本書に掲載される新たな学問分野「結合と分解の精密制御」(R3文科省戦略目標 資源循環の実現に向けた結合・分解の精密制御)は、資源循環型社会を実現するための技術進化に寄与することが期待されています。具体的には、本書では、ケミカルリサイクルに活かせる材料分解の最新技術(第Ⅱ編)や、環境負荷を低減するための材料分解技術(第Ⅲ編)について詳述しています。
このような技術を基盤として、使用中は高機能を維持し、使用後は環境に優しく分解できる材料の創出が望まれます。このような材料開発に関連する技術は、化学、物理学および生物学の融合から生まれる新たな分野であり、生体触媒を用いた革新的な触媒開発も含みます。これらの技術は、未来社会が求めるCoolでCleanな環境を創出するための重要な一石を投じるものです。
目次
【第Ⅰ編 総論】
第1章 高分子材料の化学的劣化と物理的劣化
1 はじめに
2 化学的劣化
2.1 熱分解
2.2 酸化分解
2.3 光分解
3 物理的劣化
3.1 高分子固体の力学強度―応力歪み曲線
3.2 静的疲労-クリープ破壊
3.3 繰り返し変形による破壊-動的疲労破壊
3.4 スクラッチ性
3.5 環境応力亀裂
4 おわりに
第2章 高分子材料の生物的分解機構
1 生物による高分子材料の劣化
2 酵素による高分子鎖の開裂
3 高分子材料およびその分解物の生物的無機化
【第Ⅱ編 資源リサイクルを志向した分解制御】
第1章 ポリエステルのケミカルリサイクルに向けた解重合反応
1 はじめに
2 高温水を利用したプラスチックのモノマー化技術
3 PETの低温モノマー化技術
4 今後の展開
第2章 イオン液体を用いたプラスチックの解重合反応
1 序論
2 イオン液体を用いたプラスチックの解重合
3 まとめ
第3章 ポリ-L-乳酸の解重合
1 はじめに
2 重量減少に基づくPLLAの熱分解挙動
2.1 多様な熱分解メカニズム
2.2 熱分解機構に影響を与える要因
3 熱分解の動力学解析
3.1 単一ステップの熱分解プロセス
3.2 複雑な熱分解プロセス
4 PLLAの解重合制御
4.1 市販PLLAの多段階複合熱分解挙動の解析
4.2 PLLA単独の解重合制御
4.3 PLLAブレンド・アロイの解重合制御
5 まとめ
第4章 結合交換を活かしたポリエステルのアップサイクル技術
1 はじめに
2 結合交換が伴う材料変換
3 結合交換がもたらすサスティナブル機能
4 従来リサイクル技術に対する優位性
5 まとめ
第5章 難分解性プラスチックの解重合
1 はじめに
2 ポリフェニレンスルフィド(PPS)のベンゼンへの分解
3 ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の解重合法の開発
4 炭素繊維強化PEEKの解重合
5 ヒドロキシ化解重合
6 まとめ
第6章 PET 分解・代謝細菌の代謝機構と応用
1 はじめに
2 PET加水分解経路
3 TPA代謝
4 EG代謝
5 I. sakaiensisによるPETを発酵原料とするポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の生産
第7章 天然ゴム分解細菌の代謝機構と応用
1 はじめに
2 廃水処理システム内の微生物群を利用したゴム分解
3 Nocardia 属細菌による天然ゴム分解
4 Nocardia 属細菌のcis-1,4-ポリイソプレン分解酵素
5 Nocardia 属細菌のcis-1,4-ポリイソプレン分解経路の解明
6 おわりに
第8章 易解体性接着材料(PBHEMA)
1 はじめに
2 刺激応答性ならびに易解体性の接着材料
3 易解体性接着材料の開発経緯
4 BOC基を含む易解体性接着材料
第9章 可逆的な化学反応に基づく接着の光制御
1 はじめに
2 結合の解離・形成および高分子鎖の分解・架橋
3 転移
4 極性変化
5 おわりに
第10章 光安定性/分解性を両立する協働的光分解技術
1 はじめに
2 白金アセチリド錯体における光と酸の協働反応性
3 高分子ネットワーク材料における協働分解性
4 光と酸の協働分解性を有する光機能性材料
5 おわりに
第11章 光付加環化反応を用いた環境配慮型可逆ポリマー
1 はじめに
2 光付加環化反応
3 可逆ポリマー
4 光[2+2]付加環化反応による直鎖可逆ポリマーの合成
5 自己修復ポリマー,接着剤,ガス透過膜への応用
6 自然界由来物質を用いた環境配慮型可逆ポリマーの合成
7 まとめ
第12章 酸化分解性高分子材料
1 はじめに
2 ジアシルヒドラジンとポリ(ジアシルヒドラジン)
3 酸化分解性エポキシ樹脂
4 有機-無機ハイブリッドの形成とナノ細孔を持つシリカゲル
5 酸化的脱架橋可能な架橋体とCFRP
6 酸化分解性高吸水性ポリマー
7 おわりに
第13章 分解・リサイクルを前提とするエポキシ樹脂と熱硬化性CFRP
1 はじめに
2 熱硬化性CFRPのリサイクル
3 アセタール結合含有エポキシ樹脂
4 アセタール結合含有エポキシ樹脂の熱硬化性CFRPマトリックスへの応用
5 アセタール結合含有エポキシ樹脂の熱硬化性CFRPサイジング剤への応用
6 おわりに
第14章 カーボネート結合に基づく循環型高分子材料の設計
1 緒言
2 ポリカーボネートの特徴とアンモニアによるケミカルリサイクル
3 使用後に肥料に分解できるバイオベースポリカーボネートの合成とそのアンモニア分解
4 分解生成物を用いた植物の生育実験
5 バイオベースポリカーボネートの機能化
6 結言
第15章 サリチル酸を原料とした循環型プラスチック
1 はじめに:ケミカルリサイクルへの期待と現状
2 サリチル酸を原料とする易分解性ポリエステル
2.1 サリチル酸の直接重合
2.2 サリチル酸由来のポリ(エステル-酸無水物)
2.3 サリチル酸から誘導されるラクトン類の開環重合とケミカルリサイクル
2.4 カチオン異性化重合によるポリエステル合成
3 サリチル酸を原料とする循環型ビニルポリマー
3.1 ビニルポリマーのケミカルリサイクルの課題
3.2 サリチル酸由来の循環型ビニルポリマー
4 おわりに
第16章 高分子微粒子を活用したフィルム成形とマテリアルリサイクル手法
1 はじめに
2 高分子微粒子とは
3 強靭な環境配慮型高分子微粒子フィルム
4 強靭な高分子微粒子フィルムのマテリアルリサイクル
5 まとめ
【第Ⅲ編 環境負荷低減を志向した分解制御技術】
第1章 海洋生分解評価法の標準化動向と標準を活用した社会実装
1 はじめに
2 ISO規格の発行までのプロセス
3 TC61(プラスチック),TC38(繊維)でのISO規格の発行,審議状況
4 ISO規格を活用した認証制度
5 今後の展望
第2章 加水分解性ポリエステル Kuredux®(PGA)
1 はじめに
2 Kuredux®の原料と製法
3 Kuredux®の特性
3.1 基本特性
3.2 加水分解性
3.3 生分解性・海洋分解性
3.4 ガスバリア性
3.5 機械特性
3.6 成形加工性
4 Kuredux®の用途例
4.1 共押出多層ボトル
4.2 共押出多層フィルム
4.3 繊維
4.4 シェールガス・オイル掘削部材
4.5 その他
5 Kuredux®の環境適性
6 おわりに
第3章 イオン結合を有する海洋生分解性素材
1 背景
2 イオン結合を有するポリマー化合物
3 アルギン酸カルシウム粒子
4 アルギン酸カルシウム粒子の生分解における環境依存性
4.1 アルギン酸カルシウム粒子の海洋生分解性の温度依存性
4.2 アルギン酸カルシウム粒子の海洋生分解性の海域依存性
5 イオン結合を含む海洋生分解促進添加剤
6 海洋生分解促進添加剤の生分解性
6.1 添加剤Aの海洋生分解性の温度依存性
6.2 添加剤Aの海洋生分解性の海域依存性
7 複合材料としての生分解性
8 イオン交換による生分解メカニズム
9 海水以外の環境における生分解性
10 今後の取り組み
第4章 生分解性ポリエステルと生分解性ポリアミドの複合化技術
第5章 高強度・高耐水性の海洋生分解性デンプン/セルロース複合材料
1 はじめに
2 デンプン含有生分解性プラスチック
3 熱可塑性デンプン/ プラスチックブレンド
4 おわりに
第6章 易分解性構造を導入した海水生分解性修飾ポリ乳酸の開発
1 緒言
2 アルキレンジグリコラートを導入したPLLA-Uの合成
3 PLLA-Uの物理的性質
4 PLLA-Uの生分解性
5 おわりに
第7章 ジバニリン酸を利用した生分解性芳香族バイオマスプラスチックの開発
1 はじめに
2 ジバニリン酸由来の生分解性芳香族ポリエステル
2.1 ジバニリン酸の化学構造と生分解性
2.2 水酸基をシリル基で保護したジバニリン酸モノマーの合成
2.3 フェノール性水酸基を有するジバニリン酸由来ポリエステルの合成
2.4 ポリエステルの熱特性と熱プレスフィルムの作製
2.5 ジバニリン酸由来のポリエステルの生分解性評価
3 おわりに
第8章 生分解性高吸水性樹脂
1 はじめに
2 高吸水性樹脂に生分解性を付与することの意義
3 現行組成への生分解性付与の可能性
4 生分解性高吸水性樹脂の検討状況
4.1 ポリアミノ酸系高吸水性樹脂
4.2 多糖類系高吸水性樹脂
5 おわりに
第9章 多機能微生物産生ポリエステルの開発
1 はじめに
2 微生物産生ポリエステルとは
3 不飽和側鎖を有する微生物産生ポリエステル
4 含硫側鎖を有する微生物産生ポリエステル
5 官能基末端を有する微生物産生ポリエステル
6 おわりに
第10章 プラスチック分解酵素
1 はじめに
2 ポリ(3-ヒドロキシアルカン酸)分解酵素
2.1 P(3HB)分解酵素の構造と各ドメインの機能
2.2 P(3HB)分解酵素の作用機構
3 化学合成脂肪族ポリエステルおよび化学合成脂肪族芳香族ポリエステル分解酵素
3.1 リパーゼおよびクチナーゼ
3.2 その他のポリエステル加水分解酵素
4 ポリエチレンテレフタレート(PET)加水分解酵素
4.1 PET加水分解酵素
4.2 PET加水分解酵素の工業利用
5 おわりに
第11章 酵素内包生分解性プラスチック
1 はじめに
2 クチナーゼの基質選択性と熱安定性
2.1 クチナーゼ
2.2 HiCの基質選択性
2.3 HiCの熱安定性
3 クチナーゼ内包ポリエステルの創製と分解性
4 クチナーゼ内包ポリエステルの海水を用いた分解性の評価
5 総括
第12章 海洋時限生分解性プラスチック
1 はじめに
2 海洋生分解性プラスチックの開発の動機
3 海洋時限生分解性プラスチックの開発戦略
4 海洋時限生分解性プラスチックの創製
4.1 環境因子を利用するスイッチを有する海洋時限生分解性プラスチックの開発
4.2 摩耗を利用するスイッチを有する海洋時限生分解性プラスチック
4.3 生分解速度制御方法
5 おわりに
第13章 圧力で誘起される秩序-無秩序転移を利用した高分子の分解制御
1 はじめに
2 圧力可塑性高分子バロプラスチック
3 圧力スイッチによるオンデマンド分解への可能性
4 おわりに
第14章 フッ素材料の精密分解
1 解重合によるフッ素系高分子材料の分解
2 無機化によるフッ素系高分子材料の分解
3 高分子反応によるフッ素系高分子材料の変換
第15章 エステルフリー型分解性高分子材料
1 緒言
2 モノマー設計
3 分解挙動
4 新しい合成経路
5 共重合体
6 架橋体および高分子ブレンド体
7 結言