組織・臓器の製造技術の開発(プリンター・装置の開発)
1 ディスペンサ 生島直俊
1.1 はじめに
1.2 ディスペンス技術理論
1.3 最先端のディスペンス技術、製品の紹介
1.4 Scaffolding用3Dプリンター装置の試作開発
1.5 格子状の細胞培養器の試作と評価
1.6 まとめ
2 バイオ3Dプリンタを用いた立体構造体の作製と将来的な展望 中山功一、荒井健一
2.1 はじめに
2.2 「スキャフォールドフリー」組織工学について
2.2.1 細胞シート法
2.2.2 スフェロイド法
2.2.3 モールド法
2.2.4 新しいスキャフォールドフリー技術の必要性
2.3 バイオ3Dプリンティング法によるスキャフォールドフリー組織構造体の作製
2.3.1 「Oreganovo」社のバイオ3Dプリンタについて
2.3.2 バイオ3Dプリンタの開発
2.3.3 バイオ3Dプリンタを用いた細胞構造体の作製
2.3.4 臨床応用する為のバイオ3Dプリンタの今後の展望
2.4 おわりに
3 細胞シート工学を基盤とした革新的立体臓器製造技術の開発 粕谷有造、清水達也
3.1 はじめに
3.2 温度差応答性細胞培養表面に基づく細胞シート工学
3.3 細胞シートの積層化による3次元組織の構築
3.4 おわりに
4 組織内細胞挙動を理解し複雑組織設計に活かすための培養・解析雛型として
積層細胞シート 長森英二
5 3次元組織生産のためのバイオファブリケーション技術とその応用展開 岩永進太郎、竹内昌治
5.1 はじめに
5.2 3次元組織作製へ向けた細胞操作技術
5.3 機能的組織の作製およびその応用展開
5.4 おわりに
2章 人工血管・人工弁の開発
1 細胞の自己集合化による3次元組織体の作製 岩井良輔、中山泰秀
1.1 はじめに
1.2 基盤技術の開発
1.2.1 細胞の自己集合化誘導表面
1.2.2 3次元細胞組織体のサイズと形状の制御
1.2.3 3次元細胞組織体の積層構造化
1.3 応用研究例1
1.3.1 再生医療への取り組み
1.3.2 気管様組織体の作製
1.3.3 血管壁の再生
1.4 応用研究例2
1.4.1 創薬薬効/毒性試験系への取り組み
1.4.2 創薬ハイスループットスクリーニングの支援技術
1.4.3 異種細胞混合スフェロイ ドの作製
1.5 おわりに
2 脱細胞化組織にを用いた腱索機能を有する人工増弁の開発 岩崎清隆
2.1 はじめに
2.2 脱細胞化組織を用いたNormo弁
2.3 ヒト左心室モデルを用いたNormo弁の機能性評価法の開発
2.4 まとめ
3章 立体心筋組織体の創成 松崎典弥、明石 満
1 はじめに
2 立体組織構築の手法
3 細胞プリントの現状と課題
4 細胞積層法による3次元積層組織の構築と組織モデルへの応用
5 細胞集積法による3次元組織の短期構築と血管網・リンパ管網の導入
6 附属器を有するヒト皮膚モデルへの応用
7 インクジェットプリントによる三次元肝組織チップの創製と薬剤毒性評価
8 心筋細胞へ適用可能な細胞コート法(濾過LbL法)
9 同期拍動する三次元ヒトiPC-CM組織体の構築
10 毛細血管様ネットワークを有する三次元ヒトiPC-CM組織体の構築と薬剤評価への応用
11 おわりに
4章 その他の組織・臓器の開発 大橋一夫
1 はじめに
2 肝臓の微細構造ユニット
3 肝細胞の酸素要求性による肝組織工学の課題
4 肝微細構造ユニット模倣の重要性と肝組織機能維持
5 培養下における肝細胞索類似構築を目指す技術開発
6 非実質細胞を用いた短期肝細胞シート作製
7 肝細胞索模倣作製肝組織の生体内3D立体化
8 膵島組織工学による糖尿病治療への応用
9 臓器表面への細胞配置による再生医療展開
10 おわりに
Ⅳ編 ファクトリー化
1章 産業化とファクトリー化 長森英二
1 はじめに
2 動物細胞の大量調整技術
3 ヒトiPS細胞の大量調整技術
4 おわりに まとめと今後の展開
2章 人体移植できる皮膚・骨格・関節などを量産する技術
金澤三四朗、藤原夕子、疋田温彦、菅野勇樹、西條英人、鄭 雄一、星 和人、高戸 毅
1 はじめに
2 顎顔面領域における3Dプリンタを用いた再生骨の製造技術の開発
2.1 3Dプリンタを用いたカスタムメイド型人工骨の研究開発と臨床応用
2.2 バイオ3Dプリンタを用いた再生骨作製技術の研究開発
3 皮膚、粘膜における創傷被覆組織の製造技術の開発
3.1 創傷被覆材の歴史
3.2 新たなバイオ3Dプリンタを用いた創傷被覆組織作製技術の研究開発
4 膝関節における再生膝関節の製造技術の開発
4.1 膝関節再建の歴史と現状
4.2 バイオ3Dプリンタを用いた再生関節作製技術の研究開発
5 おわりに
Ⅴ編 バイオ3Dプリンター業界の最新トピック CMCリサーチ調査部
1 概要
2 3Dプリンターを活用するバイオ・医療関連業界の動向
3 NEDOの動向
4 医療・ヘルスケアメーカーの動向
4.1 ネクスト21
4.2 Align Technology(米国)
4.3 Organovo(米国)
4.4 JMC
4.5 帝人ナカシマメディカル
4.6 八十島プロシード
4.7 NTTデータエンジニアリングシステムズ
4.8 名古屋市立大学
4.9 ジンマーバイオメット
4.10 SHCデザイン
4.11 国立循環器病研究センター研究所
4.12 武藤工業
4.13 京都大学
4.14 富士フイルム
4.15 東京大学
4.16 サイフューズ
4.17 佐賀大学
4.18 3DSystems(米国)
4.19 Pandorum Technologies(インド)
4.20 山形大学
4.21 イクシー
4.22 Tevido(米国)
4.23 ApreciaPharmaceutical(米国)
4.24 大日本印刷
4.25 ソニー
4.26 L’Oéal(フランス)
4.27 大阪大学
4.28 マサチューセッツ工科大学(米国)
4.29 デザインココ
4.30 BioBots(米国)