日本国内の工場から排出される排熱エネルギーは、100度前後の低温(低位)排熱が多いといわれており、それらの多くは有効に利用されていない未利用の熱エネルギー資源です。そして、東北地方太平洋沖地震の影響により製造業にとって深刻な電力不足の問題が続いており、さらには地球温暖化ガス削減への対策など、再生可能エネルギーはますます注目されています。
そのような中、工場から排出される熱エネルギーを有効活用する排熱回収・排熱利用技術、中でも特に注目されているバイナリー発電技術に焦点をあて、発刊することにいたしました。また第3章では、実用化例を収録し、現在稼働中の多くの工場に参考にしてもらいたいと考えました。
本書が、地球温暖化ガスへの対策、日本国内製造業のエネルギー不足への対策、新市場・エネルギービジネスにお役立ていただき、ひいては東日本復興の一助となれば幸いに存じます。 (書籍編集部)
目次
第1章 「地球温暖化ガス25%削減」に貢献する、低温排熱利用技術の展望
1. 「地球温暖化ガス25%削減」をどう捉えるか?
1.1 「地球温暖化ガス25%削減」という課題について
1.2 我が国におけるエネルギー問題を考える
1.3 「地球温暖化ガス25%削減」への道筋
2. 熱システム分野における「地球温暖化ガス25%削減」への取り組み
2.1 「特解」を求め、課題を解決する
2.2 産業排熱概観
2.3 排熱の有効利用
2.4 産業排熱を再び利用可能な形態へ変換する技術開発
第2章 工場の排熱回収・利用に向けた、バイナリー発電技術
第1節 バイナリー発電技術の現状と課題
1. バイナリー発電技術の概要
2. 低沸点媒体タービンの歴史
3. 低沸点媒体タービンシステムの構成
4. バイナリー発電技術の課題
第2節 カリーナサイクル発電
1. 概要
2. サイクルの特徴
2.1 再生・凝縮サブシステム
2.2 吸収・凝縮サブシステム
2.3 蒸気発生サブシステム
3. アンモニア・水混合媒体の熱力学的性質
3.1 アンモニア・水混合媒体の高温分解特性
3.2 アンモニア・水混合媒体による材料腐食
4. システム構成要素
4.1 タービン
4.2 凝縮器
5. サブシステムの違いによるサイクル特性の比較
6. 熱源性状とシステム構成
7. 高性能化と小型化
第3節 低温熱回収・排熱発電技術とその小型化 〜ランキンサイクル発電〜
1. 小容量発電装置開発時の注目点
2. ランキンサイクル
2.1 仮定
2.2 基礎式
2.3 各種媒体によるサイクル評価
3. 発電装置の構成と要素技術
3.1 発電装置フローシートと作動媒体循環
3.2 膨張タービンの概略検討
3.3 密閉発電機
3.4 タービン発電機
3.5 蒸気発生器/凝縮器
3.6 系統連系インバータ
3.7 調速制御
3.8 作動媒体の選択
3.9 全体構成
4. 膨張タービンの設計
4.1 逆解法による形状設計
4.2 流れ解析
5. IPMローターの強度
6. 実機試作と試験
6.1 開発試験機の概要
6.2 発電特性
6.3 年間発電量の推定
第4節 低沸点媒体の選択と課題
1. 低沸点媒体の選択(サイクルについて)
2. 低沸点媒体の選択(物性値からの検討)
3. 低沸点媒体の種類
4. 低沸点媒体の種類とサイクル効率
第5節 バイナリー発電システムの特性解析と設計
1. システムとしての特性解析
2. 広義回路論的アプローチについて
3. 構成要素の特性の表示法について
4. 低沸点媒体タービンシステムの特性を表す
第6節 バイナリー発電システムにおける高出力化と小型化
1. 蒸発器と凝縮器の体格について
2. 高出力化
3. 負荷操作型の制御について
4. 補機動力について
5. 小型化
6. 全く別の観点からの検討
第3章 工場の排熱回収・利用に向けた、バイナリー発電技術の実証試験例/実用化/実例
第1節 アンモニア水を媒体としたカリーナサイクル発電
1. 主たる製鉄プロセスと日本鉄鋼業の省エネルギー対策
2. 鉄鋼業における排熱発生の実態
3. 鹿島製鉄所カリーナサイクル発電の導入経緯と運転状況
3.1 カリーナサイクル発電設備の導入経緯
3.2 鹿島製鉄所カリーナサイクル発電の設備構成と主仕様
3.3 カリーナサイクル発電システムの特徴
3.3.1 沸点が低い
3.3.2 沸点と露点が異なる(非等温蒸発、非等温凝縮する)
3.4 鹿島製鉄所カリーナサイクル発電設備の運転状況
4. 環境調和型製鉄プロセス技術開発(COURSE50)の概要
4.1 住友金属が取組んでいる排熱回収適用技術開発
4.1.1 低沸点媒体の探索と熱源温度範囲による最適な低位熱発電システムの調査
4.1.2 製鉄所における排熱の有効利用について
4.1.3 コストダウン、サイズダウンのための要素技術開発
4.1.4 建設費コスト削減に向けた探索
第2節 温水排熱発電装置のフィールド試験
〜温水排熱を利用したランキンサイクル発電の実施例〜
1. 温水排熱発電装置の実証試験
1.1 温水排熱発電装置の概要
1.2 温水排熱発電装置の特性試験
1.3 排熱発電装置の実証試験
2. フィールド試験の概要
2.1 フィールド試験
2.2 フィールド試験結果
2.2.1 年間の発電電力推移
2.2.2 日間の運転状態
2.2.3 年間発電量
2.2.4 まとめ
3. 温水排熱発電装置に関連する法規
3.1 監督官庁への届出
3.1.1 工事計画書の作成と届出
3.1.2 主任技術者の選任と届出
3.1.3 保安規定の作成または変更と届出
3.2 電力会社との協議:系統連系
3.2.1 系統連系技術要件
3.2.2 系統連系協議
3.2.3 アンシラリーサービス
3.3 法定検査
3.3.1 使用前自主検査
3.3.2 使用前安全管理審査
3.4 法規のまとめ
第3節 複数工場間の低位熱利用と低位熱発電システムの導入
1. 熱力学の第1 法則と第2 法則
2. エクセルギー
3. 熱回収と熱利用線図
3.1 熱回収
3.2 熱利用線図
4. ピンチテクノロジー
5. 工場全体のエネルギーシステムの最適化
5.1 工場全体プロファイル解析による最適化
5.2 工場地域熱共有の最適化
6. コンビナートの省エネルギー
6.1 熱共有による最適化
6.2 主要コンビナートの調査の結果
7. 千葉コンビナートでの熱共有事例
8. 電力回収の熱サイクル
8.1 ランキンサイクル
8.2 カリーナサイクル
8.3 ウエハラサイクル
9. 作動流体としてアンモニア純物質と混合物質
10. 低位熱発電システムの実施例
11. 低位熱発電システムの普及導入に向けた取り組み
第4節 低温排熱利用バイナリータービン
1. グリーンバイナリータービンの主要目
2. システムフロー
3. グリーンバイナリータービンの特長
3.1 タービン発電機の特長
3.2 熱交換器の特長
3.3 選定媒体の特長
3.4 電気・制御系統の特長
3.5 起動特性/ 部分負荷特性
3.6 部分負荷特性
3.7 コンパクトパッケージ化
4. 適用例
4.1 ガスエンジンとの組合せ
4.2 ガスタービンコージェネレーションとの組合せ
第5節 スクリュ式小型蒸気発電機とバイナリ発電システムへの展開
1. 生産プロセスにおける蒸気利用
2. 生産プロセスにおける蒸気状態量の変化
3. スクリュ式小型蒸気発電機『Steam Star(スチームスター)』の構造と動作原理
3.1 仕様
4. スクリュ式小型蒸気発電機『Steam Star(スチームスター)』の特長
5. スクリュ式蒸気発電機と軸流タービン式発電機との性能比較
5.1 発電効率
5.2 流量変動時の発電能力
6. スクリュ式小型蒸気発電機の用途と効果
6.1 減圧弁に代わる新しい減圧・発電システム
6.2 余剰蒸気有効利用
7. 小型バイナリ発電システムへの応用
第4章 これから期待される、工場の排熱利用に向けたトレンド技術
第1節 ターボ圧縮式ヒートポンプによる排熱回収技術
1. ターボ冷凍機の特徴
2. ターボ冷凍機の高性能化
2.1 冷媒について
2.2 冷凍サイクルの効率向上
2.3 ターボ圧縮機の性能向上
2.4 インバータの適用
3. ターボ冷凍機の高機能化
3.1 制御盤
3.2 通信機能・遠隔監視機能
3.3 暖房用途への適用
3.3.1 熱回収型ターボ冷凍機
3.3.2 ターボヒートポンプ(水熱源、空気熱源)
3.4 温水ターボヒートポンプについて
3.4.1 原理
3.4.2 温水ヒートポンプの特徴
3.4.3 温水ヒートポンプの適用例
第2節 蒸気発生式ヒートポンプ技術
1. 第二種吸収ヒートポンプの作動原理
1.1 単段昇温サイクル
1.1.1 サイクルの説明
1.1.2 成績係数
1.1.3 昇温特性
1.2 多段昇温サイクル
1.2.1 サイクルの説明
1.2.2 多段昇温サイクルの昇温特性
1.2.3 成績係数
2. 吸収式ヒートポンプを利用した蒸気発生装置
2.1 単段昇温型蒸気発生装置の開発
2.1.1 開発機の概要
2.1.2 性能特性と導入効果
2.2 二段昇温型蒸気発生装置の開発
2.2.1 試験機の概要
2.2.2 試験結果
3. 蒸気エゼクタを組合わせた昇圧システム
3.1 システムの構成
3.2 システムの適用例
3.3 実証試験