プラスチックなどの高分子材料は軽量であり,柔軟性があり加工しやすい,などの特徴があり,我々の生活に欠くことのできない材料である。高分子材料の機能をより向上させるために表面改質は必須であり,様々な表面改質法が検討されている。
高分子材料の表面改質は耐熱性や機械的特性に優れたエンジニアリングプラスチックを中心に数多くの報告があり,産業への応用がなされているものも多い。本書では代表的な表面改質法,最近注目されている表面改質法およびそれらの応用について紹介する。
また,効果的に高分子材料の表面改質を実施するためには,改質効果を定量的に分析することが必要である。近年では様々な表面分析の手法が高度化され,より正確に表面の状態を把握することが可能になった。本書ではこうした表面解析法についても紹介する。
本書を通して読者の皆様のお役に立てれば幸いである。
目次
【第Ⅰ編 総論】
第1章 高分子材料の表面改質技術
1 はじめに
2 高分子材料の表面改質のポイント
3 高分子材料の表面改質とダメージ層の形成
4 酸素プラズマによるポリイミドのダメージ層の解析とエッチング反応
5 おわりに
第2章 高分子材料の表面・界面解析技術
1 はじめに
2 表面物性の測定
3 表面の組成・化学構造分析
3.1 Ⅹ線光電子分光法(XPS)
3.2 飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)
3.3 フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)
4 表面の形態観察
4.1 原子間力顕微鏡(AFM)
4.2 走査電子顕微鏡(SEM),透過型電子顕微鏡(TEM)
5 おわりに
【第Ⅱ編 表面改質技術】
第1章 コロナ処理表面改質
1 はじめに
2 コロナ処理装置の一般構成
2.1 処理ステーション
2.2 高周波電源
2.3 排気装置
2.4 静電気除去対策
3 改質原理と電極構成
4 PET・OPPフィルムへの改質効果事例
5 アルミ箔への改質効果事例
6 ノンアンカー押出しラミネート事例
7 おわりに
第2章 大気圧プラズマによる親水化処理
1 大気圧プラズマによる表面処理
1.1 大気圧低温プラズマ
1.2 ダイレクト処理とリモート処理
1.3 誘電体バリア放電
1.4 マルチガスプラズマジェット
2 固体表面の液体親和性評価の方法
2.1 接触角
2.2 表面自由エネルギー
3 窒素プラズマによる高分子材料のリモート処理
3.1 窒素プラズマによる表面の親水化処理
3.2 窒素プラズマ処理による表面自由エネルギーの変化
4 酸素プラズマによる高分子材料のリモート処理
第3章 フレーム処理およびイトロ処理
1 表面改質処理
2 フレーム処理の原理
3 フレーム処理の長所と短所
4 イトロ処理の原理
5 イトロ処理の長所
6 イトロ処理の短所
7 酸化ケイ素粒子による影響
8 イトロ処理装置
9 火炎を用いた表面改質処理の導入事例
10 最後に
第4章 UV照射
1 はじめに
2 VUV光源
2.1 エキシマランプ
2.2 低圧水銀ランプ
3 VUV照射による表面改質原理
4 エキシマランプによる表面改質の最新事例
4.1 プラスチック改質(「改質」)
4.2 めっき前処理(「改質」)
4.3 直接接合(「改質」)
4.4 硬質化(「改質」)
4.5 マット化(「改質」)
4.6 フォトデスミア(「アッシング」)
5 最後に
第5章 光酸化によるプラスチック表面への極性官能基導入
1 はじめに
2 アルカンのC-H活性化
3 プラスチック表面のC-H活性化
4 表面酸化技術における従来法との比較
5 酸素官能基導入による表面染色・パターニング
6 二酸化塩素表面酸化による接着特性の発現
7 まとめ
第6章 活性酸素処理
1 はじめに
2 活性酸素の検出
2.1 電子スピン共鳴法
2.2 発光分光法
3 活性酸素による高分子表面改質
3.1 試料の作製と評価方法
3.2 ポリイミドフィルムの濡れ性
3.3 X線光電子分光による表面化学結合の評価
4 おわりに
第7章 ファインバブル低濃度オゾン水処理
1 はじめに
2 ファインバブル技術の動向
3 ウルトラファインバブル低濃度オゾン水処理法の特徴
4 PIフィルムへのウルトラファインバブル低濃度オゾン水の適用
4.1 実験方法
4.2 実験結果および考察
5 おわりに
第8章 グラフト化技術〜ナノ粒子の表面改質を例に
1 はじめに
2 ナノ粒子表面のグラフト化の手法
3 Grafting onto法によるグラフト反応
3.1 ナノ粒子表面官能基とポリマーとのグラフト反応
3.2 ナノカーボンの縮合芳香族環をベースとするグラフト反応
4 Grafting from法によるグラフト反応
4.1 表面開始グラフト重合
4.2 表面開始リビングラジカル重合
4.3 多分岐ポリマーのグラフト化(デンドリマー法)
5 おわりに
第9章 電子線を利用した表面改質技術について
1 電子線とは
2 EB硬化
2.1 硬化方式の比較
2.2 EB硬化の反応機構
2.3 EB硬化方式の特徴
2.4 EB硬化技術の基礎
3 グラフト重合反応の利用
3.1 グラフト重合の種類
3.2 親水性・撥水性付与
4 電子線照射装置の概要
4.1 EBの発生原理
4.2 EB装置の選定方法
第10章 ポリマーブラシ薄膜形成
1 はじめに
2 従来法による表面グラフト重合
3 表面開始層の導入と表面開始制御ラジカル重合
4 高分子材料表面から直接開始重合
5 ポリマーブラシ薄膜の課題
6 今後の展望
第11章 ケイ素系高分子によるコーティング膜の創製
1 ポリシロキサン誘導体の特性
2 側鎖に親水性置換基を有するポリ(シルアリーレンシロキサン)誘導体による表面改質
2.1 側鎖型ポリマーを用いた薄膜の作製
2.2 側鎖型ポリマーを用いて作製した薄膜の表面観察
2.3 側鎖型ポリマーを用いて作製した薄膜の接触角測定
3 ゾル-ゲル法を用いた有機-無機ハイブリッド薄膜による表面改質
3.1 ゾル-ゲル法を用いた有機-無機ハイブリッド薄膜の作製
3.2 ゾル-ゲル法により作製した有機-無機ハイブリッド薄膜の表面観察
3.3 ゾル-ゲル法により作製した有機-無機ハイブリッド薄膜の接触角測定
4 主鎖にエーテル部位を有するポリシロキサン誘導体による表面改質
4.1 主鎖にエーテル部位を有するポリシロキサン誘導体を用いた薄膜の作製
4.2 主鎖型ポリマーを用いて作製した薄膜の接触角測定
4.3 主鎖型ポリマーを用いて作製した薄膜の表面観察
第12章 プライマー処理
1 はじめに
2 プライマーの役割
3 プライマーの機能
3.1 接着機能
3.2 接着機構
4 プライマーの成分
5 プライマーの応用例
6 おわりに
第13章 シランカップリング処理
1 シランカップリング剤
2 シランカップリング剤の反応
3 シランカップリング剤と無機表面との界面反応
4 不活性官能基を持つシランカップリング剤と親水化処理高分子表面との界面反応
5 反応性官能基を持つシランカップリング剤と高分子表面との界面反応
第14章 分子接合技術による異種材料接合
1 はじめに
2 分子接合技術のものづくりにおける必要性
3 分子接合技術による複合化
3.1 分子接合技術により改質されたポリプロピレン(PP)と水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)の複合化
3.2 XPSによる各種表面処理PP表面の元素組成
3.3 ATR-FTIRによる各種表面処理PP表面の化学組成
3.4 AFM-nanoIRによる各種表面処理PP表面の化学組成
3.5 PP/HNBR接着物の接着特性におよぼす各種表面処理の影響
3.6 PP/HNBR接着物の接着界面の化学組成におよぼす各種表面処理の影響
4 結言
第15章 精密フッ素処理技術
1 はじめに
2 フッ素ガスの製造と性質
3 フッ素ガスを用いた高分子材料の表面処理
4 結言
【第Ⅲ編 応用技術】
第1章 樹脂と金属の接着・接合技術
1 はじめに
2 金属密着技術における影響因子
2.1 金属表面処理
2.2 樹脂材料
2.3 金型設計
2.4 射出成形
3 エッチングを用いた金属-樹脂接合技術
3.1 引張せん断試験片での検討
3.2 円盤型形状試験片での検討
4 射出成形用接着剤を用いた金属-樹脂接合技術
4.1 端子型形状試験片での検討
5 今後の展望
第2章 樹脂への金属めっき膜の密着性の改良
1 はじめに
2 PEEKへの表面処理
2.1 表面改質後の接触角
2.2 表面改質後の表面粗さ
2.3 表面改質後の表面挙動
3 PEEKと銅めっきの密着
4 おわりに
第3章 高分子材料と超撥液性
1 はじめに
2 最近の超撥液性の定義
3 高分子材料と超撥液性
3.1 超撥液性を得るための手法
3.2 超撥液性表面の課題
3.3 高分子材料を用いた超撥液性表面の創製
4 まとめ
第4章 コーティング剤による防汚性・防曇性の付与と評価技術
1 防汚性の評価
1.1 防汚性について
1.2 防汚性の評価方法
1.3 防汚性の基準化
2 耐指紋性の評価
2.1 各種汚染物によるスポット試験
2.2 耐久性,耐候性試験での評価
2.3 実使用条件と汚れ具合の相関性,まとめ
3 機能性コーティング剤
3.1 機能性膜成分の評価
3.2 機能性塗膜の評価
3.3 要求される機能の評価
3.4 耐指紋性評価の考え方について
3.5 汚れ防止機能の持続性の評価
4 ナノシリカ系コーティングによる表面改質方法
4.1 疎水性ナノシリカの特徴とその働き
4.2 表面観察,汚れはじき,フラクタル形態での防汚効果
4.3 超撥水での耐候性の評価
5 超親水コーティングによる表面改質方法
5.1 親水化ポリマーの原理とその働き
5.2 親水化機能による防汚効果
5.3 セルフクリーニングと持続性,外観の変化
6 防曇性を付与するコーティング技術とその応用
6.1 イオン性液体による親水処理技術
6.2 イオン性液体を用いた防曇性コーティング剤
6.3 防汚コーティングとしてのイオン性液体について
7 使用時想定での加速・促進試験とその試験装置
7.1 屋外暴露による耐光性試験
7.2 凍結-過熱サイクル試験による耐久性試験
7.3 長寿命化に向けた取り組み方法
7.4 色差計,反射計を用いた測色方法による劣化状態の数値化,標準化
7.5 気候,環境での再現性とズレの発生要因
7.6 地域差事例(沖縄の塩害,フロリダの耐光,カナダの耐寒)の考え方
7.7 「あくまで目安」「顧客との同一目線での開発リスク」での保証体制
8 実際の塗膜での防汚機能の劣化と保証に関するまとめ
8.1 長期性能維持のための保証
8.2 顧客への保証期間の設定方法とその劣化する事実の説明方法
8.3 現場の長期耐候性との相関性とまとめ
第5章 ナノ構造体と自己柱状成膜による広角の低反射性と防曇性を兼ね備えた光学部材
1 はじめに
2 ナノ構造体の転写成形工程と自己柱状成膜による反射防止機能部材の作製
3 自己柱状成膜技術
4 おわり
第6章 原子状酸素照射を活用した高分子材料への抗菌性付与
1 はじめに
2 原子状酸素が高分子材料に与える影響
3 原子状酸素の生成法
4 原子状酸素照射による高分子材料への抗菌性付与
第7章 生体適合性付与
1 はじめに
2 生体適合性と水和状態
3 有機/無機ハイブリッド戦略によるコーティング安定性の改善
4 側鎖にピロリドン環を有する新規生体親和性高分子の設計と合成
5 おわりに