従来のセラミックスコーティング、無機材料成膜技術も新規材料の開発やプロセス条件の最適化により用途が広がっていくと見られる。しかし、過去10年間にわたる当研究センターへの技術相談件数や内容からも、エネルギー関連部材や省エネ関連部材を中心に、おおむね数μm以上の膜厚への要求が多くなると予想され、従来のスパッタリングやCVD、化学溶液法では、コスト面も含め対応困難な領域になる。一方、機能面では数十μm程度の溶融粒子の付着、急速凝固を伴った従来溶射技術では、今後同分野で求められる高度な膜微構造の制御や結晶性制御は困難と考えられる。この様に、今後の市場トレンドからは、膜構造そのものの高度な制御性が要求されるだけでなく、膜厚範囲では従来薄膜技術と厚膜技術の中間領域への要望、耐熱性のない金属材料や樹脂材料への高機能、高密着なコーティングや複合化という点でプロセス温度の低温化が重要な課題になると思われる。実際、本書で取り上げるエアロゾルデポジション(AD)法は、高密着、高強度のセラミックス皮膜が常温形成できる点で、各産業業界から注目されている。
「エアロゾルデポジション法の基礎から応用まで」を出版してから10年ほどたった。この間、日本を取り巻く世界の市場経済や研究開発の状況は目まぐるしく変化した。その中で日本は最終製品での存在感は薄れてはいるものの、部品/部材産業では、依然大きな影響力を持っており貿易黒字のけん引役となっている。自動車、通信・インフラ、エネルギー関連産業では、サプライヤーチェーンのグローバル化はますます複雑に広がっている。このような状況で、AD法のような新規なプロセス技術は、うまく活用できれば固定化したサプライヤーチェーンに変化をもたらすことも考えられ、次世代の部材、部品開発の戦略的製造技術として広範囲の産業分野に貢献できると考えられる。本書が、この様な世界情勢の変化、技術トレンドの中で、読者の方々の一つのヒントになれば幸いである。
目次
【第1編 エアロゾルデポジション法の基礎とメカニズム】
第1章 AD法の基本原理と特徴
1 研究開発の背景
2 AD法の原理と常温衝撃固化現象
2.1 装置構成
2.2 常温衝撃固化現象によるセラミックスコーティング
2.3 常温衝撃固化された成膜体の微細組織
3 AD法成膜条件の特徴と成膜メカニズム
3.1 基板加熱の影響
3.2 原料粉末の影響
3.3 搬送ガス種と膜の透明化
3.4 粒子流の基板入射角度の影響と表面平滑化
3.5 粒子衝突速度の測定
3.6 粒子飛行,基板衝突のシミュレーション
3.7 緻密化メカニズム
4 原料粒子の強度評価
4.1 原料粒子圧縮破壊試験装置
4.2 アルミナ粒子の圧縮試験
4.3 粒子強度と粒径の関係
4.4 粒子強度とAD法における成膜性
5 従来薄膜プロセスとの比較
6 膜の電気・機械特性と熱処理による特性回復
第2章 常温衝撃固化現象
1 常温衝撃固化現象と成膜メカニズムに関する検討
1.1 粒子衝突現象を利用した成膜手法と開発経緯
1.2 類似の粒子固化現象
1.3 常温衝撃固化現象に対する考察
1.4 常温衝撃固化現象での粒子間結合メカニズム
【第2編 エアロゾルデポジション法の高度化技術】
第3章 AD法における配向制御の可能性
1 粒子配向セラミックスの研究背景
2 BLSFsのAD膜と配向性
3 粒子配向BiT-AD膜の物性
4 まとめ
第4章 ファインセラミックコーティング技術
1 はじめに
2 ファインセラミックスとコーティング技術
3 ファインセラミックコーティングとは
4 厚膜の必要性と期待
5 微粒子スプレーコーティング技術
6 厚膜の多機能化・多層化設計
7 設計との融合の試み
8 まとめ
第5章 レーザー援用AD法
1 はじめに
2 学会における圧電膜の研究状況
3 エアロゾルデポジション法
4 エネルギー援用の必要性
5 従来の微粒子を用いた膜形成法とレーザー援用
6 レーザーを用いたエネルギー援用の効果
7 レーザーアニールしたPZT膜/ステンレス基板の特徴
8 レーザー援用AD法のマルチフェロイクス材料への応用
9 まとめ
第6章 ハイブリッドエアロゾルデポジション法
1 はじめに
2 AD法の特徴と課題
3 HAD法のコンセプトとメゾプラズマ
4 プラズマの援用方法並びにシステム
5 HAD法の特徴
6 高速イオンビームおよび直流プラズマ援用AD製膜法によるPZTの形成
7 誘導結合型プラズマ援用AD法によるPZT膜の形成
8 HAD皮膜の微細組織及びプラズマ溶射皮膜との比較
9 まとめ
第7章 大面積製膜技術及び3Dコーティングへの展開
1 膜厚制御・表面平坦化プロセス技術
2 4インチウエハー用均一製膜の検討
3 ロール・ツー・ロールシステム
4 AD法の三次元製膜への展開
5 まとめ
第8章 微細パターニング技術
1 マスクデポジション法による微細パターンニング
2 リフトオフ法による微細パターンニング
第9章 オンデマンド・省エネプロセスへの展開
1 はじめに
2 メタルベースMEMSスキャナーへの展開
3 多品種・変量製造システムへの適用に向けて
4 まとめと将来展望
第10章 ナノ粒子分散複合AD膜の作製
1 はじめに
2 静電相互作用による複合化(静電吸着複合法)
3 集積化技術の応用展開:AD法によるナノ分散型複合膜
3.1 光学特性の制御(紫外・近赤外遮蔽可視光透過膜)
3.2 電気特性の制御(導電性厚膜)
4 おわりに
【第3編 エアロゾルデポジション法の応用技術】
第11章 エアロゾルデポジション法製膜体の半導体製造装置用部材への展開
1 はじめに
2 半導体製造装置用部材への応用について
2.1 半導体製造プロセスにおける課題
2.2 パーティクル発生のメカニズムについて
3 AD法による低発塵性部材の開発について
4 まとめ
第12章 色素増感太陽電池への応用
1 緒言
2 DSCのフィルム化に向けた課題とAD法の応用
3 発電性能を抑制する要因特定
4 原料粉体の構造制御
5 TiO2多孔膜の構造制御およびフィルム型DSCの発電性能
6 フィルム型DSCの製造とアプリケーション例
7 総括
第13章 AD法により成膜した圧電厚膜の特性と振動発電デバイス応用
1 はじめに
2 AD法で成膜した圧電膜の圧電特性
2.1 圧電セラミックス材料の選択
2.2 AD法で成膜した鉛系圧電セラミックスPNN-PZT厚膜の圧電特性
2.3 AD法で成膜した非鉛系圧電セラミックスBaTiO3厚膜の圧電特性
3 ステンレス基板上への圧電形成技術と振動発電デバイスへの応用
3.1 圧電効果による振動発電エネルギー
3.2 AD法による圧電膜形成に適したステンレス基板と圧電特性
3.3 振動発電特性
3.4 発電エネルギー増加の検討
4 まとめ
第14章 ゼオライト膜・アロフェン膜
1 はじめに
2 ゼオライトコーティング膜
2.1 ゼオライトの特性
2.2 AD法によるゼオライトコーティング
3 アロフェンコーティング膜
3.1 アロフェンの特性
3.2 AD法によるアロフェンコーティング
4 おわりに
第15章 プラスチック材料へのエアロゾルデポジションの応用
1 はじめに
2 有機系ハードコート剤と硬さ
3 プラスチック基材向けの無機系ハードコート
4 プラスチック材料へのAD処理
5 プラスチック材料へAD処理した材料の用途と今後の展開
5.1 家電製品筐体
5.2 樹脂グレージング
5.3 建材外装
6 おわりに
第16章 絶縁層,放熱基板
1 はじめに
2 放熱基板用絶縁層の開発概要
3 AD法による電気絶縁層の形成
4 電気絶縁層の評価
5 電気絶縁層の特性
6 電気絶縁特性と機械的特性との関係
7 熱的特性
8 最近の研究開発動向
9 おわりに
第17章 リチウム二次電池への応用
1 はじめに
2 リチウム二次電池の現状と課題
3 全固体リチウム二次電池への期待
4 固体電解質材料の研究開発動向
4.1 無機固体電解質材料
4.2 ガーネット型材料の多結晶体の合成
4.3 ガーネット型材料の単結晶育成
4.4 ガーネット型材料の薄膜合成
5 正極材料の研究開発動向
5.1 層状岩塩型構造
5.2 スピネル型構造
5.3 オリビン型構造
6 エアロゾルデポジション(AD)法の全固体電池への応用
7 今後の展望
第18章 酸化物全固体リチウム二次電池の開発
1 はじめに
2 複合膜構築における出発粒子の影響について
2.1 出発粒子の混合方法の影響について
2.2 出発粒子の表面被覆の影響について
2.3 出発粒子の形状が複合膜組織に及ぼす影響について
3 AD法で作製される電極-固体電解質複合膜を用いた酸化物全固体リチウム電池の開発
3.1 4V級酸化物全固体リチウム電池の開発
3.2 5V級酸化物全固体リチウム電池の開発
4 おわりに
第19章 エアロゾルデポジション法を用いた全固体電池の作製
1 はじめに
2 全固体電池の構成
3 エアロゾルデポジション法用いた正極層の作製
4 まとめ
第20章 熱電素子
1 はじめに
2 実験方法
3 実験結果及び考察
3.1 成膜に及ぼす原料粉の粒径の影響
3.2 酸化物熱電膜の特性に及ぼす熱処理温度の影響
3.3 AD法による熱電素子の作製と評価
4 まとめ
第21章 タービン部材―輻射熱反射機能を有する耐環境性コーティング―
1 はじめに
2 AD膜の結晶配向性に関する報告例
3 Al2O3膜の熱的安定性と熱処理後の結晶配向性
4 Al2O3膜の集合組織形成
第22章 知財動向と分析,実用化への取り組み
1 AD法の特許出願動向
1.1 特許庁電子情報図書館による動向分析(調査期間:~2007年)
1.2 パトリス検索による特許出願動向の詳細分析
1.3 特許庁電子情報図書館による動向分析(調査期間:~2017年)
2 知財出願動向から見た注目されるAD法の応用開発対象
2.1 高絶縁性セラミックス膜としての実用化への試み
2.2 ハイパワーキャパシター応用
2.3 圧電デバイス応用
2.4 高周波デバイス応用
2.5 電気・磁気光学デバイス応用
2.6 ハードコーティングとしての応用
2.7 全固体・薄膜型リチウムイオン電池への応用
2.8 その他エネルギーデバイス応用
2.9 医療部材応用
3 先進コーティングアライアンスの設立とオープンイノベーションへの取り組み