シリコーンあるいはポリシロキサンはM(R3SiO1/2)、D(R2SiO2/2)、T(RSiO3/2)、Q(SiO4/2)の4つの構造単位の組み合わせにより成り立っている。70年の歴史を持つシリコーン工業における製品は、D単位を主成分とする直鎖高分子、中でもポリジメチルシロキサンを用いたオイルやゴムが主である。直鎖高分子の特性が平均分子量と分子量分布によって規定できるのに対し、TやQ単位を主たる成分とするシリコーンレジンは、ゴムよりも硬い材料を与えるとともに、種々の三次元構造の構築により、多彩な構造・物性を与える可能性を持っている。これは、シリコーンレジンのうちT単位のみからなるシルセスキオキサンにおいて、構造が特定されたかご型分子が存在することを反映している。シルセスキオキサンは、バルク材料としての物性だけではなく、かご型構造であることによる特性の発現、有機-無機ハイブリッド材料等のナノビルディングブロックとしても注目されている。このような背景で2007年に4編25章からなり36人の著者による「シルセスキオキサン材料の化学と応用展開」を発行した。本書は、好評を博したこの第1版から6年経ち、その内容のその後の発展、あるいは新しい内容を追加して、シルセスキオキサン材料の機能性や応用により焦点を当てて編集した。今回は3編26章からなる。第I編には基礎的内容、第II編には機能性を持たせたシルセスキオキサン、さらに第III編ではそのような機能を用いた最新の応用をまとめた。基礎的内容としてはかご型分子の水素包摂に関するシミュレーション、特定の構造の分子の合成から細孔を制御した構造体の合成など、機能性としては、官能基を持ったかご型またはポリシルセスキオキサン、微粒子、あるいは細孔構造体の種々の物性や光,電気、刺激応答性、触媒などの機能を解説、さらに応用編ではそのような機能を用いた電子、光学あるいは表面機能材料等への応用を掲載した。これらの編構成については、それぞれの章についてどのカテゴリーに分類するべきか明確に区別できない場合があることをご了解いただきたい。本書はシルセスキオキサンの最新の化学、技術、機能、応用をカバーしようとするものであり、広い意味でのシリコーンレジン材料としても新しい可能性、方向性を示すことができると考える。
目次
【第I編 基礎化学, 分子設計と構造制御】
第1章 総論 (伊藤真樹)
1 はじめに
2 シルセスキオキサン類の一般的な合成法
3 ポリシルセスキオキサンの合成と特徴
4 かご型シルセスキオキサンの合成と特徴
5 おわりに
第2章 かご型シルセスキオキサンの水素分子包摂反応に関する量子化学計算 (工藤貴子)
1 はじめに
2 水素分子挿入反応
2.1 Tn (n=6,8,10, 12)の反応
2.2 ケイ素上の置換基効果
2.3 かごの大きさの影響
2.4 骨格元素置換類縁体
3 おわりに
第3章 かご型および精密合成ラダーシルセスキオキサン (海野雅史)
1 はじめに
2 かご型シルセスキオキサン
2.1 一般的合成法
2.2 かご型オクタシルセスキオキサンの新しい合成法
2.3 かご型ヘキサシルセスキオキサン
2.4 より大きなかご型シルセスキオキサン
3 はしご型シルセスキオキサン
3.1 ラダーシロキサンの最近の合成
3.2 反応性置換基を有するラダーシロキサンの合成
4 環状シラノールの最近の合成
5 まとめと今後の展望
第4章 規則的な分子構造およびナノ構造を有するイオン性ポリシルセスキオキサンの合成と機能化 (金子芳郎)
1 はじめに
2 ヘキサゴナル相に積層するカチオン性ラダー状PSQの合成
3 ヘキサゴナル相に積層するアニオン性ラダー状PSQの合成
4 カチオン性ラダー状PSQとかご状オリゴSQの選択的合成
5 SQ構造を有するイオン液体の合成
6 カチオン性ラダー状PSQを用いるハイブリッド化
6.1 ラダー状PSQによる多層カーボンナノチューブの分散
6.2 キラル基含有ラダー状PSQの創製と色素分子へのキラリティー誘起
7 おわりに
第5章 自己組織化によるメソ構造制御 (下嶋敦, 黒田一幸)
1 はじめに
2 層状メソ構造体の合成
2.1 R-Si(OR’)3系
2.2 (R’O)3-R-Si(OR’)3系
3 有機基の多様化による機能性付与
4 構造,形態の多様化
4.1 ベシクル型シルセスキオキサンの形成
4.2 不斉炭素の導入によるらせん状ファイバーの形成
4.3 充填パラメータの制御によるメソ構造制御
5 おわりに
第6章 細孔構造を精密に制御した有機修飾シルセスキオキサン塊状材料 (金森主祥, 中西和樹)
1 はじめに
2 有機修飾アルコキシシランからの塊状多孔性ゲル形成
3 3官能性アルコキシシランから得られる多孔性材料
3.1 ハイドロゲンシルセスキオキサン(HSQ)
3.2 メチルシルセスキオキサン(MSQ)
3.3 ビニルシルセスキオキサン(VSQ)
4 おわりに
【第II編 機能性を持たせたシルセスキオキサン・ハイブリッド】
第1章 エトキシシリル基を側鎖とするポリシルセスキオキサンの合成と性質 (郡司天博, 塚田学)
1 緒言
2 実験
2.1 試薬
2.2 4-(2-メチル-2-プロペノキシ)ベンゼンスルホン酸ナトリウムの合成
2.3 4-(2-メチル-2-プロペノキシ)ベンゼンスルホン酸塩化物の合成
2.4 4-(2-メチル-3-トリクロロシリルプロピル)ベンゼンスルホン酸塩化物の合成
2.5 4-(2-メチル-3-トリエトキシプロピル)ベンゼンスルホン酸エチル(STES)の合成
2.6 ポリ(3-(4-エトキシスルホニルフェノキシ)-2-メチルプロピル)シルセスキオキサン(SPES)の合成
2.7 自立膜の調製
2.8 測定
3 結果と考察
3.1 SPESの合成
3.2 SPES自立膜の調製結果
4 まとめ
第2章 ダブルデッカー型フェニルシルセスキオキサン (大場智之)
1 はじめに
2 反応性有機官能基変性DD-PSQ
3 エポキシ変性シルセスキオキサン
4 エポキシ変性DD-PSQの製造方法
5 エポキシ変性ダブルデッカー型シルセスキオキサンの特性
5.1 熱分解測定
5.2 グリシジル変性DD-PSQ
5.2.1 引張り試験
5.2.2 耐熱性
5.3 脂環式エポキシ変性シルセスキオキサン
5.3.1 光学特性の評価
5.3.2 熱特性の評価
5.3.3 電気特性の評価
6 おわりに
第3章 機能性材料としてのグラフト化ポリシルセスキオキサン (樫尾幹広, 守谷治)
1 緒言
2 粘接着材料への応用
3 温度応答性材料への応用
4 おわりに
第4章 シルセスキオキサン微粒子の機能化とその応用 (森秀晴)
1 はじめに
2 水溶性シルセスキオキサン微粒子の合成
3 共縮合反応による水溶性シルセスキオキサン微粒子の合成
4 アミノ酸系ポリマーを基盤とした刺激応答性有機・無機ハイブリッド
5 高屈折率材料としての硫黄含有シルセスキオキサン微粒子
6 低屈折率材料としてのフッ素含有シルセスキオキサン微粒子
7 両親媒性シルセスキオキサン微粒子の合成と自己支持膜の形成
8 おわりに
第5章 シルセスキオキサンを配位子とする遷移金属錯体の合成と性質 (田邊真, 小坂田耕太郎)
1 はじめに
2 ケイ素を配位原子とする遷移金属シルセスキオキサン錯体の合成
3 遷移金属–酸素原子の結合形成と性質
4 酸素を配位原子とする前周期遷移金属シルセスキオキサン錯体
5 酸素を配位原子とする後周期遷移金属シルセスキオキサン錯体
6 おわりに
第6章 光・電子機能性シルセスキオキサン (今栄一郎)
1 はじめに
2 ビオロゲンを含むPSQのエレクトロクロミック材料への応用
3 オリゴチオフェンを含むPSQの透明導電膜への応用 )
3.1 構造制御したオリゴチオフェン
3.2 オリゴチオフェンを含むトリアルコキシシランモノマーの合成
3.3 オリゴチオフェン含有PSQの合成と基板への固定化
3.4 電気化学的性質
3.5 光学的性質
3.6 電気的性質
4 関連研究
4.1 導電性高分子とシリカの複合化
4.2 カルバゾールを有する籠状シルセスキオキサン
4.3 脱水素重縮合を用いたポリシルセスキオキサンの合成
第7章 シルセスキオキサンを用いた元素ブロック高分子材料 (田中一生, 中條善樹)
1 はじめに
2 機能性元素ブロックを含む有機-無機ハイブリッド材料
2.1 複数の発光性元素ブロックによる白色発光材料
2.2 イオン液体によるマイクロ波の熱変換特性を利用した発光性ハイブリッド作成
3 POSSを基盤とした元素ブロック材料の開発
3.1 POSSの特徴
3.2 高分子の耐熱・機械的特性向上
3.3 屈折率制御
3.4 POSSイオン液体
3.5 イオン液体の熱物性制御のためのPOSSフィラー
4 生体材料設計における機能性元素ブロックとしてのPOSS
4.1 POSS核デンドリマーによる選択的分子内包技術の開発
4.2 高フッ素化POSSを元素ブロックとした機能性MRプローブ開発
5 おわりに
第8章 単一成分かご型シルセスキオキサンハイブリッド (中建介)
1 はじめに
2 ダンベル型またはスター型POSS化合物
3 かご型シルセスキオキサン(POSS)核デンドリマー
4 POSS核デンドリマー材料
5 さいごに
第9章 メソポーラス有機シリカ (後藤康友, 前川佳史, 稲垣伸二)
1 はじめに
2 PMOの合成と機能
2.1 合成法
2.2 PMOの機能拡張
3 PMOの応用
3.1 光捕集アンテナ機能
3.2 人工光合成型光触媒
3.3 多色発光材料
3.4 分子触媒担体
3.5 ドラッグデリバリーシステム(DDS)
【第III編 シルセスキオキサンの応用】
第1章 シルセスキオキサン系絶縁膜材料 (保田直紀)
1 はじめに
2 ポリオルガノシルセスキオキサン
3 ポリフェニルシルセスキオキサンの絶縁膜材料への用途展開
4 梯子状ポリフェニルシルセスキオキサンの合成
5 梯子状ポリフェニルシルセスキオキサンの諸特性
5.1 耐熱特性
5.2 ガラス転移温度
5.3 残留応力特性
5.4 脱ガス特性
5.5 絶縁特性
5.6 接着特性
5.7 絶縁膜材料としての特性比較
6 今後の応用展開
第2章 マイクロ・ナノパターニングとホログラム形成 (河村剛, 松田厚範)
1 はじめに
2 インプリント加工
3 フォトリソグラフィー加工
4 干渉露光法とホログラム形成
5 まとめ
第3章 室温ナノインプリント (松井真二)
1 はじめに
2 ハードモールドを用いた室温ナノインプリント
3 PDMSソフトモールドを用いた室温ナノインプリント
第4章 ポリメチルシルセスキオキサンによる有機TFTゲート絶縁膜 (松川公洋)
1 はじめに
2 ゲート絶縁膜の要求特性
3 ポリメチルシルセスキオキサン(PMSQ)の合成と特性
4 PMSQのゲート絶縁膜材料への応用
5 PMSQゲート絶縁膜への機能付与
5.1 PMSQ薄膜表面の疎水化
5.2 PMSQの高誘電率化
6 おわりに
第5章 ポリシルセスキオキサンの光学素子への応用 (冨木政宏)
1 研究の背景
2 有機修飾シリカ膜の作製と疎水性
3 低損失スラブ型光導波路
4 チャネル型光導波路
5 まとめ
第6章 シルセスキオキサンを用いた透明封止材 (辻村豊)
1 はじめに
2 シルセスキオキサンを骨格とするエポキシ樹脂の合成
3 シルセスキオキサン骨格エポキシ樹脂の硬化物
4 シルセスキオキサン骨格エポキシ樹脂の改良
5 SQ-OSi-EPの硬化物
6 異なる置換基の導入
7 硫黄バリア性
8 おわりに
第7章 チオール系シルセスキオキサンの特性と応用 (福田猛)
1 チオール基が導入されたシルセスキオキサン類について
2 チオール基の反応性について
3 チオールSQを用いた有機・無機ハイブリッド硬化物の特性
4 チオールSQを用いた有機・無機ハイブリッド材料の各用途への応用
5 まとめ
第8章 光硬化型シルセスキオキサン誘導体のコーティング材料としての応用 (北村昭憲, 鈴木浩)
1 はじめに
2 光硬化型SQ シリーズ
3 ラジカル重合型(M)AC-SQシリーズ
4 耐擦傷性および耐摩耗性を向上させたHD(ハードコート)グレード
5 宇宙機用保護コーティング剤への応用
6 おわりに
第9章 ポリシロキサン自己支持膜のクラックに対するUV光の影響 (青木隆一, 畠山忠)
1 はじめに
2 ポリシロキサン樹脂の合成
3 ポリシロキサン自己支持膜
4 各種ポリシロキサン自己支持膜への高圧UV照射時間とクラック発生
5 高圧UV照射試験前後での構造変化
5.1 ATR-FTIR測定結果
5.2 29Si {1H}交差分極/マジック角回転核磁気共鳴(CP/MAS NMR)スペクトル測定結果
5.3 示差熱-重量分析(DTA-TG)測定結果
6 まとめ
第10章 フッ素化シルセスキオキサン含有ハイブリッド高分子の合成と高耐久性ハードコートフィルムの開発 (山廣幹夫)
1 はじめに
2 パーフルオロアルキルシルセスキオキサンの合成
3 ラジカル重合によるパーフルオロアルキルシルセスキオキサン含有高分子の合成
4 有機-無機ハイブリッドコーティング薄膜の調製と表面特性解析
5 高耐久性ハードコートフィルムの開発
6 おわりに
第11章 含フッ素シルセスキオキサン化合物とその応用例 (山本育男)
1 はじめに
2 含フッ素シルセスキオキサン化合物の狙い
3 含フッ素シルセスキオキサン
3.1 含フッ素シルセスキオキサンモノマーの合成
3.2 含フッ素シルセスキオキサンモノマーの構造決定
3.3 含フッ素シルセスキオキサンポリマーの合成
3.4 含フッ素シルセスキオキサンポリマーの構造決定
4 含フッ素シルセスキオキサン化合物の表面特性
4.1 静的接触角
4.2 布の撥水撥油性
4.3 分子鎖凝集構造との関係
5 おわりに