当社は2014年に「実務対応Liイオン電池の規格・特性・安全性試験・輸送手順」を、2015年にその改訂として「LiBの安全性試験・規格のグローバル対応2015」を発行した。この2017版はEV用LiBにポイントを置いた改訂であるが、この2年間の各国のLiBの規格制定や改訂を全面的に取り込んでいる。
現在、2017年初頭において、ZEV(ゼロ・エミッション車)の増強政策もあって、EVとPHVの生産・販売は大きく増加している。一方でリチウムイオン電池の発火・破裂の事故は少なからず起こっている。UL、UNECE、ISOやIECなどのEVに特化した安全性試験規格が提案され、運用が始まっているが、その成果は未だ見えていない。安全性規格があればEVが安全になるというわけではなく、そうした実績を確かめられるものは何もない。現状は、複雑化しているセル、モジュールとEVの電池システムに対して、安全性試験がそれを追いかけるのが手一杯であり、むしろ試験方法自体の検証が必要とも思われる。
EVの普及に対応しての安全性試験の計画と実施とその活用は、電池メーカーや自動車メーカーのみならず、原材料の開発段階においても重要度を増している。一方で、試験内容の分かり難さと、電池(試験試料)と試験方法のマッチング調整の難しさから、各種試験をマニュアル通りに実施することすら不可能な状況である。今回の2017年の改訂版ではこの点の技術解説も新たに加えて、関係業界向けの参考となるように編集した。本レポートがZEVの拡大期において、安全性面で資することができれば幸いである。
構成および内容
1章 安全性試験規格の概要
1.1 事故の発生、電池(セル)と電池応用製品
事故の件数カウント/危害(ハザード)の原因/小型で高容量の電池/中型で高性能の電池/
安全性試験の必要性/要求事項のクリア/試験項目と試験数/安全性試験の周辺/
応用製品との関係/材料>電池>リサイクルの流れ
1.2 安全性試験の設定と電池事故の再現
電池事故の再現(1)予防策の基礎データ/電池事故の再現(2)破壊試験/電池事故の再現
(3)定格値との整合性/試験と内容設定の経緯
1.3 法規制、認証システムとガイドライン
応用分野での区分/日本と米国の違い/応用分野と安全性/原材料>電池>リサイクルの流れ
1.4 製品規格、測定規格と安全性試験規格の関係
製品規格、寸法・電圧・容量など/諸規格の連動/生産、流通と販売/
ULほかの認証システム/輸送関係のUN
1.5 各種規格の相互関係と互換性
安全性試験規格の互換性/JISとIECの互換性/互換性の実体、規格の完成度/
ULなどの互換システム
1.6 品質保証と製造物責任 PL/品質保証/製造物責任 PL
2章 JIS規格と電気用品安全法
2.1 リチウムイオン電池(セル)におけるJISの経緯
開発・普及と規格の経緯/ガイドラインとJISの制定/電気用品安全法/最新のJIS規格/
試験条件などで一律に決め難い点/安全性規格の活用/JIS規格の分担(1)/
小型リチウムイオン電池の安全性/JIS規格の分担(2)/セル、モジュールとユニット/
自動車用途のJIS
2.2 最新のJIS C 8715-1(基礎特性)とC 8715-2(安全性)
路上走行車を除く/新JISの運用(1)/新JISの運用(2)
2.3 新JIS C 8715-2の安全性試験と要求事項
最新のJIS規格/JIS C 8715-2 安全性試験の内容と特徴/JIS制定の経緯/
産業用リチウムイオン電池への適用/JIS C 8715-2 安全性試験の内容と特徴(1)/
JIS C 8715-2 安全性試験の内容と特徴(2)/関連する技術情報
2.4 電気用品安全法と最近の運用
2008年施行の基準/PSEマーク/電気用品安全法の改正/省令の解釈変更/
経済産業省令第三十四号/大型電池への適用
2.5 認証システムへの移行
認証システムとマーク/JISの機能/国内エネルギー政策のバックアップ/
JISの認証制度への移行
3章 UL規格と製品認証システム
3.1 ULの業務と役割
3.2 電池および電池応用製品のUL
電池関係UL規格一覧/ULの範囲と範囲外SCOPE
3.3 UL1642の試験内容と改訂動向
規格制定の経緯/対象となる電池/UL1642の試験内容/試験項目の分類と内容/
各試験の条件/POUCH外装セルの追加/スマートフォンの電池/UL1642の改訂動向/
改訂版への採否/改訂後の項目の細分化
3.4 応用製品別のUL規格
3.5 ULおよびTUVの利用事例
3.6 資料(試験項目一覧、英文)
4章 UN規格(国連危険物輸送基準勧告)
4.1 UNの危険物輸送とClass_9
輸送ラベル表示
4.2 安全性試験の内容(T1~T8)
区分のマグニチュード/UNの安全性試験の特徴/安全性試験T1~T4(PartⅢ.38,3)/
安全性試験T5~T8(PartⅢ.38,3)/他の安全性規格における準用
4.3 国内外の輸送関係規制との整合性
関連情報ソース/国内法と国際協定
4.4 リチウムイオン電池の輸送実務
輸出手順
5章 電池(セル・モジュール)輸送関係の実務
5.1 UN危険物輸送基準勧告とICAO、IATA
輸出入の状況/船舶および航空機による国際輸送/UN危険物輸送基準勧告(オレンジブック)/
輸送時の詳細な区分とラベル/ラベル類
5.2 輸送のカテゴリー(国内、国際、郵便、宅配)
種々のケースの輸送の扱い/国際宅配便/電池のみの航空機輸送/国内郵便の扱い/
国際郵便の扱い/国内の宅配便
5.3 船舶安全法とIMO
船舶安全法での扱い/船舶安全法の手順
5.4 輸出の準備手順と書類等
輸出の手順/輸送時の添付資料/MSDS/危険物申請書/船舶での輸送
5.5 電池サンプルの輸送
預ける荷物入れる/出国と入国・通関/MSDSやCertification/活きている電池/
電池のみの航空機輸送/専門業者に委託/国際宅配便DHLの輸送手順/国際宅配便DHLの取扱
5.6 廃電池の処理と安全性
3R(レデユース、リユース、リサイクル)/関連の法規/3R促進法/コスト負担と転嫁/
事前の措置/廃電池の安全性/バーゼル法など国際的な移送
6章 EV用電池の安全性と試験規格
6.1 EV用リチウムイオン電池(セル)
6.1.1 EV、PHVの航続距離と電池容量
EVにおける500km/EVは走る蓄電地/電費エネルギーコスト/
PHVとのバランス/燃料電池車FCV/電動車両の効率/効率の目標
6.1.2 主要EV、PHVの電池システム
中国のBYD/鉄リン酸リチウムLFP/HVのニッケル水素電池/PHVのリチウムイオン電池/
EVのリチウムイオン電池/セルとモジュールの比重
6.1.3 電池(セル)の正負極材料
電流密度の問題/セルの内部抵抗(1)/セルの内部抵抗(2)/実用への総合対策
6.1.4 セル、モジュール(パック)とユニット
出力インピーダンス試算/ラミネート型電池
6.1.5 充放電動作(パワー、エネルギー、SOCと回生)
電池ユニットの容量1/電池ユニットの容量2/SOC幅と中心SOC1/
SOC幅と中心SOC2/リチウムイオン電池(セル)設計との関係
6.1.6 電池システムのレイアウトと冷却
6.2 EV用電池の安全性規格の概要
6.2.1 安全性試験の周辺状況
危険な領域/中間の領域
6.2.2 安全性試験の概要と相互関係
6.2.3 EVなど大型電池の試験規格
用途分野/EVを特定/試験評価の項目/単電池と組電池/電池システム
6.2.4 セル、モジュールとユニット
6.3 UL規格(UL2580ほか)
6.3.1 リチウムイオン電池関係UL規格
汎用機器のリチウムイオン電池(セル)
6.3.2 EV電池システム規格UL2580
試験項目全19項/一般的な試験1/一般的な試験2/機械的試験/環境試験
6.3.3 ULなど認証試験のポジション
A.B.C.とD.損害賠償/自動車の場合
6.4 UN/ECER100電気自動車駆動系
R100の概要/WP29(自動車基準調和世界フォーラム)/UNECEの試験項目
6.5 IEC、ISOほか関連規格
パワーとエネルギー・タイプ/リスクとハザード/電動車両/英文規格の和訳1/英文規格の和訳2
6.6 中国GB/T2015
中国のEV用規格/規範としての扱い/規範の運用/電池のタイプ/試験の対象と構成/
要求事項/試験終了後の絶縁抵抗/電池システムとしての評価/nS直列、nP並列/
安全性試験おける監視ポイント1/監視ポイント2/監視ポイント3/安全性の規格とEV事故の現状
6.7 日本のEV、PHVと安全性
6.7.1 日本製EVの台数と普及
自動車メーカーの車種別シェアー/安全性試験の実施
6.7.2 路上走行車を除く(JISC8715-1,-2、電気用品安全法)
自動車用途のJIS
6.7.3 完全互換と相互乗り入れ(参考)
リチウムイオン電池の規格/EVにおけるJISとIEC
6.8 大型LiBの設計、製造と安全性
図中の*マークと注意点/生産の律速段階/生産管理と運用/原材料の異常/
工程管理、中間検査と最終検査/製品出荷とリスク/電池の用途分野/EVを特定した規格/
試験評価の項目/単電池と組電池/電池システム/ハザードとリスク
6.9 大型EV電池の試験設備例
開発プロセスと技術ノウハウ/試験設備の紹介
6.10 6章のまとめ
電気的な試験/E1~E6短絡試験/E1~E6外部の制御回路/外部応力下での試験/
メカニカルな安全対策/外部からの加熱と冷却/どの規格に準拠するか/安全なEVの完成
7章 安全性試験の技術的な背景
7.1 安全性試験の技術的な背景
7.2 安全性(認証)試験までのステップ
安全性確保のステップ/試験規格制定の難しさ/本質的な安全性確保/品質保証と安全性/
安全性認証の意味するもの/安全性と材料・設計と運用
7.3 電池(セル)設計と安全マージン
安全マージン/A/C比/正負極の電位/負極電位の上昇
7.4 試験における電池(セル)へのストレス
試験内容との関係/電気(化学)的な試験/機械的な試験/安全性試験の条件と役割/
電解液へのストレス
7.5 加熱、発熱と安全性
熱暴走
7.6 (強制)内部短絡と釘刺試験
内部短絡試験/釘刺試験/ゲル電解液による内部短絡防止/セルの外装材と電極構造
7.7 破壊試験、過酷度および時間の設定
安全性試験は破壊試験/時間の経過と安全性/試験の過酷度合い(1)/試験の過酷度合い(2)
7.8 ハザードレベル
ハザードレベル/EUCARのハザードレベル(HL)/ハザードレベルの進行概念図/
分解ガスとセル内圧/応用展開
8章 全体のまとめ
8.1 安全性へのポテンシャルイメージ
企業・メーカーのアクション/ビジネスと安全性/業種間の安全性情報
8.2 安全性とコスト
参考資料
資料1 安全性の事例研究(1)ボーイング787機
1.運輸安全委員会報告(2014/09/24)/2.運輸安全委員会のHPの記載の航空重大インシデントの概要とアクション/3.今回のセルに関するJISC8714試験項目一覧/4.メインバッテリーの概要/5.セルの事故原因推定のマッピング/6.事故原因推定マッピング関係の説明図
資料2 安全性の事例研究(2)EV(米国内の規制と事故(想定の内と外))
1.高速道路などでのEV規制/2.EVの事故、トラブルはEVの普及を阻害する/3.滞留・蓄積したガスへの引火・爆発は?/4.EV車のリチウムイオン電池の発火(ボルト車の試験事例)/5.事故などで短時間に発生する現象、時間経過と共に現れる現象
資料3 安全性試験等の受託と認証機関
1.試験の委託と認証/2.工業製品としての安全性/3.受託試験機関と受託企業/4.日本の状況/5.訴訟や損害補償/6.EV関係の試験アイテム/7.UL、TUVとCSA/8.国内自動車メーカーと電池メーカー/9.試験装置の開発と標準化/10.化学安全性からのアプローチ/11.研究開発との連系