ゲルには増粘安定効果があり食品、化粧品、医用材料、保水剤、衝撃吸収材など多岐の分野に存在し、重要な役割を担っている。増粘安定剤は、食品を例にとると「水に溶解又は分散して粘稠性を生じる高分子物質」であり、少量で高い粘性を示す場合は「増粘剤」、液体のものをゼリー状に固める作用(ゲル化)を目的として使う場合には「ゲル化剤」、粘性を高めて食品成分などを均一に安定させる効果を目的として使う場合は「安定剤」と呼ばれる。
ゲル状食品は昔から豆腐、羊羹、コンニャク、ヨーグルト、ゼリーなど味だけではなく食感をも楽しむ食品として使われた。最近ではゲル状調味料が発売され、形態保持性を利用した垂れない調味料として好評である。また、高齢者用食品として濃厚流動食品、栄養・水分補給飲料、咀嚼・嚥下補助食品などの市場は、2011年に1,000億円を突破し、毎年100億円規模で拡大が予想されている。
一方、化粧品に使用されるゲル化剤には、水性と油性があるが水性ゲル化剤が多く使われている。化粧品には増粘効果が高いこと、皮膚に対する安全性が高いこと、外観および使用感覚が良好であることなどが求められる。また、洗顔後のスキンケアを一品で済ませられるジェル状の基礎化粧品の市場が拡大を続けている。この多機能ジェルは、化粧水、美容液、乳液、クリーム、化粧下地など、複数の機能を一つに集約している。
本書は、ゲルの食品および化粧品への応用を中心に技術開発の動向を各分野の第一線でご活躍中の方々にご執筆いただいた。そして、食品用ゲル、化粧品用ゲルの市場動向および天然高分子、微生物産生多糖類、タンパク質、半合成セルロース等の製法、生産量、メーカーシェア、用途別需要量、価格などをできるだけ詳細に調査・報告した。
ゲルや増粘安定剤、食品、化粧品、医用材料などの研究開発に携わられる企業や大学の方々に最新の情報を提供できれば幸いに存じます。
目次
【技術編】
第1章 食品におけるゲル 梶原莞爾
1 はじめに
2 糖鎖系ゲルの構造と食感
3 タンパク質系ゲルの構造と食感
4 機能性流動ゲル
第2章 きざみ食とゲル 吉村美紀
1 はじめに
2 きざみ食とは
3 トロミ剤でまとめたきざみ食 ゾル-ゲル混合状態
3.1 増粘剤(グアーガム,ローカストビーンガム, キサンタンガム)をトロミ剤としてきざみ食に添加した場合の影響
3.2 濃度の異なるキサンタンガムをトロミ剤としてきざみ食に添加した場合の影響
3.3 キサンタンガムの調味料の影響
3.4 固有粘度の異なるキサンタンガムをトロミ剤としてきざみ食に添加した場合の影響
3.5 キサンタンガム・ジェランガム混合系をトロミ剤としてきざみ食に添加した場合の影響
4 形状が異なるきざみ食の咀嚼性
5 均質および不均質なゲル状態
第3章 澱粉ゲル 井ノ内直良
1 はじめに
2 澱粉粒の性質
3 澱粉の分子構造
4 澱粉の糊化
5 糊化温度と澱粉糊の粘度
6 澱粉の糊化に影響を及ぼす因子
7 澱粉糊の老化
8 澱粉糊の老化に関する因子
9 共存物質が澱粉ゲルに及ぼす影響
第4章 食品多糖類ゲル〜ゲル化剤と食品のおいしさ〜 船見孝博
1 はじめに
2 ゲル化剤を含む食品ハイドロコロイドの市場動向
3 テクスチャーの重要性
4 テクスチャーモディファイヤーとしての食品ハイドロコロイドの有用性
5 テクスチャーと化学的な味(フレーバーリリース)との関係
6 テクスチャーと機器特性の相関
7 高齢者用のゼリー状食品に使用される多糖類(テクスチャーデザインコンセプトによる新しい介護食ゼリーの開発)
7.1 レトルト惣菜ゼリー
7.1.1 カットゼリー入りゼリー
7.1.2 二層ゼリー
7.1.3 擬似果肉入りゼリー(果肉を一切使用せず、ゲル化剤のみで調製したゼリー)
8 おわりに
第5章 セルロース誘導体系ゲル 早川和久
1 はじめに
2 メチルセルロースの構造とゲル化のメカニズム
3 水溶液の熱可逆ゲル化の実際
4 MC類の熱可逆ゲルの応用
5 工業用途への応用
5.1 芳香剤への応用
5.2 点眼剤への応用
5.3 セラミックの押出成形への応用
5.4 カプセル用途への応用
6 その他のセルロース誘導体のゲル
6.1 カルボキシメチルセルロースによるゲル
6.2 低置換度ヒドロキシプロピルセルロースによるゲル
第6章 海藻系ゲル 宮島千尋
1 はじめに
2 アルギン酸の構造
2.1 陽イオンとの反応性
2.2 Caイオンとの親和性
3 アルギン酸のゲル化
4 M/G比
4.1 海藻の種類とM/G比
4.2 M/G比とゲル強度
5 アルギン酸ゲルの特徴
6 アルギン酸ゲルの応用例
6.1 歯科印象剤
6.2 飼料
6.3 ペットフード
6.4 水処理
6.5 食品
第7章 ゲル化性タンパク質 三浦 靖
1 はじめに
2 植物起源タンパク質
2.1 大豆タンパク質
2.1.1 種類
2.1.2 化学的性状
2.1.3 ゲル形成性
2.1.4 工業用途の素材
2.2 小麦タンパク質
2.2.1 種類
2.2.2 化学的性状
2.2.3 ゲル形成性
2.2.4 工業用途の素材
3 動物起源タンパク質
3.1 乳タンパク質
3.1.1 種類
3.1.2 化学的性状
3.1.3 ゲル形成性
3.1.4 工業用途の素材
3.2 卵タンパク質
3.2.1 種類
3.2.2 化学的性状
3.2.3 ゲル形成性
3.2.4 工業用途の素材
3.3 筋肉タンパク質
3.3.1 種類
3.3.2 化学的性状
3.3.3 ゲル形成性
3.3.4 工業用途の素材
3.4 誘導タンパク質(ゼラチン)
3.4.1 種類
3.4.2 化学的性状
3.4.3 ゲル形成性
3.4.4 工業用途の素材
4 おわりに
第8章 化粧品におけるゲル 早瀬 基
1 はじめに
2 ゲル形成のメリット
2.1 製剤安定化
2.2 感触調製・機能付与
3 ゲル化剤とは
3.1 ゲル化剤の種類と特徴
3.1.1 合成高分子ゲル化剤
3.1.2 天然高分子ゲル化剤・半合成高分子ゲル化剤
3.1.3 低分子ゲル化剤
3.2 ゲル化剤の選定条件
3.3 ゲル化剤使用の留意点
3.3.1 安全性
3.3.2 品質管理
3.3.3 処方における共存物質の影響
3.3.4 製造条件
3.3.5 その他の留意点
4 おわりに
第9章 アクリル系増粘剤 山口博史,森光裕一郎,中塚昭男
1 はじめに
2 架橋型非中和タイプ
2.1 カルボマー
2.2 顆粒状カルボマー
2.3 アクリレーツ/C10-30アルキルアクリレートクロスポリマー
2.4 超耐塩性増粘剤SERK
3 架橋型部分中和タイプ
3.1 カルボマーNa
3.2 アクペックMGの応用例
4 エマルション型増粘剤
4.1 ASEとHASEの一般物性
4.2 アクペックLの配合例
5 おわりに
【市場編】
第10章 食品用ゲル
1 ゲル主体食品
1.1 豆腐
1.2 練り製品
1.3 チーズ
2 食感改良ゲル化食品
2.1 グミ
2.2 ゼリー
2.3 プリン
3 ゲル飲料
3.1 主なゲル飲料メーカー
4 咀嚼・嚥下補助食品
4.1 特別用途食品制度
4.2 高齢者用食品市場
4.3 参入メーカー
5 食物繊維
5.1 水溶性食物繊維
5.2 不水溶性食物繊維
6 サプリメント
6.1 サプリメント市場
6.2 ゲル化剤の使用例
第11章 化粧品用ゲル
1 化粧品の市場動向
2 化粧品のゲル化剤
3 スキンケア(皮膚用化粧品)
3.1 化粧水
3.2 乳液
3.3 クリーム
3.4 美容液(エッセンス)
3.5 多機能ジェル(オールインワンジェル)
3.6 洗顔料
3.7 パック
3.8 ハンド化粧品
3.9 UV化粧品
3.10 髭そり用化粧品
3.11 男性用スキンケア
4 口紅(口唇化粧品)
4.1 市場
4.2 成分
4.3 シリコーンオイルとゲル化剤
5 ヘアコンディショナー
5.1 市場
5.2 主なメーカー
5.3 成分
第12章 ゲル化・増粘安定剤
1 植物由来のゲル化・増粘安定剤
1.1 デンプン
1.2 ペクチン
1.3 ローカストビーンガム
1.4 グアーガム
1.5 タマリンドガム(タマリンド種子多糖類)
1.6 アラビアガム
1.7 コンニャクグルコマンナン
1.8 トラガントガム
1.9 大豆多糖類
1.10 サイリウム
2 微生物由来のゲル化・増粘安定剤
2.1 キサンタンガム
2.2 カードラン
2.3 ジェランガム
2.4 サイクロデキストリン(CD)
3 藻類由来のゲル化・増粘安定剤
3.1 カラギーナン
3.2 寒天
3.3 アルギン酸(アルギン酸ナトリウム)
3.4 ヒアルロン酸(ヒアルロン酸ナトリウム)
4 タンパク質のゲル化・増粘安定剤
4.1 ゼラチン
4.2 大豆ペプチド
4.3 大豆タンパク
4.4 卵タンパク
4.5 小麦タンパク
5 合成・半合成ゲル化・増粘安定剤
5.1 カルボキシビニルポリマー
5.2 カチオン化グアーガム
5.3 粉末セルロース
5.4 結晶セルロース
5.5 カルボキシメチルセルロース(CMC)
5.6 ヒドロキシエチルセルロース(HEC)
5.7 ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)
5.8 メチルセルロース(MC)
5.9 ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)
5.10 エチルセルロース(EC)
5.11 カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)
5.12 酢酸フタル酸セルロース(CAP)