近年、塗膜およびコーティングの高機能化と高品位化に伴い、欠陥を出さない細部にわたるプロセス制御が求められている。コーティングとは、塗液を液膜へと拡張し、溶剤を乾燥し固着させるプロセスと定義されるが、材料科学では、大きいエネルギー変化を伴う現象として理解できる。また、コーティングは広範囲な要素技術の集積であり、様々な視点でのアプローチが求められる。よって、プロセスの高精度化には、熱力学や流れ解析、および応力解析などの基礎技術の適用が不可欠である。
本書では、濡れの基礎理論から始まり、表面処理、乾燥、加工技術、デバイス応用技術、膜質評価などのコーティングに関する内容について広範囲に記述する。また、各種トラブルの解析手法や事例を多く盛り込んでいる。本書はポイントとなる内容を一発で(ダイレクトに)分かるように、見出しを具体的に示した。また、本書内に掲載した実験データ等の多くは著者が取得した内容であり、測定手法およびノウハウを含めて記載している。よって、詳細な実験データや方法を記載し、読者が再実験も可能な内容とした。
日々の開発製造現場における基礎として、本書の内容を役立てていただければ幸いである。
目次
第1章 濡れ性を制御する!
1. 表面粗さと素材割合によって接触角は変化する
2. 表面の現象は表面エネルギーと表面積に強く依存する
3. 接触角をエネルギー的に解析する
4. 多くの濡れ挙動は分散極性と拡張係数により説明できる
5. 撥水表面は濡れにくい
6. 凸部では濡れにくく凹部では濡れやすい
第2章 濡れ欠陥の発生要因を見極める!
1. 接着層には多くのピンホールが生じる 〜VF(viscos finger)変形〜
2. ピンホールは拡張モードで解決する
3. ピンニングにより濡れは支配される
4. 塗膜の熱処理により溶液中の付着性をコントロールする
5. 乾燥時の液体メニスカスの挙動を追う
第3章 塗膜の凝集性を制御する!
1. 塗膜の表面には極薄い硬化層ができている
2. 高分子膜の表面粗さをナノスケールで制御する
3. ナノマニピュレーション法により高分子集合体の凝集性を解析できる
4. 高分子膜中へのアルカリ水溶液の浸透により応力が変動する
5. 塗膜の熱処理により界面への溶液浸透は加速する
第4章 表面および界面特性を制御する!
1. 塗膜の付着性の最適化には表面エネルギーの極性成分の設定が有効である
2. ウェットエッチングは塗膜の内部応力でコントロールできる
3. シランカップリング処理により固体表面を疎水化できる
4. シランカップリング処理には最適な処理温度と処理時間がある
5. シランカップリング処理により密着性は改善するが付着性は劣化する
6. 界面構造の解析により付着性をコントロールできる
第5章 乾燥プロセス・装置を制御する!
1. 塗膜の乾燥による硬化メカニズムを明確にする
2. スピンコート法による塗膜の膜質は均一である
3. 熱処理によって大気中の付着力は増加する
4. 減圧乾燥によって塗膜の内部応力を精密にコントロールできる
5. 超臨界と凍結乾燥法により溶剤のラプラス力を低減できる
第6章 乾燥欠陥を抑制する!
1. 塗膜のクラック発生を抑制する
2. 乾燥むらは乾燥時の対流が原因である
3. ウォータマーク(乾燥痕)は対流とピンニングで生じる
4. 塗膜内のガス発生により微小剥離が生じる
5. 微細パターンにより微小気泡の付着脱離が解析できる
第7章 微粒子の凝集性を制御する!
1. 小さいサイズの微粒子ほど凝集を支配する
2. 微粒子の凝集はサイズに依存する
3. 粒子サイズが小さいほど微粒子の凝集力は下がる
第8章 微細パターンの付着を制御する!
1. リソグラフィーにより高分子パターンは形成される
2. 塗膜ラインパターンは先端から剥離する
3. 微細加工パターンの付着性は付着面積に比例する
4. 溶液中の塗膜パターンの付着力は乾燥雰囲気に比べて低下する
5. 高分子パターンと基板界面は微細空孔(vacancy)が形成されている
第9章 塗膜の評価解析方法
1. 屈折率により膜の浸透・膨潤が解析できる
2. 原子間力顕微鏡(AFM)により微細加工パターンの付着性が解析できる
3. 原子間力顕微鏡(AFM)を用いて微小固体のヤング率を測定する
4. 原子間力顕微鏡(AFM)でナノ気泡・ナノ液滴が解析できる
5. 相互作用力を実測し付着力を推定する
6. 水素結合成分で高分子膜の相互作用を解析できる
第10章 塗膜の実用分野
1. CVD膜の被覆性およびボイド形成は段差形状に依存する
2. 薄膜の加工技術が半導体集積回路は発展を支えてきた
3. 最先端エレクトロニクスにも塗膜が使われている 〜MEMSにおける薄膜技術〜
4. コーティング膜の信頼性を解析する