近年、塗膜およびコーティングの高機能化と高品位化に伴い、細部にわたるプロセス制御が求められている。コーティングとは、塗液を液膜へと拡張し、溶剤を乾燥し固着させるプロセスと定義されるが、材料科学では、大きいエネルギー変化を伴う現象として理解できる。よって、プロセスの高精度化には、熱力学や流れ解析、および応力解析などの基礎技術の適用が不可欠である。本書では、濡れの基礎理論から始まり、表面処理、乾燥、加工技術、デバイス応用技術、膜質評価などのコーティングに関する内容について広範囲に概説する。また、各種トラブルの解析手法や事例を多く盛り込んでいる。本書内に掲載した実験データ等の多くは著者が取得した内容であり、測定手法およびノウハウを含めて記載している。日々の開発製造現場における基礎として、本書の内容を役立てていただければ幸いである。
著者
長岡技術科学大学 工学部 電気系 准教授 博士(工学) 河合 晃 氏
<プロフィール>
企業での10年間の電子デバイスにおけるリソグラフィーの研究開発を経て、大学にて表面化学およびデバイス研究に取り組んでいる。特に、コーティング、リソグラフィー、表面・界面・付着・洗浄およびデバイスプロセスを専門とする。学術論文・特許・国際学会・著書は多数。
Photopolymer Science & Technology Award、日本接着学会論文賞・進歩賞などを受賞。
目次
第1章 濡れの基礎理論
1.微小液滴の表面エネルギーとサイズ効果
2.液滴の濡れ性を表す基本式
2.1 接触角の定義式(Youngの式とDupreの式)
2.2 粗い表面での接触角(Wenzelの式)
2.3 異種材質の基板上で接触角(Cassieの式)
2.4 時間経過による接触角変化(Neumannの式)
第2章 表面エネルギーの制御・応用
1.表面エネルギーの分散・極性成分
2.接触角法による分散・極性成分の測定方法
3.拡張係数Sによる塗液の広がり評価
4.拡張係数Sによる液中での塗膜および微粒子の付着評価
5.表面処理による分散と極性成分の制御
第3章 シランカップリング処理の活用方法
1.カップリング剤の化学的性質
2.HMDS処理のプロセス最適化
3.HMDS処理の装置構成
4.HMDS処理による密着性改善
5.HMDS処理による付着性低下
第4章 濡れトラブルの原因・対策
1.液滴のポッピング
2.濡れのピンニング効果
3.塗布膜のピンホール
4.ギャップ内の粘性指状(VF)変形
第5章 塗膜の乾燥メカニズムと制御
1.塗膜の形成
2.塗工液の混合と溶解
3.乾燥プロセスにおけるエネルギー変化
4.溶剤の拡散モデル
5.ラプラス力による塗膜の凝集
6.熱処理による塗膜の硬化
第6章 乾燥装置の機構と性能
1.加熱乾燥
2.赤外線乾燥
3.減圧(真空)乾燥
4.凍結乾燥
5.超臨界乾燥
6.スピン乾燥
第7章 乾燥トラブルの原因・対策
1.クラック
2.ポッピング
3.表面硬化層
4.環境応力亀裂(クレイズ)
5.ウォータマーク
6.乾燥むら
7.液体メニスカス
第8章 接着の原理と基礎理論
1.付着の要因
2.界面の実効付着面積
3.付着界面の相互作用
3.1 原子間力顕微鏡の基本構成
3.2 フォースカーブとファンデルワールス相互作用
3.3 AFM探針の吸着力と固体の表面自由エネルギー
3.4 表面処理層におけるファンデルワールス相互作用解析
3.5 薄膜間の付着強度の推定
3.6 表面エネルギーの3成分解析
第9章 微細加工パターンの付着性解析
1.リソグラフィー
2.レジストパターンの付着要因
3.レジストパターンの付着特性
3.1 DPAT法
3.2 付着力の熱処理温度依存性
3.3 付着力のパターンサイズ依存性
3.4 溶液中でのパターン付着力の解析
3.5 付着力のパターン形状依存性
第10章 微粒子の分散凝集解析
1.付着力のPSL粒径依存性
第11章 応力分布と付着性
1.微細パターンの形成
2.有限要素法による二次元熱応力分布解析
3.パターン形状に依存した剥離挙動
3.1 凹凸パターン
3.2 開口パターン
3.3 ラインパターン
3.4 レジスト表面硬化層
第12章 高分子膜中へのアルカリ水溶液の浸透と接着性
1.コーティング膜の抵抗測定
2.真空処理と塗膜内の残留溶剤量
3.TMAH水溶液の浸透効果
第13章 異なる表面エネルギーを有する無機基板での接着
1.付着試験
2.各無機膜の表面エネルギー
3.乾燥下での接着挙動
4.TMAH水溶液中での接着挙動
第14章 微小気泡の性質と制御技術
1.レジストパターン上での気泡の捕獲と脱離
2.レジストパターン内の気泡移動
3.原子間力顕微鏡(AFM)によるナノ気泡観察
4.レジスト上のナノ気泡の剥離力測定
第15章 レジスト/基板界面でのボイド形成
1.ボイド観察手法
2.レジスト間の歪みエネルギー
3.ボイド形成モデル
4.感光剤濃度および表面エネルギー依存性
5.形成ファクター有効性
第16章 コーティング膜の熱処理と接着挙動
1.レジスト材料
2.レジストの光、熱反応
3.TMAH水溶液中での接着挙動
4.表面エネルギー依存性
5.レジストの溶液および膨潤の影響
6.乾燥下での接着挙動
7.表面エネルギー依存性