私の監修のもと、2007年8月に「ナノ蛍光体の開発と応用」、2012年8月に「波長変換用蛍光体材料-白色LED・太陽電池への応用を中心として-」、2016年7月に「次世代蛍光体材料の開発」が企画・出版されてきました。その後8年間が経過しましたが、その間に魅力的な蛍光体材料が開発されてきました。そこで「〈続〉次世代蛍光体材料の開発」を企画し、その後の蛍光体材料の開発状況を紹介することにしました。
進化の著しい材料として、第1編に量子ドット蛍光体を取り上げました。ご存じのとおり、2023年のノーベル化学賞は、「量子ドットの発見と合成」に対する業績により、Moungi G. Bawendi氏、Louis E. Brus氏、Alexey I. Ekimov氏の3名の研究者に与えられました。Bawendi氏が1990年代初頭にホットインジェクション法を開発し、同法によりサイズを制御して発光波長を自在に調節できる量子ドット蛍光体が合成可能になったことは、蛍光体の分野に大きなインパクトを与えました。当初の研究対象材料は可視光の波長で発光するCdSeでしたが、その後にCdフリーの量子ドット材料が開発されてきました。本書では、2010年代半ばに台頭したハロゲン化セシウム鉛ペロブスカイト量子ドットやそのインクの開発とLEDへの応用について取り上げました。(中略)さらに、新たな量子ドットとして注目を集めているカーボン量子ドットについて取り上げています。また、量子ドットの応用として期待されている太陽電池分野について、クリーンな太陽光を量子ドット蛍光体によってどのように活用できるかを紹介しています。第2編では、耐久性や色純度が改善され進化した希土類錯体蛍光体や有機蛍光体について紹介しています。第3編では、新規蛍光体の開発に期待される技術として、単粒子診断法の進展、理論計算と機械学習の組み合わせ、および高圧を利用したLED用蛍光体特性の探求を取り上げています。そのほかに、透明セラミックス蛍光体、植物育成用LED、マイクロLED、レーザー励起用蛍光体、放射線計測用蛍光体などが紹介されています。
目次
【第1編:量子ドット蛍光体の開発と応用】
第1章 ハロゲン化セシウム鉛量子ドット蛍光体の開発
1 ハロゲン化セシウム鉛ペロブスカイト量子ドットの特徴・合成法および有機配位子の役割
2 PeQDs分散液の耐久性(劣化と回復)
3 PeQDsの固体および膜の耐久性(劣化と回復)
第2章 高耐久性ペロブスカイト量子ドットインクの開発
1 はじめに
2 量子ドット色変換層を用いたディスプレイ
3 ペロブスカイト量子ドットについて
3.1 ペロブスカイト量子ドットの特徴
3.2 ペロブスカイト量子ドットの耐久性課題
3.3 ペロブスカイト量子ドットの高耐久化手法
4 高耐久ペロブスカイト量子ドットインクの開発
4.1 インク処方
4.2 光学特性
4.3 耐久性評価
4.4 PeQDsの連続フロー合成
4.5 インクジェット印刷によるQDCCとしての応用
5 今後の展開
第3章 第11-13-16族多元半導体量子ドット蛍光体の開発
1 はじめに
2 固溶体組成による発光波長シフト
3 多元量子ドットの高収率合成
第4章 高発光シリコン量子ドット蛍光体―合成法の開発と塗布型LEDの開発―
1 はじめに
2 シリコン量子ドットの優位性
3 溶液分散型シリコン量子ドットの合成法
4 簡便なシリコン量子ドットの合成法と高効率発光
4.1 HSQ法
4.2 SiQDの合成と光物性
5 塗布法によるSiQD LEDの製造
6 おわりに
第5章 カーボン量子ドット蛍光体の開発
1 はじめに
2 NH2基を有する芳香族化合物からのCQDsの液相合成とその特性
3 OH基を有する芳香族化合物からのCQDsの液相合成とその特性
4 まとめ
第6章 ペロブスカイト量子ドットLEDの開発
1 はじめに
2 ペロブスカイトナノ結晶の二次的な結晶成長による分散性の向上とLEDの高性能化
3 インクジェット印刷によるペロブスカイトナノ結晶LEDの開発
4 高性能かつ安定な赤色ペロブスカイト量子ドットLEDの開発
5 まとめ
第7章 Mn2+ドープ量子ドット蛍光体の太陽電池用波長変換への応用
1 はじめに
2 太陽電池向けの波長変換材料に求められる要素
3 波長変換機能を有する量子ドットの作製
3.1 波長変換材料としての量子ドット
3.2 ドープ型量子ドットの特徴と作製手法
3.3 水熱合成法によるZnSe:Mn量子ドットの作製
3.4 3層構造を用いたZnSe/ZnS:Mn/ZnSコアシェル量子ドットの作製
4 波長変換ガラスの作製
5 波長変換材料の太陽電池への応用
6 おわりに
第8章 量子ドット蛍光体の発光型太陽光集光器への応用
1 はじめに
2 欠陥発光型QDを使用したLSCの作製と評価
3 発光中心ドープ型QDを使用したLSCの作製と評価
4 まとめ
【第2編:希土類錯体・有機蛍光体の開発と応用】
第1章 次世代LEDディスプレイを指向する希土類配位化合物蛍光体の材料設計
1 はじめに:LEDディスプレイの蛍光体に求められる役割
2 希土類配位蛍光体:光増感発光(アンテナ効果)と耐久性の分子材料構築
3 希土類配位蛍光体を用いたLED開発例とその特徴
4 総括
第2章 希土類錯体蛍光体の植物育成への応用
1 はじめに
2 光合成
2.1 光合成初期過程
2.2 クロロフィル色素
3 光波長変換と植物育成
3.1 太陽光
3.2 光波長変換
3.3 希土類錯体蛍光体を用いた植物育成
4 おわりに
第3章 新規なホスフィンオキシド配位子を有する希土類蛍光錯体の創成と応用
1 はじめに
2 bジケトナト錯体の性質
3 異なる2種類のホスフィンオキシド配位子を有するEu(III)-bジケトナト錯体
4 非対称構造ジホスフィンジオキシド配位子を有するEu(III)-bジケトナト錯体
5 テトラホスフィンテトラオキシド配位子を有するEu(III)-bジケトナト錯体
6 高溶解性,強発光Eu(III)-bジケトナト錯体のアプリケーション
7 希土類蛍光錯体の将来展望
8 おわりに
第4章 高色純度・高耐久性有機蛍光体の開発と応用
1 はじめに
2 高色純度・高耐久性有機蛍光体の開発
3 毒性元素フリー有機波長変換シートの開発
4 液晶ディスプレイへの応用
5 まとめ
【第3編:バルク蛍光体の開発と応用】
第1章 第一原理計算と機械学習の組合せによる蛍光体の開発
1 はじめに
2 ガーネット型酸化物中のCe3+イオンにおける4f-5d遷移エネルギーの予測
3 計算方法
4 電子状態と局所構造に基づく4f-5d遷移エネルギーの予測モデル
5 構造データのみに基づく4f-5d遷移エネルギーの予測モデル
6 おわりに
第2章 最新の蛍光体量子効率測定―粉末相対量子効率測定法と単粒子近接蛍光測定法―
1 はじめに
2 粉末蛍光体の量子効率測定
2.1 積分球法と配光法
2.2 相対測定法
3 単粒子蛍光体の光学特性評価
3.1 励起・発光スペクトル測定
3.2 単粒子の量子効率評価
4 おわりに
第3章 aサイアロン蛍光体の特性改善とその応用
1 はじめに
2 aサイアロン蛍光体
3 Eu付活Ca-aサイアロン蛍光体の特性改善
4 Eu付活Li-a -サイアロン蛍光体の特性改善
5 a -サイアロン蛍光体の応用
6 おわりに
第4章 透明蛍光サイアロンセラミックスの製造と応用
1 はじめに
2 希土類添加物がa-SiAlONセラミックスの透明性に及ぼす影響
3 Lu-a -SiAlON:Ce3+セラミックス
第5章 LED用およびその関連の蛍光体の新規特性の探求
1 はじめに
2 光イオン化に関係する特徴的な発光現象
3 光イオン化に関係する高圧下での現象
4 発光波長シフトに関する特徴的な現象
5 高圧によるユニークな発光波長シフト
6 発光半値幅に関する特徴的な現象
7 高圧による発光半値幅の変化
8 Mn4+, Cr3+賦活系LED用およびその関連の蛍光体の発光の特徴
9 高圧下での特徴的なMn4+発光
10 多重化学置換による温度特性の向上
第6章 植物育成用LEDの開発
1 植物育成用照明の歴史
2 植物育成に必要なスペクトル
3 植物育成用LED: Hortisolis®
4 LEDの作製と植物育成試験
4.1 チェリートマト
4.2 リーフレタス
4.3 ビオラ(食用)
5 まとめ
第7章 UV-lLEDの赤色/緑色/青色lLEDに対する優位性
1 Introduction
2 Materials and Methods
3 Results
3.1 PL測定およびTEM評価
3.2 I-V特性
3.3 I-L特性およびEQEについて
3.4 発光スペクトル
4 Conclusions
第8章 レーザー励起用蛍光体の開発
1 はじめに
2 レーザー照明の市場
3 レーザー照明とLED照明の比較
4 レーザー照明用蛍光体の現状
4.1 YAG:Ce蛍光体
4.2 YAG:Ce蛍光体デバイス
5 YAG:Ce/Al2O3共晶蛍光体
5.1 共晶体
5.2 YAG:Ce共晶蛍光体光学特性
5.3 YAG:Ce/Al2O3共晶蛍光体デバイス
6 コンポジットセラミックス蛍光体
7 まとめ
第9章 放射線計測用バルク単結晶蛍光体の開発
1 はじめに
2 シンチレータと熱・輝尽蛍光材料
3 バルク単結晶の利用と合成法
4 実用放射線誘起蛍光体の特性と今後の開発動向
5 おわりに
※ 「蛍光体材料」という本書テーマを考慮し、一部の図は各章末にカラー版も掲載しています。