植物工場は、天候に左右されずに年間を通して高品質な野菜や花などの作物を計画的・安定的に生産することができる画期的な植物生産システムである。農業人口の高齢化や、近年の異常気象に伴う豪雨など相次ぐ大規模災害の影響により、作物の安定した供給が求められている。また、消費者の安全・安心な食料への意識の高まりにより、今まさに植物工場は、高付加価値の農作物を生産・供給する場として発展が期待されている。
とくにLEDを採用した人工光型の植物工場は、植物生育に有効な多種の波長の素子を作り出すことが可能であり、生産施設向けの植物用光源の販売も行われている。近年は大手電機メーカーから食品メーカーまで様々な企業が参入し、各社の強みを生かした生産がおこなわれている。
本書は、ご好評を受けて『アグリフォトニクス-LEDを利用した植物工場をめざして―』(2008年発行)、『アグリフォトニクス?-LEDを中心とした植物工場の最新動向-』(2012年発行)に続く第3弾の書籍となっている。日本国内で精力的に進められている「LEDと植物育成」をテーマに、今回も、植物反応を詳細に調べる基礎研究、生産現場を見据えた栽培試験、植物育成用照明装置の開発、照明装置の応用、LEDを用いる植物工場の実際まで幅広い内容をまとめ、最新のデータを加えた内容となっている。
目次
【総論編】
第1章 光と植物工場
1 はじめに
2 植物工場の種類
3 植物工場の光源
3.1 人工光型
3.2 太陽光型
4 LEDの活用場面
5 植物に作用する光の波長域
5.1 光源
5.2 植物
6 植物の光に対する反応
7 植物が光質を認識する方法
8 光質のパラメータ
8.1 B/R比とR/B比
8.2 R/FR比
8.3 フィトクロム光平衡φ(Pfr/P)
8.4 UVの強度
9 植物育成用光源としてのLED利用の留意点
9.1 波長別のエネルギーと光量子数
9.2 白色LED
第2章 植物工場の現状と将来
1 はじめに
2 植物工場開発の歴史
3 植物栽培に必要な光技術
3.1 植物栽培用光源
3.2 野菜の栽培光源としてのLED
4 光学センシングを用いた植物の栽培制御
4.1 植物工場における光学センシング技術
4.2 植物工場における環境センシング
4.3 植物の生育モニタリング
5 植物工場技術の今後の展開
第3章 人工光環境と植物の光合成
1 はじめに
2 光強度と光合成
2.1 光強度のメトリクス
2.2 光-光合成曲線
2.3 光強度の履歴効果
3 光質と光合成
3.1 光質の評価法
3.2 光合成作用スペクトル
3.3 単色光の交互照射
3.4 光質の履歴効果
4 植物の光合成評価法について
4.1 光合成速度の評価法
4.2 ガス交換速度測定
4.3 クロロフィル蛍光測定
4.4 分光反射測定
4.5 成長速度解析
【LEDの照明技術 編】
第4章 植物育成用白色LEDの開発と応用
1 はじめに
2 白色LEDの発光方式
3 植物育成用白色LEDの開発
4 植物育成に適した照明器具
4.1 閉鎖型植物工場用照明
4.2 補光用照明
5 おわりに
第5章 3波長ワイドバンドLEDの光質における植物の高付加価値化
1 はじめに
2 青色光によるレタス着色の促進について
3 白色光による密接栽培マイクログリーンの効率的生育技術
4 光質がアイスプラント「ツブリナ」の生育に与える影響
5 健康食品事業へ
5.1 ストレス負荷栽培環境技術
5.2 アイスプラント「ツブリナ」の健康食品事業化
6 おわりに
第6章 高付加価値高栄養・機能性野菜生産を可能にする植物工場用LED照明技術
1 はじめに
2 植物工場用LED照明に求められる性能
3 エネルギー効率の重要性
3.1 蛍光ランプ
3.2 発光ダイオード(LED)
4 放熱設計の巧拙がLEDの寿命に与える影響
5 未病改善高栄養・高機能性野菜生産技術の実用化(代謝産物生合成量制御)
6 野菜摂取による健康増進と植物工場産野菜の特徴を活かしたニッチ市場創出の可能性
第7章 LED照明による成長促進効果を最大限に引き出す技術
1 はじめに
2 植物栽培用LED照明による成長促進効果
3 成長促進の結果発生する生理障害(チップバーン)の問題
4 LED照明による栽培に適した培養液処方の開発
5 おわりに
【植物栽培ランプと高輝度放電灯 編】
第8章 植物栽培ランプ
1 はじめに
2 栽培中の植物への紫外線照射により病害を抑制するランプ「UV-B電球形蛍光灯反射傘セット」
2.1 UV-B電球による病害抑制について
2.2 UV-B電球の設置導入実績のある植物について
2.3 草丈伸長植物へのUV-B照射について
2.4 UV-B電球によるその他の効果について
3 植物栽培ランプに関するその他の取り組み
3.1 苗栽培に関する取り組み(紫外線付加Hf蛍光灯)
3.2 植物の栽培期間の短縮に貢献するランプ「植物工場用LEDランプ」
3.3 きのこ栽培に関する取り組み(LDモジュール)
4 おわりに
第9章 高輝度放電灯(高圧ナトリウムランプ)
1 はじめに
2 光とは何か
3 光の強度を表す単位
3.1 照度
3.2 光合成有効光量子束密度
3.3 光合成有効光量子束と効率
3.4 放射照度
4 さまざまな光源の種類と特徴
5 高圧ナトリウムランプの歴史と技術
5.1 歴史
5.2 技術
6 LEDとの比較
7 ナトリウムランプの設置について
8 高圧ナトリウムランプの効果
8.1 韓国の晋州における試験
8.2 北海道サラダパプリカ?における事例
9 おわりに
【植物工場 編】
第10章 玉川大学LED植物工場─Sci Tech Farm「LED農園」
1 はじめに
2 ダイレクト冷却式ハイパワーLEDの採用
3 多段式水耕栽培システムの採用
4 クリーンな栽培環境
5 自動栽培システム
6 ICTの導入
第11章 大阪府立大学における植物工場の基盤研究─生体計測・制御技術
1 はじめに
2 大阪府立大学植物工場研究センター
2.1 研究センターの設置
2.2 量産実証研究棟
2.3 量産実証研究の第2フェーズ
3 次世代ソフトウェアと生体計測・制御技術
4 数理科学・情報学的アプローチによる生体計測・制御技術の開発
4.1 植物栽培における概日リズムの普遍性
4.2 成長予測技術(優良苗診断技術)
4.3 生産安定化技術
4.4 環境最適化技術
5 今後の展望
【植物工場の照明技術 編】
第12章 温室における補光栽培
1 農業生産現場における補光技術
2 光合成促進を主目的とした補光の照明方法
3 補光における理想的な照明方法とは?
4 作物栽培現場で用いられている各種人工光源の特性
5 LEDを利用した補光栽培技術とその可能性
5.1 光質による野菜や花の開花制御
5.2 人工光利用による植物の代謝制御
6 最後に
第13章 電照補光による花きの開花調節─電照によるキクの花成抑制事例を中心に─
1 はじめに
2 光周性花成反応による分類
3 日長調節の方法
4 花成決定の鍵因子:フロリゲンとアンチフロリゲン
5 ゲート効果
6 キクの光周性花成のしくみ
7 キクの暗期中断を認識する光センサー
8 おわりに
第14章 矩形パルス光照射がレタス個葉の純光合成速度に及ぼす影響
1 はじめに
2 パルス光照射実験手法
2.1 パルス光作出手法
2.2 純光合成速度測定手法
3 パルス光下の光合成
3.1 連続光下の純光合成速度に基づく計算
3.2 光合成中間代謝産物の生産と蓄積
3.3 光合成中間代謝産物とLightfleck(陽斑)下の光合成
3.4 パルス光下の光利用効率
3.5 パルス光下の個葉光合成モデル
4 パルス光が純光合成速度に及ぼす影響
4.1 パルス光下のコスレタス葉の純光合成速度
4.2 パルス光下のコスレタス以外の植物の純光合成速度
4.3 パルス光下/連続光下の植物の純光合成速度比較と植物栽培へのパルス光利用
5 人工光植物栽培における調光としてのパルス光利用
第15章 分光分布制御型LED人工太陽光光源システム
1 はじめに
2 ハードウェア構成
3 LEDモジュールの概要
4 任意の分光放射照度分布(SID)の光の作出法
5 ソフトウェア構成
5.1 電圧-SIDデータベース取得
5.2 最良近似SID決定
5.3 作出光照射
6 光源システムによる作出光
7 おわりに
【高機能植物の生産 編】
第16章 光環境制御による葉菜類の機能性向上
1 はじめに
2 レタスの機能性向上技術
3 ハーブ類の機能性向上技術
4 葉菜類の光応答メカニズムの解明
5 おわりに
第17章 光環境制御による薬用植物の生産と機能性向上
1 はじめに
2 人工光型植物工場での栽培に適した品種の選抜
3 ビンドリンおよびカタランチンの生産に好適な光環境条件の探索
4 UV-A補光照射によるビンブラスチンの生産
第18章 紫外線照射によるファイトケミカル合成の促進
1 はじめに
2 ファイトケミカル
3 UVとファイトケミカル
4 赤系リーフレタス
4.1 紫外線LEDを用いた試験
4.2 UV照射下のアントシアニン生合成遺伝子の発現
4.3 UV照射下のアントシアニン含有量と抗酸化能
5 ハッカとモロヘイヤ
5.1 ハッカ
5.2 モロヘイヤ
6 さいごに
【付録】
植物用LED照明器具特性表のガイドライン
1 はじめに
2 背景
3 留意点
4 特性表