「一髪、二化粧、三衣装」という諺がある。この諺は、女性を美しく見せるのは、第一に髪の美しさ、二番目に化粧、三番目が衣装であるということを意味している。また、「髪は女の命」といわれたり、「髪」という字は長い友達という字で成り立つといわれたりするように、髪は人の外観を決める重要な要素であるといえる。このことは、男性にも当てはまることである。
その重要な髪に使うヘアケア製品は使用目的や機能によって多くの種類がある。機能的種類は、(1)毛髪・頭皮を洗浄するもの、(2)毛髪の形を一時的に整えるもの、(3)毛髪を長く形つくるもの、(4)毛髪に色を施するもの、(5)毛髪を健康に育成するものに大別される。そして、ヘアケア製品の市場規模は2021年の品目別化粧品出荷額によると金額ベースで27.0%を占めている(経済産業省生産動態統計)。ヘアケア製品は皮膚用化粧品と比べて、グラム(g)当たりの製品単価が安価で、1個当たりの容量が倍以上である。そのためヘアケア製品の生産量は化粧品全体の過半数を占めているといっても過言ではない。
本書は「技術編」と「市場編」に分かれており、「技術編」では、最新のヘアケア技術や毛髪や頭皮に関する知見、更には美容家電に至るまで、最新の研究内容を大学と企業の両方の立場から取り上げた構成となっている。そして「市場編」では、国内外のヘアケア製品やヘアケア製品に用いられている主要原料の市場動向や高付加価値製品への取り組みについて広く紹介している。
ヘアケア製品の研究開発に従事する研究者や販売促進に携わっているマーケッターの方々、更にはヘアケア製品を取り扱う専門家の理美容師が、最新のヘアケアの原理原則を理解するうえで、少しでも “お役立ち”できればとの思いで本書を作成した。
目次
【技術編】
第1章 バイオコンジュゲーション技術による毛髪の加齢変化の改善
1 はじめに
2 毛髪の加齢変化
3 バイオコンジュゲーションとは
3.1 第一級アミンを標的としたバイオコンジュゲーション
3.2 チオール基をターゲットとしたバイオコンジュゲーション
3.3 新規アミノ酸系化合物によるバイオコンジュゲーション技術
4 バイオコンジュゲーション技術による処理が毛髪物性に与える影響
4.1 官能評価
4.2 摩擦評価
5 おわりに
第2章 新規アミノ酸系界面活性剤の開発
1 はじめに
2 アミノ酸系界面活性剤
3 アミノ酸系ジェミニ型界面活性剤
4 ヒドロキシ基含有アミノ酸系界面活性剤
5 ヒドロキシ基含有アミノ酸系界面活性剤の泡沫特性
6 アミノ酸-糖ハイブリッド界面活性剤
7 おわりに
第3章 シャンプーに求められる泡の特性
1 シャンプーとは
2 シャンプーの配合成分
2.1 界面活性剤
2.2 起泡補助剤
2.3 コンディショニング剤
2.4 その他
3 シャンプーの泡
4 泡の評価方法
4.1 官能評価
4.2 泡量
4.3 泡の大きさ
5 官能評価と泡測定との関係
5.1 泡量
5.2 泡のきめ細やかさ
5.3 泡の弾力
5.4 起泡補助剤によるシャンプーの泡への効果
6 おわりに
第4章 コアセルベートの生成メカニズムとシャンプーすすぎ時の使用感のコントロール
1 はじめに
2 ヘアケア製品におけるコアセルベートの生成メカニズム
3 コアセルベート利用の必要条件とコアセルベートの析出領域
4 コアセルベートのモルフォロジーとシャンプーすすぎ時の使用感
4.1 界面活性剤と高分子の電荷の影響
4.2 電解質の影響
4.3 高分子主鎖のフレキシビリティーの影響
5 コアセルベートのもう一つの機能
6 まとめ
第5章 白髪化のメカニズムとケア技術
1 はじめに
2 白髪化に関連する因子
2.1 早期白髪化マウスモデルを用いた白髪化の抑制
2.2 皮膚と皮膚以外の場所に定着した色素細胞の毛色への寄与
2.3 創傷治癒後の白髪化を抑制する因子
2.4 ニッシェ環境が白髪化に及ぼす影響
3 放射線誘導白髪化とその発生メカニズム
4 白髪化の予防に有効なフラボノイドの探索
4.1 白髪化を予防するフラボノイド
4.2 白髪化を予防するフラボノイドを含む植物
5 おわりに
第6章 染毛用の新規染料(次世代ヘアカラー技術)の開発
1 ヘアカラーの現状と課題
2 新しい直接染料による新しいヘアカラー効果
2.1 新規染料の特徴
2.2 染料特性・効果
2.3 メリット:低皮膚着色性
2.4 染毛特性
2.5 新規染料の応用によるヘアカラーの展望
3 黒髪のもとで白髪を染める技術(メラニン染毛技術)
3.1 メラニン染毛技術の背景と課題
3.2 原料の調製
3.3 染毛技術開発
3.4 染毛技術の特性
3.5 メラニン染毛技術の展望
4 おわりに
第7章 エクソソームによる育毛と脱毛治療の展望
1 はじめに
2 エクソソームとは
3 幹細胞エクソソームによる治療開発の現状と課題
4 発毛にエクソソームは有用か?
5 医薬品としてのエクソソーム育毛剤の開発
第8章 頭皮臭
1 はじめに
2 頭皮臭の解析
2.1 臭気評価
2.2 頭皮臭の原因物質の解析
2.3 ジアセチルの感受性の性差
2.4 頭皮臭の原因菌の探索
2.5 細菌代謝制御による頭皮臭予防
3 おわりに
第9章 毛髪の手触りと摩擦ダイナミクス
1 はじめに
2 毛髪の手触りの特徴はどのようにして認識されるのか?
3 ヘアケアテクノロジーへの応用
4 おわりに
第10章 毛髪の微細構造解析と製品開発への応用
1 はじめに
2 毛髪の階層構造
3 毛髪ケラチン繊維の機器分析による構造解析
4 毛髪結晶構造の修復処理方法の開発
5 パーマ処理毛およびGB-IFP処理毛(修復処理毛)の作製
6 引張り試験
7 示差走査熱量測定
8 X線散乱測定
9 おわりに
第11章 頭皮用美容家電の開発
1 はじめに
2 頭皮ケア機器開発のねらい
3 頭皮ケア機器の設計
3.1 フォーフィンガースパイラル機構
3.2 ブラシ部の設計
4 使用実感
5 毛穴まわりの洗浄性
6 頭皮ケア機器使用での毛髪への効果
6.1 ボリューム変化
6.2 ハリコシ実感
7 おわりに
第12章 放射光イメージングを用いた加齢と共に変化する毛髪内評価
1 はじめに
2 加齢に伴う毛髪の触感変化
3 加齢に伴う毛髪内密度変化
4 毛髪内部構造の評価 ~X線CTを用いた検討(SPring-8 BL24XU)~
5 毛髪内部構造の評価 ~赤外顕微鏡マッピングを用いた検討(SPring-8 BL43IR)~
6 おわりに
【市場編】
第1章 ヘアケア製品の市場動向と展望
1 ヘアケア市場の概要
2 シャンプー市場
2.1 市場概要
2.2 メーカー/製品動向
3 リンス/コンディショナー/トリートメント市場
3.1 市場概要
3.2 メーカー/製品動向
4 ヘアカラー市場
4.1 市場概要
4.2 メーカー/製品動向
5 頭皮ケア・育毛剤市場
5.1 市場概要
5.2 メーカー/製品動向
6 パーマネント・ウェーブ剤
6.1 市場概要
6.2 メーカー/製品動向
第2章 海外におけるヘアケア市場の動向
1 北米市場
1.1 米国
1.2 カナダ
2 欧州市場
3 南米市場
4 中国市場
5 韓国市場
6 その他の地域
6.1 東南アジア
6.2 中東・アフリカ
第3章 ヘアケア製品の主要原料の市場動向
1 起泡洗浄剤
1.1 概要
1.2 高級アルコール系
1.3 アミノ酸系
1.4 タウリン系
1.5 オレフィン系(a-オレフィンスルホン酸(C14~C16)ナトリウム)
1.6 スルホン酸塩系
1.7 アルキルグリコシド
2 起泡補助剤
2.1 概要
2.2 ペプチド系(陰イオン界面活性剤)
2.3 多価アルコール縮合型(アルカノールアミド)
2.4 その他
3 ポリペプチド
3.1 概要
3.2 ポリペプチドの種類
4 セラミド
4.1 概要
4.2 ヘアケア製品におけるセラミドの種類
5 ヘアコンディショニング剤
5.1 概要
5.2 ヘアコンディショニング剤の種類
6 染料
6.1 概要
6.2 染料の種類
7 香料
7.1 概要
7.2 香料の種類と主要メーカー
8 改質剤・増粘剤
8.1 概要
8.2 改質剤・増粘剤の種類
9 パーマネント・ウェーブ剤
9.1 概要
9.2 パーマネント・ウェーブ剤の種類
10 その他の添加剤
10.1 植物エキス
10.2 乳化剤
10.3 アンチエイジング剤
第4章 高付加価値製品への取り組み
1 髪質改善機能性の付与
2 発毛・育毛機能を有するヘアケア製品
3 使用感,感性価値の向上
4 アニマルフリー化へ向けた動き
5 天然系ヘアカラー