エレクトロスピニングでナノファイバーができるメカニズムとしてAkron大学のReneker教授は繊維の静電反発による分割を提案しました。(中略) しかし、繊維に竹を割るような分割は起こりえないと今は考えています。それではどうしてナノファイバーができるのかです。(中略) Earnshawの定理により、むち打ちのように繊維は浪打ながら旋回が起こります。この過程で溶媒はまだ残っていれば、ちょうど麺を伸ばすように繊維は延伸されるのでさらに細くなると山下は考えています。そして100 nmのシルクナノファイバーが最終的に得られます。しかし100 nm以下の繊維を容易につくることができません。それはむち打ち力だけでは繊維を延伸しきれないからではないでしょうか。大気の影響もあるので、減圧下で、ターゲットがむち打ちの螺旋と同方向に超高速回転する円盤にエレクトロスピニングをすればより細いナノファイバーが得られるかもしれません。
一方エレクトロスピニングは溶液の濃度が低い場合はエレクトロスプレーとなりナノサイズの粒子が得られます。これを用いた導電性インクの薄膜形成やナノ印刷などの研究もされています。エレクトロスプレーは大気圧イオン化法の一つとしてタンパクや高分子をナノ粒子として噴霧し質量分析する手法にもともと利用されていました。このエレクトロスプレーは静電塗装と同じ原理です。エレクトロスピニングの研究が一段落した今日ではこのエレクトロスプレーによるナノ粒子の開発が重要な研究テーマになると感じています。さらにエレクトロスピニングでもエアーの力も合わせて、ナノファイバーを大量紡糸するというアイデアもあります。また溶融エレクトロスピニングも研究は進んでいます。このようにエレクトロスピニングやエレクトロスプレーは化学系の研究者が苦手とする電気化学との融合によりさらに発展することを期待しております。
目次
【第Ⅰ編 基礎】
第1章 エレクトロスプレーの基礎と分析
1 はじめに
2 エレクトロスプレーの原理
3 Taylorコーン
4 エレクトロスプレーの発生
5 帯電液滴の分裂
6 自発的エレクトロスプレーと送液式エレクトロスプレー
7 エレクトロスプレーのナノ化
8 探針エレクトロスプレーを発展させた技術
9 エレクトロスプレーに及ぼす因子
10 エレクトロスプレーにおける多価イオンの生成
11 エレクトロスプレーにおける溶媒効果
12 Taylorコーン内での渦流
13 ネブライザー(気流支援)を用いるエレクトロスプレー
14 引出電極を用いるエレクトロスプレー
15 ナノテクを目指したエレクトロスプレーのパルス化
16 まとめ
第2章 エレクトロスピニングによるナノファイバーの形状・配向性制御
1 はじめに
2 エレクトロスピニング法
3 様々なパラメーターに依存した紡糸サンプルの形態
4 ナノファイバーの形状に影響を及ぼすエレクトロスピニング法のパラメーター
5 コレクターによる様々なモルフォロジー制御
5.1 プレートコレクターおよびY軸コレクター
5.2 ドラムコレクター(幅 = 200 mm,直径 = 200 mm)およびカセット付きドラムコレクター(幅 = 30 mm,直径 = 200 mm)
5.3 ディスクコレクター
5.4 マンドレルコレクターと配向用マンドレルコレクター
5.5 スイッチングコレクター
5.6 ROLL TO ROLLコレクター
6 スピナレットによる様々なモルフォロジー制御
6.1 同軸異径スピナレット(Coaxial spinneret)
6.2 高温溶液エレクトロスピニング
6.3 量産化ノズル(マルチジェットスピナレット)
7 おわりに
第3章 エレクトロスピニングによる大量紡糸(ノズルフリー)に向けた動向
1 エレクトロスピニングとは
2 エレクトロスピニング法によるナノファイバーの大量生産
3 ニードルノズルによるナノファイバーの大量生産
4 ユニークなエレクトロスピニング
第4章 超臨界エレクトロスピニング
1 はじめに
2 超臨界流体の特性
3 常圧から超臨界二酸化炭素中でのエレクトロスピニング
4 中空エレクトロスピニング製品
5 おわりに
第5章 レーザーエレクトロスピニング
1 はじめに
2 レーザーエレクトロスピニング(LES)について
3 LESによるPET巻取繊維の作製
4 LESによる各種高分子ウェブの作製
5 エアブローを併用したLESによるTPUウェブの作製
6 おわりに
第6章 静電塗布法
1 はじめに
2 静電塗布法の特長
3 静電塗布法の原理
4 静電塗布の条件
5 静電塗布のために考慮すべき適正化
6 静電塗布材料の実績例
7 塗布基材と成膜
8 静電塗布法の期待される分野と応用例
9 お客様サポートと静電塗布装置のラインナップ
10 神奈川大学での静電塗布装置を用いた研究
11 おわりに
【第Ⅱ編 応用】
<材料・化合物合成>
第1章 木材成分セルロースとリグニンのエレクトロスピニング
1 はじめに
2 セルロースのエレクトロスピニング
2.1 プラスチック表面へのCAのエレクトロスピニング
3 リグニンのエレクトロスピニング
3.1 酢酸リグニンの乾式電界紡糸
3.2 PEGリグニンの溶融電界紡糸
3.3 クラフトリグニンのエレクトロスピニング
第2章 結晶性ゲルナノファイバー
1 はじめに
2 結晶性ゲル
3 光反応エレクトロスピニング(UV-ES)
4 結晶性ゲルナノファイバー
4.1 PDMAAゲル繊維
4.2 P(DMAA-SA-DA)ゲル繊維
5 おわりに
第3章 異方性ハイドロゲルナノファイバー
1 異方性ハイドロゲル
2 芯鞘エレクトロスピニングを利用したハイドロゲルファイバーの作製
2.1 コラーゲンハイドロゲルファイバー
2.2 アルギン酸ハイドロゲルファイバー
3 ナノファイバー中での重合を利用したハイドロゲルファイバーの作製
3.1 PNIPAMハイドロゲルファイバーの作製
4 まとめ
第4章 シクロデキストリンファイバー
1 低分子化合物を用いたエレクトロスピニング
2 シクロデキストリン(CD)のエレクトロスピニング
2.1 CD
2.2 CDファイバー
2.3 CD包接錯体ファイバー
2.4 CDファイバーのエイジング
第5章 ポリマーナノコンポジットの強化材
1 はじめに
2 強化材利用のためのナノファイバー紡糸
2.1 ステレオコンプレックスポリ乳酸ナノファイバー
2.2 再生セルロースナノファイバー
3 複合化手法と分散性
4 おわりに
<パターニング>
第6章 ナノファイバーをガイドとして用いたカーボンナノチューブ配列
1 はじめに
2 実験
2.1 CNT-EVA芯-鞘ナノファイバーの作製
2.2 CNT-EVA芯-鞘ナノファイバー評価
2.3 CNT-EVA芯-鞘ナノファイバーの燃焼および評価
3 結果と考察
3.1 CNT-EVA芯-鞘ファイバーの形態
3.2 CNT-EVA芯-鞘ファイバーの燃焼によるCNT配列形成
3.3 ラマン分光法によるCNT評価
3.4 配向したCNTの電気化学特性
4 まとめ
第7章 ナノファイバーインプリント(NFI)法によるマイクロ樹脂型製造
1 はじめに
2 製造方法および実験条件
2.1 エレクトロスピニングナノファイバー
2.2 使用材料および作製条件
2.3 Si製ナノインプリント型
2.4 評価方法
3 実験結果および考察
3.1 ESナノファイバー紡糸条件
3.2 ES-NFI法と注型法により作製したマイクロ樹脂型の表面形態
3.3 ES-NFI法と注型法により作製したマイクロ樹脂型の断面形状
3.4 ES-NFI法によるマイクロ樹脂型への転写挙動
3.5 ES-NFI法と注型法の溶剤の揮発挙動
4 結言
<フィルター>
第8章 エアフィルター
1 はじめに
2 エレクトロバブルスピニング法
2.1 概要
2.2 無加圧接着法による圧力損失の低減
2.3 メルトブローンとの積層化
3 おわりに
第9章 水処理フィルター
1 はじめに
2 濾過処理への応用
2.1 使用した濾過フィルター
2.2 水透過および濾過試験方法
2.3 水透過性能の評価
2.4 粒子捕捉性能の評価
2.5 不織布の調製条件の影響
2.6 基本性能のまとめと展望
3 吸着処理への応用
第10章 ナノファイバー透湿防水シート
1 はじめに
2 透湿防水素材の種類
3 透湿防水ナノ生地の開発
3.1 ナノファイバーについて
3.2 ナノ生地の作製
4 ナノ生地の性能評価
4.1 ナノファイバー単体の引張特性
4.2 ナノ生地の透湿防水性
4.3 ナノ生地の通気性
4.4 ナノ生地の熱特性
4.5 ナノ生地の曲げ,圧縮などの物性
5 透湿防水ナノファイバーの応用および展望
第11章 吸音材料
1 吸音材料の種類と特徴
2 多孔質型吸音材料の吸音率予測
3 エレクトロスピニング法により作製したシリカファイバーシートの構造と吸音特性
<エレクトロニクス>
第12章 燃料電池/全固体二次電池向け電解質膜
1 はじめに
2 プロトン伝導性ナノファイバーフレームワークからなる燃料電池用固体電解質膜
3 リチウムイオン伝導性ナノファイバーからなる全固体型二次電池用電解質
4 おわりに
第13章 燃料電池用電極触媒層の形成への応用 ―静電スプレー法による固体高分子形燃料電池用低白金担持カソードのセル性能の改善―
1 まえがき
2 実験方法
3 実験結果
3.1 Pt利用率(UPt)と高分子電解質分布および触媒層の構造
3.2 初期発電性能
3.3 耐久性能
3.4 ES法のイオン化モードの制御による高分子電解質バインダーの酸素輸送抵抗の低減による性能改善
4 まとめ
第14章 セラミックナノファイバの太陽電池・蓄電池への応用
1 はじめに
2 導電ナノファイバのDSSC多孔膜電極中の集電極としての応用
2.1 酸化チタン多孔膜中のナノファイバの役割
2.2 TNOナノファイバの作製
2.3 発電特性への効果
3 光蓄電池電極への応用
3.1 光蓄電池の原理とNF化
3.2 酸化タングステンを蓄電材に用いたNF光蓄電池電極
4 まとめと今後の展望
第15章 有機EL/有機薄膜太陽電池
1 はじめに
2 エレクトロスプレー装置
3 有機ELの製膜
4 有機薄膜太陽電池の製膜
第16章 液晶配向膜への応用:時分割ESD法による複数材料の同時成膜
1 はじめに
2 ESD法による複数材料の完全同時成膜
2.1 目的
2.2 実験方法
3 時分割ESD法による複数材料の同時成膜
3.1 目的
3.2 時分割散布法
3.3 実験方法
3.4 結果と考察
4 プレチルト付与の論理モデル
4.1 目的
4.2 基本モデル
4.3 垂直配向材溶液散布時間比率との換算
4.4 理論モデルの検証
5 まとめ
第17章 汎用ポリマーからなる電界紡糸極細ファイバー膜が示す疑似圧電特性
1 はじめに
2 ポリマーナノマイクロ圧電ファイバーの研究動向
3 汎用ポリマーからなる電界紡糸マイクロファイバー膜の疑似逆圧電特性
4 汎用ポリマーからなる電界紡糸マイクロファイバー膜の疑似正圧電特性
5 応用展開例
6 おわりに
<バイオ・医療>
第18章 ナノ粒子医薬品製剤の調製
1 はじめに
2 非晶質ナノ粒子製剤の設計
3 コア-シェル型製剤の設計
4 調製後処理による物性改善
5 おわりに
第19章 組織工学へのエレクトロスピニングの応用
1 はじめに
2 組織工学で用いる材料
2.1 生体材料
2.2 合成高分子
2.3 天然高分子
3 エレクトロスピニングによる足場の作製
3.1 組織工学で用いる足場
3.2 生体吸収材料のエレクトロスピニング
3.3 エレクトロスピニングによる足場の機能化
4 エレクトロスピニングで作製した足場の課題
4.1 不織布内部への低い遊走性
4.2 残留溶媒の毒性
5 ゼラチン不織布
6 おわりに
第20章 組織再生用ナノファイバー足場材料
1 組織再生用ナノファイバー足場の基本特性
2 ナノファイバーの足場機能向上に向けて
2.1 ECM成分による機能向上
2.2 足場への増殖因子固定化による機能向上
第21章 生分解性ポリマーと炭酸カルシウム粒子からなる骨再生用繊維質材料
1 はじめに
2 SiV粒子とPLLAの複合材料からなるシート形状体
3 SiV粒子とPLLAの複合材料からなる綿形状の繊維構造体
4 おわりに
第22章 Fine Fiber Technologyの技術開発と化粧品応用
1 Fine Fiberの化粧品応用に向けて
2 D-ES技術
2.1 デバイス開発:D-ES技術の特長
2.2 溶液設計:湿度の影響
2.3 溶液設計:紡糸のコントロール
3 化粧品への応用
3.1 形成された皮膜の性質
3.2 肌の改善効果
第23章 生体安全性の高い水溶液から作るシルクナノファイバーシート
1 はじめに
2 シルクナノファイバー不織布作製の試み
3 シルク水溶液からのナノファイバー不織布の作製
4 組織再生材料としてのシルク材料の特異性
5 おわりに
第24章 透湿防水効果と伸縮性を合わせ持つナノファイバーシートと医療用品への応用
1 はじめに
2 伸縮性に優れた物性を有するナノファイバー貼付剤の開発
2.1 概要
2.2 貼付剤用ナノファイバーの紡糸と貼付剤加工
2.3 ナノファイバー貼付剤の物性評価
3 外観性に優れたナノファイバー貼付剤の開発
3.1 概要
3.2 外観性に優れた貼付剤用ナノファイバーの製造方法
3.3 ナノファイバー貼付剤の色目立ち評価
4 今後の展望と応用展開
5 おわりに