ポリフェノール研究の源流はタンニンにある。[中略]タンニンは古くから接着剤,染料,コーティング剤,沈殿剤などさまざまな機能性素材としても使われており,産業的応用に関する研究や特許も多い。植物の生育条件とタンニン含量の関係や,化学生態学的視点からタンニンと動物の摂食行動との関わりなども研究されている。ただ,1980年代までのタンニン・ポリフェノールは決してメジャーな研究対象ではなかった。それが一変したのは1990年代に赤ワインや緑茶の縮合型タンニンやカテキン類がヒトの健康維持に寄与していることが報告され始めてからである。その頃から生物活性に関わる分野を中心に研究者人口が増加し,抗酸化活性をはじめとする様々な機能性に関する膨大な数の論文が発表されている。現在,ポリフェノールは植物由来の非常に幅広い芳香族化合物群を包含し,それぞれの生物活性や機能性は極めて多岐にわたる。しかし,少し視野を広げるとポリフェノールには未だ解明されていない部分もあり,そのことは逆に今後の新しい展開の可能性を示している。
ポリフェノールに関する成書は多いが,本書では食品機能性や香粧品だけでなく様々な産業分野の第一線で活躍されている方々にご執筆いただくことが出来たことに深く感謝するとともに,多角的視点でポリフェノールを捉え直すことで,本書が今後のポリフェノール研究の発展に寄与できることを期待する。(本書「刊行にあたって」より一部抜粋)
目次
【第Ⅰ編 総論】
第1章 タンニン・ポリフェノールの機能性に関わる特性
1 タンニンとポリフェノールについて
2 タンニンと渋味
3 タンニンの構造と水溶液中での挙動
4 カテキンとプロアントシアニジン(縮合型タンニン)の性質
5 茶の加工と食文化
6 まとめ
第2章 ポリフェノールの消化管吸収
1 はじめに
2 ポリフェノールの腸管吸収経路
3 ポリフェノールの吸収挙動
4 ポリフェノールの臓器蓄積挙動
5 おわりに
第3章 ポリフェノールの血液脳関門透過性
1 はじめに
2 ポリフェノールの安定性評価
3 BBBキットを用いたポリフェノールの血液脳関門透過性試験
4 試験に用いた被験物質の回収率の確認
5 BBB透過性と神経変性疾患予防機能
【第Ⅱ編 健康機能】
第1章 ポリフェノールによる自然免疫の制御機構
1 はじめに
2 ポリフェノールによるタンパク質修飾
3 ポリフェノール修飾タンパク質と自然抗体
4 ポリフェノール修飾タンパク質とヒストン
5 おわりに
第2章 ガレート型プロシアニジンによるT細胞制御機構
1 はじめに
2 T細胞の機能
3 プロアントシアニジン
4 PCB2およびPCB2ガレート化合物のT細胞機能制御
5 PCB2DGによるIL-17産生制御
6 免疫代謝とPCB2DGによるTNF-α産生制御
7 おわりに
第3章 α-グルコシルルチンによる幹細胞活性化作用
1 α-グルコシルルチンとは
2 幹細胞の生理作用
2.1 幹細胞とは
2.2 多能性幹細胞の増殖と代謝
2.3 細胞の生理作用および刺激に対する応答機構
2.4 α-グルコシルルチン(AGR)による幹細胞活性化作用
3 まとめ
第4章 茶カテキンによるエピジェネティック制御因子への関与
第5章 ポリフェノール代謝物3-(4-hydroxy-3-methoxyphenyl)propionic acid(HMPA)の機能性
1 はじめに
2 ポリフェノール代謝物HMPA
2.1 HMPAの特徴について
2.2 コーヒーの摂取とHMPA
2.3 腸内細菌とHMPA
2.4 HMPA産生メカニズム
3 ポリフェノール代謝物HMPAの機能性
3.1 HMPAの抗肥満作用
3.2 HMPAの抗炎症作用
3.3 HMPAの血糖値改善作用
3.4 その他HMPAの生理作用
4 おわりに
第6章 ポリフェノールの生体内代謝産物の機能性
1 はじめに
2 エラジタンニンの生体内代謝産物の構造と代謝経路
3 Urolithin類を生産する腸内細菌およびurolithin類生産能の個人差
4 エラジタンニンの代謝産物urolithin類の機能性
5 結語
第7章 ケルセチン配糖体の腸内細菌異化物による細胞保護作用
1 はじめに
2 ケルセチン配糖体の腸管における代謝
3 腸内細菌叢によるケルセチンの異化
4 ケルセチン腸内細菌異化物の抗酸化作用
5 ケルセチン異化物のアセトアルデヒドに対する細胞保護作用
6 おわりに
第8章 脳―消化管軸を介したポリフェノールの神経系への作用
1 はじめに
2 医薬品と食品
3 介入試験で検証されたポリフェノールの健康効果
4 ポリフェノールの生体利用性と生体調節作用
5 ポリフェノールの苦味と生体調節作用
6 ポリフェノールの渋味と生体調節作用
7 渋味の中枢神経に対する作用
8 おわりに
第9章 ポリフェノールによる疼痛緩和のメカニズムと臨床応用の可能性
1 はじめに
2 疼痛の分類
3 三叉神経系疼痛伝達経路
4 疼痛の末梢性受容機構と中枢性伝達機構
5 ポリフェノールによる侵害受容性疼痛の修飾
5.1 局所麻酔効果
5.2 静脈内麻酔・鎮静効果
6 ポリフェノールによる病的疼痛の修飾
6.1 炎症性疼痛緩和作用:フロイドアジュバンド炎症モデル
6.2 異所性疼痛緩和効果:矯正痛モデル
7 ポリフェノールによる疼痛緩和の意義と臨床応用
8 まとめ
第10章 柑橘由来ポリフェノールと緑茶カテキンの機能性フードペアリング
1 はじめに
2 緑茶カテキンEGCGセンシングのメカニズム
3 緑茶カテキンEGCGの生理活性を増強する食品因子の同定
4 柑橘由来ポリフェノールによるEGCGの抗肥満作用の増強
5 おわりに
第11章 混合発酵茶ポリフェノールの機能性
1 ビワ葉と緑茶三番茶葉を混合して製造したビワ葉混合発酵茶
1.1 ビワ葉混合発酵茶の製造
1.2 ビワ葉混合発酵茶に含まれる成分
1.3 ビワ葉混合発酵茶の機能性
1.3.1 血糖上昇抑制効果
1.3.2 体脂肪および中性脂肪濃度低下効果
2 ツバキ葉と緑茶三番茶葉を混合して製造したツバキ葉混合発酵茶
3 摘果ミカンと緑茶三番茶葉を混合して製造したミカン混合発酵茶
3.1 ミカン混合発酵茶の製造と含有成分
3.2 ミカン混合発酵茶の機能性
第12章 ユーカリ葉由来ポリフェノールによる小腸でのフルクトース吸収抑制作用
1 はじめに
2 フルクトースの摂取について
2.1 スクロース(ショ糖)とフルクトース
2.2 フルクトースとグルコースの代謝経路の相違と脂肪合成
2.3 フルクトースの過剰摂取と摂取制限による肥満の改善
3 フルクトース吸収抑制作用
3.1 フルクトース吸収のしくみ
3.2 GLUT5阻害の意義
4 ユーカリ葉抽出物のフルクトース吸収抑制作用
4.1 in vivoフルクトース吸収抑制作用スクリーニング
4.2 ユーカリ葉抽出物のフルクトース吸収抑制作用
5 ユーカリ葉由来ポリフェノールのフルクトース吸収阻害活性
5.1 ユーカリ葉に含まれるポリフェノール
5.2 ユーカリ葉に含まれるフルクトース吸収抑制作用の関与成分
6 フルクトース吸収抑制作用をメカニズムとするユーカリ葉抽出物の抗肥満作用
7 おわりに
【第Ⅲ編 美容機能】
第1章 植物フラボノイド成分による上皮バリア機能制御の分子機構
1 表皮のバリア機能とタイトジャンクション(TJ)の役割
2 TJの構造とその恒常性維持の機構
3 角質バリアおよびTJの傷害を修復するフラボノイドとその分子機構
3.1 Eupatilin
3.2 Quercetin
3.3 Hesperidin
3.4 Naringenin
3.5 Apigenin
3.6 Baicalin
3.7 その他の角質バリアの修復を促進する可能性があるフラボノイド
4 TJを強化するフラボノイド
4.1 Naringenin,Naringin,Hesperidin
5 TJを一過的に緩和するフラボノイドとその応用可能性
5.1 Baicalin,Baicalein
5.2 Quercetin,Hesperetin
5.3 吸収促進剤としての応用可能性
6 おわりに
第2章 海藻ポリフェノール(フロロタンニン類)の抗糖化活性,肌保護効果,メラニン調節作用
1 はじめに
2 フロロタンニン類とは
3 フロロタンニン類の抗糖化活性
4 マリンポリフェノール®含有混合素材の肌保護効果検証試験
4.1 背景
4.2 マリンポリフェノール®
4.3 ヒト臨床試験の概要および結果
4.4 ヒト臨床試験のまとめ
5 海藻由来ポリフェノールのメラニン生成調節作用
5.1 メラニン生成と海藻成分
5.2 アラメ(E. bicyclis)から単離したフロロタンニン類のメラニン生成抑制効果
6 おわりに
第3章 トウビシ果皮ポリフェノールの抗糖化作用・糖化たんぱく質分解作用
1 トウビシ果皮ポリフェノール
1.1 トウビシとは
1.2 トウビシ果皮ポリフェノールとは
2 糖化とは
3 トウビシ果皮ポリフェノールの機能性
3.1 in vitro評価試験
3.2 ヒト臨床評価試験 糖化ストレスの低減と肌弾力
4 まとめ
第4章 サツマイモ由来脂溶性ポリフェノールの開発とそのアンチエイジング作用
1 はじめに
2 植物における“ポリフェノール”と“リポフェノール”の存在と役割
3 サツマイモ塊根のスベリン形成能を引き出すことでリポフェノールを生産
3.1 サツマイモの抵抗力を引き出すキュアリング処理
3.2 キュアリング処理することでサツマイモ周皮部に脂溶性抗酸化成分が産生
3.3 サツマイモ全層をスベリン化することで果肉部にも脂溶性抗酸化成分が産生
3.4 未利用の規格外サツマイモを活用して原料化
4 リポフェノールの構造
5 植物リポフェノールの優れた経皮吸収性
6 植物リポフェノールのアンチエイジング作用① ~シミ・くすみ~
6.1 植物リポフェノールのメラニン産生抑制(メラノーマ細胞)
6.2 植物リポフェノールの微弱炎症抑制(ヒト表皮角化細胞)
6.3 シミ・くすみ改善作用まとめ
7 植物リポフェノールのアンチエイジング作用② ~シワ・たるみ~
8 植物リポフェノールのアンチエイジング作用③ ~ストレスホルモン・肌乾燥~
9 おわりに
第5章 ポリフェノールの育毛作用
1 毛包の構造
2 育毛剤の作用点
3 テロメラーゼを標的とした育毛促進物質の探索
4 育毛促進物質が育毛を促進するメカニズム
5 おわりに
第6章 ポリフェノールの酸化架橋を利用したヘアケア用化粧品の開発
1 はじめに
2 ポリフェノールを用いたキノン架橋
3 キノン架橋による物性改良
4 損傷毛の機械的特性を改善するヘアケア製品の開発
4.1 ヘアケア業界の現状
4.2 チコリ酸を使ったキノン架橋
4.3 キノン架橋で処理した毛髪繊維の物性
5 おわりに
第7章 ポリフェノールの化学変化を活用する白髪染め
1 はじめに
2 一般的な白髪染めの方法と課題
3 カテコール構造を有するポリフェノールの化学変化と色素形成
4 ポリフェノールの酸化反応を活用する白髪染め
5 金属化合物やアントシアニンと組み合わせた白髪染め
6 おわりに
第8章 難水溶性ポリフェノール含有化粧品開発を指向したコンポジット型製剤の設計
1 酵素処理ステビア-水溶性ポリマー間でのコンポジット形成によるケルセチンの溶解性改善
2 酵素処理ステビア-PVP間でのコンポジット形成によるクルクミンの溶解性改善とゲル製剤への応用
3 今後の展望
【第Ⅳ編 抗菌・抗ウイルス機能】
第1章 緑茶カテキンのう蝕予防効果
1 はじめに
2 う蝕はどうして起こるのか?
3 緑茶に含まれるカテキン及びその量
4 カテキンによる抗菌効果
5 カテキンによるう蝕予防効果
6 まとめと展望
第2章 梅酢ポリフェノールの抗菌・抗ウイルス活性と応用
1 はじめに
2 ウメの機能性成分
3 UPの抗菌作用
3.1 UPの抗菌作用
3.2 UPのアルカリ加水分解物の抗菌試験
3.3 クエン酸の抗菌作用
3.4 まとめ
4 UPの抗ウイルス作用
4.1 ウイルス増殖の抑制
4.2 ウイルス不活化(消毒)作用
4.3 UPの臨床への応用の可能性
第3 章 大豆由来ポリフェノール(ダイゼイン)の脂質酸化酵素活性化を介したインフルエンザウイルス感染抑制作用
1 はじめに
2 大豆由来のポリフェノールの抗インフルエンザウイルス効果
3 ダイゼインによる抗ウイルス作用機構
4 ダイゼインの宿主因子を介したインフルエンザウイルス阻害作用
5 ダイゼインによる脂質酸化酵素5-LOXの活性化メカニズム
6 おわりに
第4 章 カラハリスイカ由来ポリフェノールのインフルエンザウイルス感染抑制作用
1 はじめに
2 カラハリスイカ果汁(WWMJ)の抗インフルエンザ効果
3 カラハリスイカ果汁(WWMJ)の有効成分の検索
4 8-プレニルナリンゲニン(8-PN)による抗ウイルス作用機構
5 おわりに
第5章 アルブチンの酸化重合と銀の複合化ならびに機能性
1 はじめに
2 アルブチンの酸化重合による合成ポリフェノールの開発
3 脂溶性基を導入したポリアルブチンの合成
4 脂溶性基を導入した変性ポリアルブチンのミセル形成能評価ならびに樹脂への塗布性
5 ポリアルブチンの抗酸化性,毒性,抗菌,抗ウイルス性
6 ポリアルブチンと銀ナノ粒子の複合体の形成
7 まとめ
【第Ⅴ編 その他の機能】
第1章 ポリフェノールの酸化防止剤としての応用(酵素処理イソクエルシトリン,ヤマモモ抽出物)
1 はじめに
2 酸化防止剤として利用されるポリフェノール(酵素処理イソクエルシトリンとヤマモモ抽出物)
2.1 酵素処理イソクエルシトリン
2.2 ヤマモモ抽出物
3 酵素処理イソクエルシトリン,ヤマモモ抽出物の食品品質維持メカニズム
3.1 紫外線吸収作用
3.2 ラジカル消去作用
3.3 金属イオンキレート作用
4 食品への応用
4.1 酵素処理イソクエルシトリンによるレモン飲料の劣化抑制効果
4.2 酵素処理イソクエルシトリンによる飲料中の色素の退色抑制効果
4.3 ヤマモモ抽出物によるクッキーの劣化抑制効果
4.4 ヤマモモ抽出物による牛乳の劣化抑制効果
5 おわりに
第2章 ピレン修飾タンニン酸を用いた蛍光による抗菌活性の定量評価
1 序
2 背景:アルキル化タンニン酸
2.1 タンニン酸
2.2 合成
2.3 溶解性・製膜性
2.4 抗菌活性
3 ピレン修飾タンニン酸
3.1 合成
3.2 溶解性・製膜性
3.3 UV吸収・蛍光特性
3.4 薄膜の表面形態
3.5 蛍光強度と表面濃度の関係
3.6 抗菌活性と表面濃度の関係
3.7 蛍光強度から抗菌活性の定量
4 結論
第3章 ポリフェノールを利用した貴金属などの回収技術
1 はじめに
2 リグニン由来の吸着材
3 タンニン由来の吸着材
4 アントシアニン由来の吸着材
5 ヘスペリジン由来の吸着材
6 カテキン由来の吸着材
7 まとめ
第4章 ポリフェノールを原料とするグリーンプラスチック
1 はじめに
2 ポリフェノールを原料としたグリーンプラスチック
2.1 カシューナッツの殻由来のポリフェノール
2.2 天然漆由来のポリフェノール
3 まとめと展望
第5章 ポリフェノールを基盤としたDDS キャリア
1 はじめに
2 ポリドーパミンのDDSキャリアへの応用
3 ポリフェノールの接着機能を利用したDDSキャリアへの応用
4 高分子材料を組み合わせることでのDDSキャリアとしての応用
5 Metal-Polyphenol Network(MPN)を利用したDDSキャリアへの応用
6 最後に
第6章 ポリフェノールのナノ細孔体への固定化技術と色材・化粧品への応用
1 はじめに
2 ポリフェノール系天然色素の着色剤としての利用
3 天然色素の有機無機複合化の目的と方法
4 層間吸着による天然色素の有機無機複合化
4.1 カチオン性色素と層状粘土鉱物の複合化
4.2 粘土鉱物を担体とする複合色材の課題
5 細孔内吸着による有機無機複合化
5.1 色素の担体としてのメソポーラスシリカ
5.2 アントシアニン色素とメソポーラスシリカの複合化
5.3 紫外線吸収能をもつフラボノイドとメソポーラスシリカの複合化
6 おわりに