産業界において塗料は工業用、自動車用、建築・構造物用、船舶用など多くの分野で使用されている。対象物を保護し美観を保つ役割を担う汎用的な塗料のほかに、防汚・防錆・遮熱・耐熱といった特別な効果を発揮する機能性塗料の開発が進んでいる。近年では、持続可能社会とカーボンニュートラル実現の観点から、VOCや二酸化炭素低減に向けた水性塗料や粉体塗料、ハイソリッド塗料のニーズが高まっており、注目されている。
塗料の構成成分としては、顔料、添加剤、合成樹脂の3つに大別される。顔料は粒子状態で発色するほか、UVカット、導電性、光伝導性、磁性などの機能を発揮する。したがって粒子を着色媒体中に均一に分散することが重要である。添加剤は塗膜の性質を微調整しさまざまな機能を追加するための成分であり、可塑剤、分散剤、消泡剤、つや消し剤などがある。合成樹脂は塗料の品質を決める成分であり、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂など、使う種類によって塗膜の耐久性が大きく異なる。石化資源由来に代わり、植物由来原料による合成樹脂の開発が望まれている。
本書では、近年の塗料開発の最新動向について第一線でご活躍の先生方にご執筆いただいている。第1編では塗料開発と環境保全の現状と展望についてご提示いただき、第2、3、4、編では塗料の主たる3成分である顔料、添加剤、合成樹脂についてそれぞれ開発動向をご紹介いただいた。最後に第5編では、意匠性と金属質感を追求する自動車用途の塗料開発についてご解説いただいている。
目次
【第1編:塗料開発と環境保全】
第1章 2050カーボンニュートラルに対応する塗料・塗装
1 はじめに
2 カーボンニュートラルと塗料・塗装の関係
2.1 CO2排出量に関わる塗料・塗装の要因
2.2 塗料・塗装のLCA(ライフサイクルアセスメント)
2.3 塗料の種別によるCO2発生割合
3 CNへの塗料の対応
3.1 2030年対策
3.2 2050年対策
4 CNへの塗装の対策
4.1 標準モデルラインでの現状排出量の把握
4.2 CN2030年対策
4.3 CN2050年対策
5 2050年カーボンニュートラルに対する中長期ロードマップ
6 CN2050年への取組体制
7 おわりに
第2章 VOC削減塗料への転換による影響の理解
1 はじめに
1.1 塗料のルーツ
1.2 20世紀の塗料
2 水性塗料への転換による影響
2.1 水性塗料とは,どのような塗料か
2.2 水性塗料の技術課題―乾燥性
2.3 エマルション粒子内部の官能基の反応性
2.4 溶剤型樹脂を水性樹脂に転換する手法
3 粉体塗料への転換による影響
3.1 原料はすべて粉体(固体)である
3.2 粉体塗料の混合で調色ができない
3.3 顔料分散工程が無いため,充てん濃度が低くなる
3.4 粉体にとってのシンナー作用は空気が行う
3.5 架橋前の樹脂のTgは高い方が良い
3.6 1回塗り仕上げが可能である
3.7 エッジカバー性を向上できる
4 まとめ
第3章 重防食塗り替えの課題とその対策塗料
1 はじめに
2 塗替え塗装の課題
2.1 VOC削減
2.2 素地調整,塗り替え塗装の問題
3 おわりに
第4章 環境保護としての道路用遮熱塗料の可能性とその特徴
1 はじめに
2 遮熱塗料のしくみ
3 道路用遮熱塗料の特徴
4 遮熱性舗装について
5 遮熱性舗装の有効性
5.1 ヒートアイランド抑制
5.2 地球温暖化防止
5.3 アスファルト舗装保護
5.4 人体への影響
6 おわりに
【第2編:顔料の開発・分散技術】
第5章 中空シリカを用いた水系白色インクの開発
1 はじめに
2 白色顔料
3 産業用インクジェットプリンターにおける白インク
4 顔料沈降に対する材料的アプローチ
5 中空シリカの合成
6 各種評価結果
6.1 一次粒子径の要因効果(白色隠蔽性と沈降性)
6.2 顔料付着量と白色隠蔽性の関係
6.3 印字塗膜の断面構造
7 おわりに
第6章 Mie共鳴により発色するシリコンナノ粒子を用いた構造色インク
1 はじめに
1.1 構造色
1.2 単一ナノ粒子の構造色
1.3 本研究の目的
2 Mie共鳴を示すナノ粒子インク
2.1 Mie共鳴
2.2 シリコンナノ粒子の作製と光学特性評価
2.3 シリコンナノ粒子インク
3 まとめ
第7章 顔料のナノ分散~進化する顔料分散剤と分散機~
1 顔料分散の基本的な考え方
1.1 濡れ
1.2 機械的解砕
1.3 分散安定化と分散剤
2 顔料分散剤の進化
3 顔料分散機の進化
3.1 ナノサイズ分散機の特徴
3.2 過分散
第8章 水性塗料における顔料分散および増粘剤による分散トラブルと対策
1 水性塗料の構成と製造方法
2 顔料分散剤
3 水の特性と添加剤の利用
4 増粘剤による顔料分散トラブルと対策
4.1 水性塗料で用いられる増粘剤
4.2 増粘剤によるトラブルの事例
第9章 超微細顔料分散インク内における顔料の分散状態とX線散乱特性
1 はじめに
2 小角X線散乱(Small-Angle X-ray Scattering)
2.1 小角X線散乱
2.2 測定原理
2.3 測定サンプルの調整
2.4 データ処理
3 小角X線散乱の測定例
3.1 顔料粒子径が異なるインクの測定
3.2 顔料分散における顔料分散剤,バインダーの影響
3.3 顔料分散における分散時間の影響
3.4 ソルベントショック
3.5 散乱プロファイルの解析
4 おわりに
【第3編:添加剤の開発】
第10章 ゼロ~低VOC塗料向け添加剤の開発動向と 今後の展開
1 水系塗料のVOCをゼロへ
1.1 表面張力の調整と実質ゼロVOC添加剤の開発
1.2 バイオ由来消泡剤や生分解性がある消泡剤の開発
1.3 低温成膜性に役に立つ添加剤
2 塗料のハイソリッド化
2.1 減粘機能性添加剤
2.2 焼付塗料の垂れ防止剤
第11章 カーボンニュートラル及びSDGs達成に向けた添加剤の役割
1 粒子・フィラーの分散過程で寄与する添加剤
1.1 顔料・フィラーの分散粘度を下げ充填量をアップできる湿潤分散剤
1.2 セルロースナノファイバーの利用を拡大する添加剤
2 バイオベースの添加剤の開発
2.1 バイオベースの添加剤概要
2.2 バイオベースの消泡剤による鉱物油系消泡剤の置き換え
2.3 バイオベースのワックス添加剤
2.4 異なる意匠性をもたらすバイオベース粒子状添加剤
3 コーティングプロセスを最適化する添加剤
3.1 使いやすさを追求した水系消泡剤
3.2 基材への濡れ性を向上し幅広いpH領域で安定な表面調整剤
3.3 ウエットオンウエット・塗り重ね性を改善する表面調整剤
4 膜へ機能を付与する添加剤
4.1 撥水性や耐スリキズ性を向上させ塗膜寿命をのばすナノ粒子ディスパ―ジョン
4.2 無機系添加剤の層状ケイ酸塩による帯電防止・バリア効果の付与
第12章 水性塗料に使用するウレタン会合型粘性調整剤の特長とその応用事例
1 はじめに
2 水性塗料に用いられる粘性調整剤
3 ウレタン会合型粘性調整剤「アデカノールUH・GTシリーズ」と樹脂Em添加時の粘性について
3.1 アデカノールUH・GTシリーズの粘性
3.2 温度依存性
3.3 溶剤配合時の粘性
3.4 溶剤配合時の会合状態
4 建築塗料への応用
4.1 刷毛目残り性
4.2 ローラー塗装時の塗料飛散性
5 おわりに
第13章 セルロースナノファイバーを用いた木材用水性耐候性塗料の開発
1 はじめに
2 水懸濁状態で製造するセルロースナノファイバー
3 水性木材用塗料への応用
3.1 上塗り用塗料と下塗り用塗料に対するCNF配合の初期評価
3.2 CNF下塗り用塗料の適用性
3.3 CNF下塗り用塗料による変色抑制
4 おわりに
第14章 生物由来ナノファイバーを含有する水性塗料の耐候性向上
1 はじめに
2 生物由来ナノファイバーを含有する水性塗料の検討
2.1 生物由来ナノファイバーの種類
2.2 生物由来ナノファイバーを利用した植物油の乳化
2.3 塗装物の耐候性試験及び放射光マイクロCT評価
3 直交表と機械学習を利用した添加剤による耐候性向上
3.1 直交表を利用した条件設定
3.2 初期の保色性
4 おわりに
第15章 セルロースナノファイバー配合水性塗料とその塗膜の特性評価
1 CNFの水性塗料への配合
2 CNFを配合した塗料・塗膜の特性評価
2.1 塗料の液だれ性と粘度特性
2.2 塗料の貯蔵安定性と粘弾性特性
2.3 塗膜の機械的特性(引張強度)
【第4編:合成樹脂の開発】
第16章 環境遮断性を高めた剥離抑制型変性エポキシ樹脂塗料の開発
1 はじめに
2 線膨張係数と剥離抑制メカニズム
2.1 線膨張係数
2.2 剥離抑制メカニズム
3 高遮断性を有する剥離抑制型変性エポキシ樹脂塗料
3.1 剥離抑制機能
3.2 環境遮断機能
3.3 塗膜性能評価
4 まとめ
第17章 エポキシ樹脂系塗料の低温硬化性向上
1 緒言
2 エポキシ樹脂系塗料の成分
3 実験
4 結果および考察
4.1 硬化促進剤未添加系の硬化性評価結果
4.2 硬化促進剤添加系の硬化性評価結果
4.3 密着性評価結果
4.4 耐摩耗性評価
4.5 エポキシ基の反応率評価
4.6 活性化エネルギー評価
4.7 耐水白化性評価
4.8 耐塩水噴霧性評価
5 結言
第18章 無機-有機ハイブリッド型コーティング用樹脂の開発と用途展開
1 無機-有機ハイブリッド
2 無機-有機ハイブリッド樹脂の合成方法
3 ハイブリッド樹脂各論
3.1 ビニル骨格型ハイブリッド樹脂(無機-有機ハイブリッド複合架橋)
3.2 アクリル骨格高分子量シリコーン樹脂(液状・無溶剤・高膜厚型ポリシロキサン樹脂)
3.3 シリカ骨格オルガノポリシロキサン樹脂(活性SiOH安定化シリコーンハードコート)
3.4 水性無機-有機ハイブリッド樹脂(水性シリカ-シラン-ウレタンハイブリッド樹脂:SSU)
3.5 無機-有機ハイブリッド型水性架橋剤(Hybrid Cross Linker:H-CL)
3.6 UV硬化型無機-有機ハイブリッド樹脂(ハイブリッドUV硬化樹脂:HUV)
第19章 イソシアネートモノマーの構造・組成物の硬化特性
1 イソシアネートモノマーとその種類
1.1 イソシアネートモノマーとは
1.2 イソシアネートモノマーの種類
2 イソシアネートモノマーの反応機構
2.1 NCO基の反応
2.2 不飽和基の反応
3 硬化物の形成過程および物性,応用例
3.1 フリーラジカル重合による硬化系
3.2 2Kウレタン硬化系
4 ブロックイソシアネートモノマーとその反応機構
5 ブロックイソシアネートモノマー共重合体の物性
5.1 溶剤系での硬化性と保管安定性の両立
5.2 水系での硬化性と保管安定性の両立
6 おわりに
第20章 バイオマスイソシアネートを用いたポリイソシアネートおよびポリウレタンの開発動向
1 はじめに
2 イソシアネート
3 ポリイソシアネート
3.1 ポリイソシアネートの合成方法
3.2 PDI?ポリイソシアネートの低粘度型,弱溶剤可溶型
3.3 PDI?ポリイソシアネートの水分散型
3.4 PDI?ポリイソシアネートの速硬化型
4 ポリウレタンディスパージョン
4.1 バイオマスポリオール
4.2 ポリウレタンディスパージョンの合成
4.3 塗膜物性評価
5 水系ポリカルボジイミド
5.1 水系ポリカルボジイミドの合成
5.2 反応性評価
5.3 塗膜物性評価
6 まとめ
第21章 植物由来原料をもちいた高性能アクリレートの開発
1 緒言
2 新規アクリレート
2.1 グリセリントリアクリレート(GTA)
2.2 グリセリンカーボネートアクリレート(GCA)
2.3 エチレンオキサイド付加ソルビトールアクリレート(ESA)
3 バイオマス度
4 結言
【第5編:塗料開発と自動車用途への展開】
第22章 鮮やかさと深みを高次元で両立するソウルレッドクリスタルメタリックの開発
1 緒言
2 マツダの塗装への取り組み
3 開発ターゲット
4 実現に向けたカラー開発
4.1 カラー開発プロセスの変革
4.2 イメージから物理特性への変換
4.3 塗膜設計
4.4 課題解決のための新規材料開発
4.5 塗膜中のフレーク材料の配向分布制御
4.6 魂動デザインとしてのカラー開発
5 開発結果
6 おわりに
第23章 究極の金属質感のシルバー“銀影ラスター”の開発
1 開発背景
2 従来の金属調シルバー達成手法
3 Cellulose Nano Fiber(CNF)を用いた低固形分塗料
4 CNF配合塗料の市場の耐久性
5 まとめ
第24章 シャシ部品用高防錆粉体塗料の開発
1 緒言
2 トラックシャシ部品用塗料に求められる性能
3 塗料種類の選定
4 トラックシャシ部品用粉体塗料の開発
5 実験
5.1 試料作製
5.2 実験方法
6 実験結果
6.1 溶融粘度測定
6.2 断面観察
6.3 電気化学インピーダンス測定
6.4 塩水噴霧試験
6.5 粉体塗膜上における水性塗料の付着性
6.6 水性塗料の剥離界面解析
6.7 電着塗料及び粉体塗料の複合錆耐久試験
7 まとめ
第25章 部分的銀鏡塗装と意匠性部材への応用
1 はじめに
2 金属調表面創成技術「Metalize Finishing System」
2.1 銀鏡反応とMFS
2.2 MFSによる鏡のようなAgナノ粒子薄膜積層体形成
3 MFSによるAgナノ粒子薄膜および積層膜の特性
3.1 Agナノ粒子薄膜の特性
3.2 Agナノ粒子薄膜積層体の耐久性
3.3 移動体加飾Agナノ粒子薄膜積層体
4 Agナノ粒子を用いた加飾装飾
4.1 金属鏡面装飾
4.2 クルマの外装部品に適用された金属鏡面装飾
4.3 移動体の内装部品に適用された表面加飾
4.4 移動体の外装部品に適用されたカーボン調加飾
4.5 部分的にAgナノ粒子薄膜を形成した表面加飾
4.6 Agナノ粒子薄膜の反射特性
5 まとめ
第26章 自動車上塗り塗膜の凹凸形成機構
1 はじめに
2 塗着機構
3 転写機構
4 おわりに