行動学的にも生物学的にも男女間での違いは多い。Genderは社会的・文化的観点から見た性別、Sexは生物学的な男女・雌雄の性を意味している。つまりGender differenceは行動、振る舞い、言動や日頃の行い(生活スタイル)に起因する。一方、sex differenceが意味する性差は、異なる生殖器官に由来する生殖機能や性ホルモン産生量のような生物学的な要因に基づいている。実際に男性と女性の肉体を見比べたとき、男性の方が女性よりも背が高いとの一般的な認識がある。また、男性の方が筋肉量が多く、したがって筋力が強いとの認識が当然のようにある。もっと良く観察すれば、加齢に伴い男女間での脂肪のつき方が異なり、男性では内蔵に、そして女性では皮下につきやすくなるという違いも分かる。また私たちの体表面を覆う皮膚の生理的な特徴も男女で異なる。このような男女の肉体的な違いをもたらす要因として性ホルモンがあげられるが、性ホルモンのレベルは男女間の生体内環境で異なり、生涯に渡って一定でない。
性差は寿命にも影響しているようである。2013年に厚生労働省が発表した日本人の平均寿命は、男性が79.94年、女性が86.41年であり、世界で第1位である。平均寿命は年々増加しており、前年と比較して男性は0.50年、女性は0.51年上回っている。平均寿命の年次推移は男性よりも女性の寿命の方が上であり、国際的に比較しても女性の平均寿命は男性を上回る。
近年、性差医療という医学領域が発展してきており、男女ともに罹患する疾病でも、罹患率、再発率、そして死亡率が男女間で異なる場合は、男女間の違いを認識して病気の予防と治療を目指している。一方で、食品成分を含む各種素材の機能性を利用して、生活習慣病を含む様々な疾病の予防、あるいは美容に対する有効性を期待する研究が展開されている。美容に関しては、外用的に利用できるものに限らず、内服的にも利用できるものにも注目されており、内外両面からの効果が検討されている。
このような背景のもとに、今後性差を意識した食品成分を含む各種素材の機能性に関する研究が進むと思われ、本書は、女性の疾患と美容に有効な機能性を持つ素材の基礎研究から応用研究までの成果について概説されており、研究を行う上でも、開発に携わる上でも必読の書であると確信する。
最後に、ご多忙の中、本書の執筆に携わっていただきました大学・研究所・病院関係の先生方、ならびに企業の担当者の皆様には心よりお礼を申し上げます。
目次
【第1編 疾患と機能性食品】
第1章 骨格筋と女性ホルモン/大豆イソフラボン (小川真弘、原田直樹、山地亮一)
1 はじめに
2 骨格筋とは?
2.1 筋繊維タイプ
2.2 骨格筋の性差
2.3 骨格筋量の調節
3 女性ホルモン(エストロゲン)
3.1 性ホルモン
3.2 エストロゲンシグナル
4 骨格筋と大豆イソフラボン
4.1 骨格筋の成長と再生における大豆イソフラボン
4.2 抗糖尿病効果としての大豆イソフラボン
5 おわりに
第2章 冷え症
1 ウィンターセイボリー (増田秀樹)
1.1 はじめに
1.2 ウィンターセイボリーとは
1.3 ウィンターセイボリーの冷え抑制効果
1.4 ウィンターセイボリー中の有効成分
1.5 応用試験 ―サーモグラフィによる温感効果検討―
1.6 おわりに
2 黒ショウガ (単少傑)
2.1 はじめに
2.2 黒ショウガとは
2.3 黒ショウガエキスに含まれる成分
2.4 黒ショウガエキスのヒトにおける血流改善作用
2.5 黒ショウガエキスの血管拡張作用
2.6 黒ショウガエキスの血管内皮細胞におけるNO産生促進作用
2.7 おわりに
3 ココアの冷え抑制効果 (灘本知憲、亀井優徳)
3.1 はじめに
3.2 実験方法
3.3 結果
3.4 まとめと考察
4 糖転移ヘスペリジン (宅見央子)
4.1 はじめに
4.2 糖転移ヘスペリジンについて
4.3 冷え性改善作用
4.4 おわりに
第3章 便秘解消
1 便秘予防に役立つルミナコイド (早川享志)
1.1 はじめに
1.2 便秘を予防する食品成分としてのルミナコイド
1.3 健康成分としての食物繊維の摂取状況
1.4 排便を促進する食物繊維摂取量
1.5 食物繊維の起源, 種類と特性
1.6 その他のルミナコイド
1.7 排便促進にかかわるルミナコイドの特性
1.8 ルミナコイドによる大腸内環境改善のメリット
2 沈香(ジンコウ)葉エキスの便秘改善作用 (原英彰、柿野衛)
2.1 要旨
2.2 発見の経緯
2.3 背景
2.4 便秘モデル動物および正常動物を用いたジンコウ葉エキスの緩下作用
2.5 ジンコウ葉エキスの緩下作用に関与する薬理活性成分
2.6 ジンコウ葉エキスの消化管に及ぼす影響および作用メカニズムの解明
2.7 ロペラミド誘発便秘モデルマウスにおけるジンコウ葉エキスおよびセンナの副作用の比較検討
2.8 高タンパク・高脂肪食による腸内環境悪化モデルに対するジンコウ葉エキスの改善作用
2.9 安全性試験
2.10 ヒト臨床試験
第4章 PMS, 月経痛など
1 テアニンの月経前症候群抑制効果 (小関誠)
1.1 はじめに
1.2 テアニン
1.3 テアニンによるPMS症状の改善効果
1.4 まとめ
2 ピクノジェノールと月経困難症・子宮内膜症 (小濱隆文)
2.1 はじめに
2.2 ピクノジェノールの歴史
2.3 月経困難症のオープン臨床試験
2.4 ピクノジェノールの月経困難症に対する, 多施設二重盲検臨床試験
2.5 子宮内膜症患者に対するピクノジェノールとリュープリンとの比較試験
2.6 婦人科ホルモン療法の副作用に対する,フランス海岸松樹皮抽出物の抑制効果について
2.7 まとめ
第5章 更年期障害
1 大豆イソフラボン (久保田芳郎)
1.1 大豆イソフラボンとは
1.2 イソフラボンの疫学的報告
1.3 大豆イソフラボンの作用機序
1.4 大豆イソフラボンの更年期障害緩和作用
1.5 ホルモン補充療法(HRT)との比較
1.6 おわりに
2 ゴマリグナン・亜麻リグナン (小野佳子、飯野妙子)
2.1 序論
2.2 腸内細菌による代謝
2.3 セサミン(ゴマリグナン)
2.4 亜麻リグナン
2.5 安全性
2.6 まとめ
3 更年期障害とピクノジェノール (小濱隆文)
3.1 はじめに
3.2 ピクノジェノールと更年期について
3.3 台湾での臨床治験論文内容
3.4 イタリアでの臨床治験内容
3.5 今回の日本での臨床治験内容
3.6 まとめ
第6章 骨粗鬆症
1 女性の健康とスリーAカルシウム(AAACa) (藤田拓男)
1.1 はじめに
1.2 スリーAカルシウムの誕生
1.3 まとめ
2 葛イソフラボン (河村幸雄)
2.1 クズとは
2.2 骨粗鬆症と食品の生理機能
2.3 なぜ「クズ」
2.4 クズには特有のイソフラボノイドが存在する
2.5 クズ抽出物のイソフラボノイド含量
2.6 クズの摂取は,閉経後の脂肪沈着による体重増加を抑制する
2.7 クズエタノール抽出物は骨分解マーカーを低下させ骨量の減少を抑制する
2.8 クズ抽出物摂取による骨量の減少抑制と骨構造の保持
2.9 ヒトへの介入試験
2.10 おわりに
3 β-クリプトキサンチン (杉浦実)
3.1 はじめに
3.2 最近の疫学研究からの知見
3.3 ミカン産地住民を対象にした栄養疫学調査(三ヶ日町研究)からの知見
3.4 β-クリプトキサンチンによる骨粗しょう症発症予防の可能性
3.5 おわりに
第7章 その他の疾患
1 クランベリーエキス末(クランピュア)の尿路感染症(膀胱炎)再発予防および美容効果
(佐野倫代、平山卓磨)
1.1 はじめに
1.2 クランベリーについて
1.3 尿路感染症とクランベリーについて
1.4 クランベリーエキス末(クランピュア)の尿路感染症再発予防効果
1.5 まとめ
2 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に対する「マイタケ」の活性成分の効果 (富永國比古)
2.1 要約
2.2 排卵のメカニズムとPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)
2.3 PCOSの原因
2.4 PCOSの臨床的特徴
2.5 PCOS治療に対する新たな提案―二つの臨床試験から
2.6 補遺:マイタケ(Grifola frondosa)抽出成分の薬理学的研究
【第2編 内外美容と機能性素材】
第1章 プラセンタ (高橋洋)
1 はじめに
2 抗酸化作用・抗光老化作用
3 線維芽細胞増殖作用
4 抗アレルギー作用
5 鎮痛作用
6 自律神経系への影響
7 放射線障害の軽減効果
8 プラセンタエキスの服用者アンケート集計
第2章 プロテオグリカン―関節と肌美容― (坪井誠)
1 はじめに
2 プロテオグリカンとは
3 プロテオグリカンの役割
4 プロテオグリカンの開発
5 食経験と歴史
6 ヒト皮膚細胞への作用
7 ヒト皮膚―塗布―
8 ヒト皮膚―経口摂取―
9 軟骨細胞への作用
10 ヒト関節―経口摂取―
11 おわりに
第3章 シナロピクリン―美白,美肌,関節― (坪井誠)
1 はじめに
2 シナロピクリン
3 アーティチョーク
4 光老化と変形性関節症
5 美容効果外用
6 光老化抑制作用
7 ヒト美白試験
8 メラニン生成抑制作用
9 ストレス性胃炎抑制作用
10 関節炎
11 変形性関節症の原因分子(HIF2A)の発現抑制
12 おわりに
第4章 コラーゲン (小山洋一、楠畑雅)
1 コラーゲン, ゼラチンとコラーゲンペプチド
2 化粧品原料としてのコラーゲン
2.1 表示名称
2.2 スキンケア用途
2.3 ヘアケア用途
2.4 今後期待される機能
3 食品としてのコラーゲン
3.1 美容効果
3.2 コラーゲン摂取の作用メカニズム
4 医療におけるコラーゲンの利用
4.1 栄養補助としての医療応用
4.2 医療基材としての医療応用
4.3 「内外美容」から「内外医療」へ
第5章 松樹皮抽出物フラバンジェノール®の内外美容 (草場宣廷、中山樹一郎)
1 はじめに
2 松樹皮抽出物フラバンジェノール®とは
3 フラバンジェノール®内服のシミへの作用
4 フラバンジェノール®外用のシミへの作用
5 フラバンジェノール®の安全性について
6 まとめ
第6章 マテ茶の生理作用 (湯浅(小島)明子)
1 はじめに
2 活性酸素種(reactive oxygen species ; ROS)
3 抗肥満作用
3.1 肥満モデル動物を用いたin vivo実験
3.2 ヒトを対象とした臨床研究
4 マテ茶摂取と生活習慣病との関係
5 その他のマテ茶の生理作用
5.1 骨粗鬆症予防
5.2 アルコール性肝疾患予防効果
6 最後に
第7章 アスタキサンチン (菅沼薫)
1 皮膚の加齢変化
2 皮膚細胞内におけるアスタキサンチンの機能
3 外用によるアスタキサンチンの効果
4 経口摂取によるアスタキサンチンの効果
5 まとめ
第8章 還元型コエンザイムQ10(ユビキノール) ―インサイド, アウトサイド素材の活用―
(藤井健志)
1 はじめに―コエンザイムQ10の歴史―
2 ユビキノールの生理作用と美容の関係
3 ユビキノールの美容効果
3.1 in vitroメカニズム検討
3.2 クリームによるシワ改善効果
3.3 アトピー性皮膚炎モデルマウスでの改善効果
3.4 サプリメントによるモニタリング評価
4 ユビキノールの作用メカニズム
5 内外美容:インサイド素材とアウトサイド素材の組み合わせ
6 皮膚美容でのアウトサイドとインサイド
7 まとめ
第9章 桜花エキスの抗糖化作用および美肌作用 (下田博司)
1 はじめに
2 サクラ花部の含有成分と抗糖化作用
3 AGEsによる線維芽細胞のアポトーシスに及ぼす作用
4 コラーゲン産生促進作用
5 ヒトにおける摂取時の抗糖化作用および肌質指標に及ぼす影響
6 ヒトにおける塗布時の抗糖化作用および抗シワ作用
7 おわりに
第10章 カロテノイドの光老化制御 (板東紀子、寺尾純二)
1 はじめに
2 カロテノイドの抗酸化作用
3 皮膚におけるROSの生成とβ-カロテンの作用
4 ヒト皮膚におけるカロテノイドの蓄積と光酸化障害抑制作用
5 光老化におけるmatrix metalloproteinaseの役割と過酸化脂質の関与
6 β-カロテンによる光老化制御
第11章 レシチンの美肌効果 (渥美祐太)
1 はじめに
2 ホスファチジルセリンによる美肌効果
2.1 ホスファチジルセリン(PS)とは
2.2 光老化によるコラーゲン分解の抑制効果とコラーゲン産生効果
2.3 ヒアルロン酸産生効果
3 ホスファチジルイノシトール(PI)による美肌効果
3.1 ホスファチジルイノシトール(PI)とは
3.2 ヒアルロン酸分解抑制効果
4 リゾホスファチジルグリセロールによる美肌効果
4.1 リゾホスファチジルグリセロール(LPG)とは
4.2 抗ニキビ効果
5 おわりに
第12章 しなやかな身体とエラスチン (前田衣織)
1 エラスチンとは?
2 生体内におけるエラスチンの役割
3 エラスチンと疾患
4 エラスチン研究の二本柱
5 機能性素材としてのエラスチン
6 エラスチンペプチドの生理活性
7 水溶性エラスチンの製造技術の進歩
8 美容と健康に関するエラスチンの研究エラスチンの研究