2021年の現在,第一原理計算を主体とする計算科学は大きく発展し,種々の材料特性を計算から予測することが可能になってきている.この第一原理計算を活用し材料探索を行うマテリアルズインフォマティクスが大きな潮流となっている.監修者が第一原理計算を始めた1990年代とは,まさに隔世の感がある.(当時働いていた企業にて第一原理計算を行うための計算環境整備費用の決裁をもらう際に技術担当役員の方から「これは君のおもちゃやな!」と言われても当時は何も言い返せなかったことも,今となっては懐かし思い出である.)
さて,本書は以下の様な構成となっている.
本書一冊で第一原理計算の基礎からマテリアルズインフォマティクス,第一原理計算以外のシミュレーションおよびその応用事例までを網羅している.また,執筆者には,現在マテリアルズインフォマティクスの最先端の研究,応用研究を行っておられる先生方を選定し,ご協力いただいた.第一原理計算の基礎からマテリアルズインフォマティクスの最先端をご理解いただけることと思う.
マテリアルズインフォマティクスにご興味のある方,企業などでマテリアルズインフォマティクスの活用をお考えの方,これからマテリアルズインフォマティクスを学びたい学生さん等は是非ご一読いただければと思います.
構成および内容
第Ⅰ編 第一原理計算
第1章 第一原理計算による電池固液界面の理論計算 萩原 聡,大谷 実
1 はじめに
2 RISM理論およびDFT+RISM法
2.1 RISM理論の概要
2.2 3D-RISM法
2.3 ESM-RISM法
3 電極電位の定義方法と標準水素電極電位
4 まとめ
参考文献
第2章 計算科学を活用した蓄電池研究開発の最近の動向 田中真悟
1 はじめに
2 Liイオン二次電池(LIB)
3 Naイオン二次電池
4 新たな試みとして
5 まとめ
参考文献
第3章 第一原理計算と原子レベル構造解析との連携によるLiイオン電池材料研究 〜マテリアルズ・インフォマティクスの限界と将来展開〜 森分博紀
1 はじめに
2 マテリアルズ・インフォマティクスとその限界と課題
3 代表的なLiイオン電池材料LiCoO2中の粒界の電池特性への影響
3.1 サンプル作成と原子分解能の電子顕微鏡写真
3.2 バンドギャップ,電子伝導への粒界の影響
3.3 電池電位への粒界の影響
3.4 Li伝導への粒界の影響
4 まとめ
謝辞
参考文献
第4章 マグネシウム二次電池正極材料MgCo2−xMnxO4系酸化物の第一原理計算および量子ビームを用いた充放電過程における結晶・電子構造解析 石橋千晶,井手本康
1 はじめに
2 計算方法
3 結果および考察
3.1 放電時Mg1+yCo2O4 の安定構造と電子状態について
3.2 放電時Mg1+yCo1.5Mn0.5O4の安定構造
3.3 Mg1+yCo2O4とMg1+yCo1.5Mn0.5O4の電子状態について
4 おわりに
謝辞
参考文献
第5章 網羅計算による固体電解質材料の探索と全固体リチウム金属電池への応用 谷端直人
1 はじめに
2 リチウムデンドライト抑制に向けた固体電解質の材料探索と網羅計算
3 リチウム塩化物LiAlCl4のメカノケミカル合成と全固体リチウム金属電池への応用
4 おわりに
参考文献
第6章 口密度汎関数法+溶液理論計算を用いたLiイオン電池電極界面での電荷移動過程の解析 春山 潤,池庄司民夫,大谷 実
1 はじめに
2 密度汎関数法+溶液理論計算と電気化学
3 Li脱挿入反応の解析結果
4 まとめ
謝辞
参考文献
第7章 固体電解質材料のハイスループット原子間ポテンシャル構築 小林 亮
1 次世代電池のための固体電解質材料と計算機シミュレーション
2 ポテンシャル構築方法
3 原子間ポテンシャルのハイスループット構築
3.1 ポテンシャル関数
3.2 参照データ
3.3 最適化手法
3.3.1 カッコー探索
3.3.2 適応的探索範囲決定アルゴリズム
4 ポテンシャル構築例:NASICON 型構造LZP
5 おわりに
謝辞
参考文献
第Ⅱ編 インフォマティクス,機械学習,AIを用いた蓄電池研究・開発
第1章 マテリアルズ・インフォマティクスの基礎 中山将伸
1 はじめに
2 マテリアルズ・インフォマティクス概要
3 データと記述子
4 機械学習による回帰分析と予測
4.1 予測式の評価
4.2 機械学習アルゴリズム~主に線形関数への回帰分析について~
4.3 データ分割
4.4 機械学習回帰分析まとめ
5 最適化
6 おわりに
参考文献
第2章 電池開発における種々のMI アプローチの紹介 入江 満
1 はじめに
2 MIによる自律的材料探索
3 ケーススタディ
3.1 ケース1:電解質の添加剤探索
3.1.1 問題設定
3.1.2 代理関数の設定
3.1.3 最適化アルゴリズムの設定および探索
3.2 ケース2:電解質の組成探索(有機分子のスクリーニング)
3.2.1 問題設定
3.2.2 代理関数の設定
3.2.3 最適化アルゴリズムの設定および探索
3.3 ケース3:電極材の化合物探索(無機結晶構造のスクリーニング)
3.3.1 問題設定
3.3.2 代理関数の設定
3.3.2 因子解析
4 おわりに
参考文献
第3章 マテリアルズインフォマティクスを活用した新規有機負極活物質の探索 緒明佑哉,五十嵐康彦
1 はじめに
2 訓練データセットの作成と負極容量予測モデルの構築
3 予測モデルを用いた新規有機負極活物質の探索
4 抽出された新規化合物の実験的な容量向上
5 おわりに
参考文献
第4章 機械学習・深層学習によるリチウムイオン電池の劣化予測 高岸洋一
1 リチウムイオン電池の劣化挙動予測
2 データ駆動型劣化予測モデルの分類
3 ブラックボックス・アプローチの例
3.1 充放電条件から予測するモデル
3.2 時系列データを用いた回帰モデル
4 ホワイトボックス・アプローチの例
4.1 物理モデルをベースとしたデータ同化手法
4.2 深層学習による画像特徴量を用いた予測手法
5 まとめ
参考文献
第5章 全固体電池における材料インフォマティクスを利用した材料探索 山崎久嗣
1 はじめに
2 全固体電池の必要性
3 高イオン伝導性固体電解質の開発
4 材料インフォマティクス手法を用いたイオン伝導体の探索
4.1 データベースからの構造抽出
4.2 相安定性評価
4.3 リチウムイオン伝導性評価
4.4 機械学習による回帰およびベイズ最適化の適用
5 実験結果
5.1 網羅的な相安定性評価とイオン伝導性評価
5.2 情報学統合型材料シミュレーション
5.3 機械学習によるアプローチの詳細
6 まとめ
謝辞
参考文献
第6章 ベイズ最適化による多目的最適化:伝導材料探索における事例紹介 烏山昌幸,田村友幸,設樂一希
1 はじめに
2 多目的ベイズ最適化:人工データによる直感的説明
3 事例紹介
3.1 事例1:Bi2O3
3.2 事例2:LLTO
4 多目的ベイズ最適化:定式化
5 おわりに
参考文献
第7章 情報科学の導入による粒界物性研究の加速 田村友幸,烏山昌幸
1 はじめに
2 DFT原子エネルギーの回帰予測
3 DFT計算による原子エネルギー
4 記述子の選択
5 効率的な訓練データの選択
6 おわりに
謝辞
参考文献
第8章 実験自動化ロボットと機械学習を用いたハイスループット電解液探索システム 松田翔一
1 はじめに
2 マテリアルズインフォマティクスによる電池材料開発
3 電池材料実験の実験自動化・ハイスループット化
4 実験自動化装置を用いた電解液添加剤のコンビナントリアル探索
5 データ科学的手法を用いた電解液添加剤の探索
6 おわりに
参考文献
第9章 富士通におけるマテリアルズ・インフォマティクスを用いた電池材料開発の取り組み 栗田知周,本間健司,實宝秀幸
1 まえがき
2 結晶類似度評価ツールを用いた新規正極材料の探索
2.1 結晶構造類似度の算出(①)
2.2 グラフデータベース作成,および新規結晶材料の推定(②〜④)
2.3 材料推定例
2.4 今後の展開
3 ベイズ最適化を用いた固体電解質の開発
3.1 ベイズ最適化
3.2 実例
3.3 今後の展開
4 おわりに
参考文献
第Ⅲ編 第一原理計算以外のシミュレーション(有限要素法,モデル計算)
第1章 電池開発現場での活用を目指した二次電池シミュレーション技術開発 米田雅一,高山 務
1 はじめに
2 シミュレーション技術の活用と課題
2.1 電池開発の課題とシミュレーションの活用
2.2 シミュレーション活用時の課題
3 LiBのシミュレーション
3.1 LiBの物理モデル(DFNモデル)
3.2 パラメータ決定方法
3.3 検証対象セルと実測データ
3.4 解析結果と分析
3.4.1 パラメータ決定解析
3.4.2 内部抵抗分離解析
3.4.3 内部状態の分析
4 シミュレーション技術の更なる活用
5 おわりに
参考文献
第2章 有限要素法によるリチウムイオン電池・リチウム空気電池の数値解析 佟立柱,小澤和夫
1 はじめに~リチウムイオン電池とリチウム空気電池について
2 有限要素法による二次電池の数値解析
2.1 電池モデリングの概要
2.2 電気化学モデル
3 応用事例
3.1 従来のリチウムイオン電池
3.2 全固体リチウムイオン電池
3.3 リチウム空気電池
4 おわりに
参考文献
第3章 流体シミュレーションを用いた亜鉛電析形態の予測 小野智之,稗田謙志郎,岩田洋典
1 はじめに
2 電析形態の予測アルゴリズム
2.1 流体解法
2.2 電析形態を予測する指標数値(モホロジ数)の定義
3 原理確認セルによる検証
4 おわりに
参考文献
第Ⅳ編 基礎(第一原理計算・機械学習)
第1章 第一原理計算の基礎 野田祐輔
1 はじめに
2 第一原理計算とは何か
3 第一原理計算に関連する理論
3.1 密度汎関数理論
3.2 Kohn─Sham法
3.3 交換─相関汎関数
3.4 Born─Oppenheimer近似
4 第一原理計算の入力パラメータ・計算条件の設定
4.1 物質の構造
4.2 計算条件
4.3 擬ポテンシャル
5 第一原理計算に基づく材料シミュレーション
5.1 一点計算
5.2 構造最適化計算
5.3 状態密度
5.4 バンド構造
5.5 スーパーセル法
5.6 スラブモデル
5.7 遷移状態計算
5.8 第一原理分子動力学計法
6 第一原理計算に関する参考文献
参考文献
第2章 機械学習の基礎 野田祐輔
1 はじめに
2 機械学習とは何か?
3 機械学習の基礎知識
3.1 回帰
3.2 分類
3.3 クラスタリング
3.4 次元削減
3.5 その他の機械学習
3.6 オッカムの剃刀とノーフリーランチ定理
4 機械学習のプロセスにおける基本技術
4.1 データセット
4.2 スケーリング
4.3 回帰モデルの性能評価
4.4 分類モデルの性能評価
4.6 過学習と汎化
4.7 正則化
4.8 アンサンブル学習
4.9 ベイズの定理
4.10 カーネルトリック
5 機械学習のアルゴリズム
5.1 ニューラルネットワーク
5.2 ロジスティック回帰
5.3 決定木
5.4 サポートベクターマシン
5.5 部分的最小二乗法
5.6 k平均法
5.7 DBSCAN
5.8 ガウス混合モデル
5.9 主成分分析
5.10 非負値行列因子分解
5.11 オートエンコーダ
5.12 ベイズ最適化
5.13 マルコフ連鎖モンテカルロ法
6 機械学習に関する参考文献
参考文献