世界各地で頻繁に起こり始めている異常気象現象は、地球温暖化が原因と考えられている。地球温暖化の人類にもたらす脅威は現実のものとなりつつある。2015年のCOP21(パリ協定)では、世界のほとんどの国が集まり、すべての締約国は、地球の温度上昇を産業革命前から2℃上昇より下方に抑え(2℃目標)、さらに1.5℃上昇まで抑えるよう努力することに合意した。日本は、CO2の排出量を2030年には2013年比26.0%減にする中期目標を掲げている。さらに日本を含む世界の主要排出国は、長期目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すことに合意している。
一方、先進国のエネルギー需要は、省エネルギーにより僅かに減少してはいるが、新興国の経済発展は著しく、エネルギーの需要は急速に増加し、石油の需要は増加している。安価な石炭の需要もなくならない。CO2を削減するには、CO2を発生する化石資源は使わずに残さなければならない。しかし、そのためには再生可能エネルギーが安価に多量に供給されなければならない。バイオマスは資源的に多くなく、エネルギーとして大量に用いると自然破壊につながる恐れがある。太陽電池が一部普及し始めたが、現状では、安価に多量に供給できる状況にはない。CO2を地下に埋設貯蔵するCCSは、量的に制限があることと本当に安全か疑問である。その中で唯一、可能で実際的な解決策は、CO2の排出量の少ない天然ガス(メタン)の利用である。幸いなことに天然ガスは、米国のシェールガスだけでなく世界的に埋蔵され、石油の数倍はあることが確認されている。いずれ今世紀後半か22世紀までには水素社会の到来を実現しなければならない。エネルギーとしては、再生可能エネルギーの供給が可能になる前に、まず、安価でCO2の排出量の少ない天然ガスを用いなければならない。また、化学品原料としてもCO2排出量の少ない天然ガスを用いなければならない。更に、二酸化炭素をCCSで削減するのではなく、CCUによって再利用しなければならない。来るべきCO2フリーの世界を目指してCO2の有効利用を図るには、CO2の還元剤としての水素の製造が必須である。そのためには下記の3つの技術開発を急がなければならない。
1)天然ガスの利用(CO2排出量の抑制)、2)CO2の利用(CCU)、3)安価なCO2フリーの水素の製造
絵に描いた餅のような技術ではなく現状の工業触媒技術の観点から実現可能な最新の技術開発動向をまとめた。次世代につながる技術が開発されることを願ってやまない。
室井髙城
構成および内容
第Ⅰ編 エネルギー・化学原料戦略
第1章 エネルギー資源原料の変化
1. 多様化するエネルギー資源
2. 世界のエネルギー雼要予測
3. 日本のガソリン雼要量とナフサ生産量
4. 石油資源
4.1 オイルピーク
4.2 米国の石油の供給
5. 石炭資源
5.1 世界の石炭資源
5.2 中国の石炭化学
6. 天然ガス
6.1 シェールガス
6.2 シェールガスの世界の確認埋蔵量
7. 世界の天然ガス資源
7.1 天然ガス埋蔵量
7.2 メタンハイドレード
8. 再生可能エネルギー
8.1 米再生可能エネルギー見通し
8.2 再生可能エネルギー価格
第2章 シェールガス革命
1. 米のシェールガス
2. 天然ガス価格
3. シェールガスの輸入
4. 北米回帰
4.1 メタノール
4.2 アンモニア
5. 天然ガス原料エチレン価格
6. 米のエチレンプラント
6.1 新規エチレンプラント
6.2 輸出されるエチレン誘導体
7. 不足するプロピレン、ブタジエン、芳香族
7.1 エタンクラッカーとナフサクラッカーとの違い
7.2 プロピレン、ブタジエン、芳香族の需給バランス
参考文献
第Ⅱ編 メタン戦略
第1章 メタンの利用
1. メタンケミストリー
1.1 CO2発生量
1.2 メタン原料化学品
1.3 メタンの直接利用
2. メタンの活性化
2.1 メタンの活性化触媒
2.2 標準生成自由エネルギー
2.3 標準生成熱
2.4 メタンのベンゼン、ナフタレン平衡値
3. メタンから芳香族の合成反応
第2章 メタンから化学品の製造
1. メタンから燃料油
2. メタンの脱水素二量化
3. メタンの酸化二量化(OCM)
3.1 OCM触媒
3.2 イラン石油研究所
3.3 BHPプロセス
3.4 ナノファイバー触媒によるOCM
3.5 電場中でのOCM
3.6 OCMパイロットプラント
3.7 選択CO 酸化による分離
4. メタンからプロピレンの合成
4.1 ハロゲン化メタン経由
4.2 メタンのNO酸化によるプロピレン
4.3 メタンとエチレンからプロピレン
5. メタンの脱水素環化
5.1 メタンからベンゼンの合成
5.2 メタンからエチレン、ベンゼン、ナフタレン
6. メタンから酢酸の合成
6.1 メタンの酸素酸化による酢酸の合成
6.2 メタンの硫酸酸化による酢酸の合成
6.3 メタンの酸化カルボニル化による酢酸
6.4 メタンとCO2から酢酸の合成
7. メタンからアセチレンの製造
7.1 部分酸化によるアセチレン
7.2 アセチレンケミストリー
7.3 メタンとアセチレンからイソブテン
7.4 メタンとCO2、アセチレンから酢酸ビニルの合成
第3章 メタンからメタノールの直接合成
1. メタンの直接酸化によるメタノール
2. CuOx/Zeolite によるメタン酸化
3. メタンの硫酸酸化によるメタノール
4. メタンの過酸化水素酸化によるメタノール
5. メタンのN2O酸化によるメタノール
6. メタンのNO酸化によるメタノール合成
7. メタンの硫酸酸化によるメタノールと酢酸
8. 計算科学によるCu/AEI ゼオライト
9. メタンの無触媒酸化によるメタノール合成
10. ホルムアルデヒドからメタノールの合成
11. メタン酸化によるホルムアルデヒドの合成
11.1 金属酸化物によるメタンからホルムアルデヒド
11.2 12-モリブド珪酸/SiO2によるホルムアルデヒド
11.3 メタンのダイヤモンド担体によるメタン酸化
第4章 膜分離技術
1. 高温耐久膜
2. 膜分離触媒層
3. 共イオン膜触媒によるMDA
参考文献
第Ⅲ編 合成ガス戦略
第1章 合成ガス
1. メタンの水蒸気改質
1.1 メタンの水蒸気改質プラント
1.2 SRとATRの組み吅わせ
2. Auto Thermal Reforming(ATR)
2.1 ATR(Auto Thermal Reforming)の開発
2.2 AATG (Advanced Auto Thermal Gasification Process)
3. 迅速部分酸化による合成ガスの製造
3.1 メタンの迅速部分酸化
3.2 ConocoPhillips
3.3 千代田化工
4. 改質ガスH2/CO比
5. 水素分離膜による水素製造
第2章 FT合成
1. FT(フィッシャー・トロプシュ)合成
2. FT 合成反応
3. FT 合成プロセス
3.1 Sasol
3.2 Shell SMDSプロセス
3.3 FT合成プロセスの導入
3.4 国内の開発状況
4. 小型FT合成プロセス
4.1 FTプラント設備投資
4.2 Compact GTL社
4.3 Velocys社
4.4 小規模FT合成プラントの実証
4.5 小規模FT合成プロセスの応用と開発
5. 選択的燃料油の合成
5.1 選択的FT合成
5.2 ZSM-12によるC5+
5.3 Ru/meso-ZSM-5によるC5~C11
5.4 メタノール合成触媒とPd/ZSM-5のタンデム反応器によるC5~C11
5.5 ラネーFeによる選択FT合成
5.6 結晶サイズの制御による選択FT合成
6. 合成ガスからLPGの合成
第3章 合成ガスから化学品の合成
1. C2~C4 オレフィンの合成
1.1 ナノFe触媒
1.2 炭化コバルト四角形ナノプリズム触媒
1.3 CuZn-ZSM-5によるC2~C4オレフィンの合成
1.4 ZnCr-MSAPO
2. 合成ガスからエチレンの合成
3. 合成ガスからエタノールの合成
3.1 Rhによるエタノール合成
3.2 古細菌によるCOからエタノールの合成
3.3 都市ごみガス化炉ガスからエタノールの合成
4. 合成ガスからp-キシレン
5. エチレングリコール
6. ジメチルカーボネート
参考文献
第Ⅳ編 メタノール戦略
第1章 メタノールの利用
1. メタノールから燃料の合成
1.1 MTGプロセス
1.2 MTGプロセスの実績と計画
2. メタノールからエチレン、プロピレンの合成
2.1 メタノールからエチレンプピレン製造プロセス
2.2 DMTOプロセス
2.3 UOP MTOプロセス
2.4 MTO反応機構
2.5 中国MTOプラント
3. メタノールからプロピレンの合成
3.1 MTPプロセス
3.2 DTPプロセス
3.3 流動層プロセス
4. メタノール経由ライトオレフィンコスト
5. 米国シェールガス由来のメタノール利用軽質オレフィン
6. メタノールからC3~C4オレフィン
7. メタノールから芳香族(MTA)
7.1 中国MTAプラント
7.2 バクー大学
7.3 中国MTAフラント計画
8. メタノールから化学品の合成
8.1 エチレングリコール
8.2 酢酸
(1) メタノールのカルボニル化
(2) 酢酸メチル経由酢酸の合成
8.3 エタノール
(1) TCXプロセス
(2) DICPエタノールプロセス
(3) 酢酸メチルの水素化分解によるエタノール
8.4 酢酸ビニル
8.5 p-キシレン
参考文献
第Ⅴ編 二酸化炭素戦略
第1章 CO2の分離回収
1. CO2削減
2. CO2発生量と発生源
3. CO2回収技術とCCSコスト
3.1 CO2合成方法
3.2 CO2合成コスト
3.3 大気中のCO2捕集コスト
3.4 炭素価格
3.5 CCSコスト
3.6 CO2生成避コスト
3.7 炭素税
(1) 日本の炭素税
(2) 海外の炭素税
(3) 米国の炭素税クレジット
第2章 CCSの現状
1. CCS (Carbon dioxide Capture and Storage)
2. 世界のCCS
3. 日本でのCCS
4. EOR (Enhanced Oil Recovery)
5. 炭酸ガスハイドレートによる貯蔵
6. CCSの課題
7. CarbFix
8. 気硬性セメント(Non-hydraulic cement)
第3章 CO2から合成ガスの製造
1. ドライリフォーミング(DRM)
1.1 ドライリフォーミング反応
1.2 ドライリフォーミング触媒
1.3 ドライリフォーミングの実証試
1.4 DRM 商業化プラント
1.5 SMRとDRMとの組み吅わせ
1.6 オートサーマルドライリフォーミング
2. CO2のCOへの還元
2.1 シフト反応
2.2 逆シフト反応(RWR)
2.3 逆シフト反応触媒
第4章 CO2のメタン化
1. 再生可能エネルギーの利用
2. Power to Gas
3. CO2と水素からメタンの合成
4. CO2のメタン化触媒
5. Power to Gas によるメタンコスト
第5章 CO2からメタノールの合成
1. メタノールの合成
2. メタノール合成におけるCOとCO2の違い
3. CO2によるメタノール合成触媒
4. メタノール合成反応機構
5. 新規メタノール合成触媒
5.1 Au修飾CuZnOx触媒
5.2 In2O3/ZrO2触媒
6. CO2からのメタノール合成プラント
6.1 ベンチ試験結果
6.2 メタノール合成実証パイロットプラント
6.3 余剰水素とCO2によるメタノール増産プロセス
7. 液相懸濁層
7.1 親水性溶媒の利用
7.2 有機水和物との反応による方法
8. 液相均一系によるメタノール合成
9. CO2からギ酸エステル経由メタノールの合成
10. CO2からメタノール合成工業化プラント
11. 大気中CO2からメタノールの合成
12. 炭素循環
第6章 CO2を用いた燃料の合成
1. CO2を用いたFT合成
2. Fe3O4/HZSM-5
3. Fe2O3/MCM-22
4. In2O3/HZSM-5
5. CO2とメタンからDME
6. CO2からLPG の合成
第7章 CO2から化学品の製造
1. CO2からエタノールの合成
1.1 エタノールの平衡収率
1.2 Rhによるエタノール合成
1.3 FeCuZnKによるエタノール合成
1.4 PdCuNPsによるエタノール合成
1.5 Fe/カーボンナノチューブによるプロパノールの合成
1.6 均一系触媒によるエタノール合成
2. 酢酸の合成
3. CO2からC2~C4の選択合成
4. CO2から軽質オレフィン
5. 芳香族の合成
5.1 Feナノ触媒
5.2 ZnAlOxとHZSM-5混合触媒
6. アクリル酸の合成
7. ギ酸
8. 新たなC1 ケミストリー
第8章 電解によるCO2の還元
1. NEDOプロジェクト
2. 3M
3. 東京工業大学
4. 光触媒
4.1 光触媒によるCO2の還元
4.2. 光触媒によるCO2 からギ酸の合成
第9章 発酵法によるCO2の資源化
1. 古細菌
2. LanzaTech
3. 都市ごみの利用
4. Algenol Biotech社
第10章 CO2を用いたポリマーの合成
1. ポリアルキレンカーボネート
2. ポリエチレンカーボネート
3. ポリプロピレンカーボネート(PPC)
4. ポリカ―ボネート
4.1 エチレングリコール併産法
4.2 フェノール直接法
5. ヒドロキシポリウレタン
6. CO2とメタノールから炭酸ジメチルの合成
7. CO2とジオールからポリカーボネートの合成
8. CO2によるHDI の合成
第11章 CO2を用いた化学品の製造コスト
1. CO2による化学製造コスト
2. 前提条件
2.1 CO2使用量
2.2 原料コスト
2.3 設備コスト
2.4 間接費他
2.5 化学品コスト(市場価格)
3. メタノール製造コスト
3.1 CO2と水素からメタノールを合成する場合
3.2 ドライリフォーミングでメタノールを合成する場合
4. 酢酸製造コスト
5. エタノール製造コスト
6. 採算水素コスト
参考文献
第Ⅵ編 水素戦略
第1章 水素の製造
1. 水素製造
2. 電解水素
2.1 電解水素価格
2.2 アルカリ電解
2.3 固体高分子水電解(PEM)
2.4 固体酸化物形電解(SOEC)
2.5 PEM、SOEC電解水素コスト
3. メタン分解による水素製造
3.1 メタン分解
3.2 溶融金属によるメタン分解
3.3 メタンの接触分解による水素製造
3.4 鉄鉱石触媒
3.5 メタンのプラズマ分解による水素製造
3.6 メタンのマイクロウェーブによる水素製造
3.7 メタンの水蒸気改質による水素収率との比較
4. 光触媒による水素製造
4.1 光触媒
4.2 人工光合成
4.3 半導体光触媒
第2章 水素の貯蔵・輸送
1. 有機ハイドライド
2. メチルシクロヘキサン
3. アンモニア
4. 液体水素
参考文献