日本の繊維産業は、量的にはピークを過ぎたと言われている。中国・インドをはじめとするアジア繊維強国の量的・技術的追い上げが著しく、日本の繊維企業では、選択と集中が加速している。
現時点で、日本に競争力がある繊維素材・分野は、衣料用や家庭用では高感性や高付加価値素材と人工皮革など、産業用では水処理に使用される中空糸や、今回のテーマである高機能・高性能繊維素材群である。すなわち炭素繊維やアラミド繊維など強度・弾性率に優れる高性能繊維と導電性など機能に優れる高機能性繊維などを用いた素材や製品展開である。これら、高性能・高機能繊維群の素材開発においては、日本は世界一の技術水準を誇っている。また、これらの素材は、衣料用や家庭用ではなく、産業用で使用されることが多いが、日本は、建築・土木・自動車・電気・電子などの重要産業分野において世界トップレベルの技術水準にあり、これらユーザー業界とのコラボレーションにより新製品開発が進められている。本書は、この高機能・高性能素材群を繊維段階から製品展開までを含めて紹介したものである。
「巻頭言」より
目次
【第1編 総論】
総論
1 高性能繊維とは
2 高強度・高弾性率繊維
3 高耐熱性繊維
4 高機能繊維
5 ナノファイバー
【第2編 原材料開発】
第1章 高強度・高弾性率繊維
1 「トワロン」,「テクノーラ」の特性と用途展開
1.1 アラミド繊維の概要
1.1.1 製造の変遷(歴史)
1.2 製造技術
1.2.1 パラ型アラミドの重合と製糸
1.2.2 プロセス
1.3 パラ型アラミド繊維の物性と用途展開
1.4 今後の展望/最新の技術動向
2 液晶ポリエステル繊維“シベラス”の特性と用途展開
2.1 はじめに
2.2 “シベラス”の特性
2.3 “シベラス”の用途展開
2.4 おわりに
第2章 有機系炭素繊維・耐炎化繊維
1 PAN系炭素繊維「テナックス」の基盤技術と用途展開
1.1 はじめに
1.2 炭素繊維基盤技術について
1.3 複合材料への用途展開
1.4 終わりに
2 合成繊維(酸化ポリアクリルニトリル)「パイロメックス」の特性と用途展開
2.1 パイロメックス開発の背景
2.2 パイロメックスの製法
2.3 パイロメックスの特性
2.4 パイロメックスの製品一覧
第3章 高耐熱性・高難燃性繊維
1 「コーネックス」の特性と用途展開
1.1 アラミド繊維の概要
1.1.1 製造の変遷(歴史)
1.2 製造技術
1.2.1 メタ型アラミドの重合と製糸
1.2.2 プロセス
1.3 メタ型アラミド繊維の物性と用途展開
1.4 今後の展望/最新の技術動向
2 KURAKISSSTMの特性と用途展開
2.1 KURAKISSSTMの特性
2.2 熱可塑性複合材料への展開
2.3 繊維技術をベースにした熱可塑性複合材料の製造方法と特徴
2.4 スプリングバック混抄紙複合材料の特徴
2.5 おわりに
3 繊維の難燃化
3.1 はじめに
3.1.1 人命保護
3.1.2 財産保護
3.1.3 難燃化の効能
3.2 難燃メカニズム
3.3 規制の現状
3.4 難燃剤種類
3.5 繊維の難燃化
3.5.1 難燃化製品
3.5.2 難燃規格,試験方法
3.5.3 繊維の難燃化方法
3.5.4 難燃繊維加工方法
3.6 まとめ
第4章 有機導電性繊維
1 「銀メッキ繊維ODEX®(オデックス)」の特性と用途展開
1.1 はじめに
1.2 導電性繊維とは
1.3 導電性繊維ODEX®
1.4 ODEX®の機能性と用途展開例
1.4.1 帯電防止性能
1.4.2 電磁波遮蔽性能
1.4.3 導電性能
1.4.4 抗菌性
1.4.5 熱伝導性能
1.5 ODEX®使用上の留意点
1.6 結語(繊維と電気の融合)
2 導電性合成繊維と東レ「ルアナ」
2.1 はじめに
2.2 制電・導電性繊維
2.3 導電性繊維の特性
2.4 有機導電性繊維の技術
2.5 東レの制電・導電繊維
2.6 用途展開
2.6.1 建装用カーペット,人工芝など
2.6.2 衣料用アウター,インナー
2.6.3 防塵衣・作業衣
2.6.4 プリンタ用ブラシ
2.6.5 その他の用途
3 サンダーロン®の特性と用途
3.1 はじめに
3.2 サンダーロン®の物性と特長
3.3 サンダーロン®及び銅の安全性
3.4 サンダーロン®の効果と用途
3.4.1 除電効果
3.4.2 抗菌防臭効果
3.4.3 蓄熱効果
3.5 まとめ
【第3編 アフタ―プロセッシングと応用】
第1章 スマートテキスタイル
1 有機導電性繊維を用いたテキスタイルデバイス
1.1 はじめに
1.2 有機導電性繊維の開発
1.3 有機導電性繊維の布帛化
1.4 有機導電性繊維を電極とした生体信号センシング
1.5 まとめ
2 機能素材hitoe®の開発及び実用化
2.1 はじめに
2.2 hitoe®開発の背景
2.3 hitoe®の誕生
2.4 hitoe®の実用化
2.4.1 スポーツウェア
2.4.2 作業者安全管理ウェア
2.4.3 メディカル/健康モニタリングウェア
2.5 まとめと今後の展開
3 「心電計測布」の開発と実用化
3.1 テクノセンサー®ER
3.2 遠慮したら負け
3.3 西陣織という素材
3.4 医療現場の夢と現実
3.4.1 利用用途の問題
3.4.2 機能面の問題
3.5 テクノセンサー®ER製品化への途
3.6 テクノセンサー®のこれから
4 太陽光発電テキスタイルの開発と実用化
4.1 はじめに
4.2 球状太陽電池(スフェラー®)
4.3 太陽光発電糸
4.4 太陽光発電テキスタイルの構造
4.5 太陽光発電テキスタイルの出力
4.6 太陽光発電テキスタイルの耐久性
4.7 太陽光発電テキスタイルの表面保護
4.8 太陽光発電テキスタイルの試作
4.9 太陽光発電テキスタイルの応用製品
4.10 おわりに
第2章 建築・土木資材分野
1 接触爆発に対する耐衝撃性能にすぐれたポリエチレン繊維補強コンクリート版の開発
1.1 はじめに
1.2 PEFRCの調合設計
1.2.1 開発のコンセプト
1.2.2 使用材料および調合
1.2.3 強度試験結果
1.3 接触爆発に対するPEFRC版の耐衝撃性能
1.3.1 開発のコンセプト
1.3.2 接触爆発試験方法
1.3.3 爆発試験結果
1.4 おわりに
2 土木分野におけるFRPの適用事例と研究開発の動向
2.1 はじめに
2.2 土木構造物へのFRPの適用事例
2.2.1 設計法の整備状況と概要
2.2.2 歩道橋
2.2.3 検査路
2.2.4 水門扉
2.2.5 設計の現状と課題
2.3 FRP接着による鋼構造物の補修・補強事例
2.3.1 適用材料
2.3.2 設計・施工の概要
2.3.3 適用事例と補修・補強の特徴
2.3.4 海外における適用事例と設計ガイドラインの整備の状況
2.3.5 研究開発の動向と課題
2.4 まとめ
第3章 防護資材分野
1 産業用途で使用される防護服
1.1 はじめに
1.2 防護服の分類
1.3 作業内容に応じた選択方法
1.4 性能,特長及び使用上の留意点
1.4.1 化学防護服
1.4.2 バイオハザード対策用防護服
1.4.3 熱と火炎に対する防護服
1.4.4 切創・突き刺しに対する防護服(物理的脅威に対する防護服)
1.4.5 放射性物質による汚染に対する防護服
1.4.6 電気に対する防護服
1.4.7 寒冷に対する防護服
1.4.8 高視認性安全服
1.4.9 その他の防護服
1.5 使用にあたっての点検事項
1.6 適切な保守・管理方法
1.7 その他使用上注意すべき事項
1.8 昨今の傾向
2 防火服の要求特性
2.1 はじめに
2.1.1 日本における防火服の歴史
2.1.2 日本における防火服の現状
2.2 防火服に求められる性能規格
2.2.1 国際規格(ISO)による性能規格
2.2.2 ISO の性能要件
2.2.3 日本国内の防火服性能基準・規格
2.3 防火服の要求特性
2.3.1 熱防護に関する要求性能
2.3.2 機械的な物性に関する要求性能
2.3.3 耐化学薬品浸透性能
2.3.4 防水に関する性能
2.3.5 快適性及び運動性に関する性能
2.3.6 その他,防火服に備わるべき要求性能
2.3.7 参考試験
2.4 現在審議中の防火服に係る評価基準
2.4.1 ISO TR 21808 SUCAM(個人装備の選定・使用・維持・管理に関する手引き)
2.4.2 ISO CD 23616(個人装備の洗濯・維持・修理)
2.5 おわりに
第4章 多用途展開
1 クレージング技術によるナノ多孔ファイバーの開発と展開
1.1 はじめに
1.2 クレーズとは
1.3 繊維のクレージング
1.4 繊維に生じる周期的なクレーズ
1.5 孔径の制御
1.6 孔の中に薬剤を担持した繊維への展開
1.7 おわりに
2 四軸®織物「Tetras®」の開発と特性
2.1 背景
2.2 四軸織物の機械的特性
2.3 四軸織物自動織機の特徴
2.4 四軸織物「テトラス®(Tetras®)」の用途開発
2.5 四軸織物の今後の展開
3 東レのナノファイバーの特性と用途展開
3.1 はじめに
3.2 ナノファイバー技術
3.3 東レのナノファイバー技術
3.3.1 ポリマーブレンド法(短繊維型ナノファイバー)
3.3.2 複合紡糸法(長繊維型ナノファイバー)
3.4 おわりに