UV/EB硬化技術をひと言で言えば、液状塗膜をUV光や電子線の照射により3次元架橋させ、瞬時に固体に変える技術であり、インキ、塗料、接着剤、エレクトロニクス関連部材、自動車関連部材の製造、コーティングなどに欠くことのできない技術となっている。特に近年、スマートフォンやタブレット端末の普及により、UV接着技術の重要性が増していることは周知のとおりである。この際、被着体が複雑な形状のため、光が接着層全体に均一に浸透しない状況や、多量のフィラーを含み光が深部まで到達できない状況でのUV硬化が求められる。そして、最近の3Dプリンターの普及により、高感度で高強度の造成物の作製が可能なUV硬化材料の開発が急務となっている。さらに、UV/EB硬化技術はエレクトロニクス関連分野のみならず住環境でも利用されるようになり、ユニットバスの修繕や下水管更正にもUV硬化技術が利用されるようになっている。UV/EB硬化技術は、その要求性能に応じて多種多様の材料と線源が開発されてきたが、要求性能を満足しているとは言い難いばかりか、要求性能はますます厳しくなる傾向にある。これに対応すべく各社が努力しているが、その技術の詳細が表に出てくることは少なく、1社の技術力のみで要求性能をクリアするのは困難になりつつある。
一方、産業界で利用されるUV/EB硬化技術の基礎となる硬化反応はラジカル重合とカチオン重合の2種が定着しており、それに利用される光開始剤とモノマーについては種々の材料が開発され、UV/EB硬化技術が成熟したと思っている技術者も少なくない。しかしながら、ますます厳しくなる要求性能に対応するにはラジカル重合とカチオン重合に続く第3、第4の新たな反応機構の導入とそのための材料開発、線源開発を視野に入れなければならない。さらに、光が届かない影部分を高効率で硬化させる新たなUV硬化法の構築も急がれる。
日本の企業や大学がそれぞれ単独で持っているUV/EB硬化の技術力は極めて高いと思われるが、この技術領域で日本が世界を先導するためには産学がそれぞれ持っている技術を共有し、次の一歩を踏み出すことが必要であると考えている。技術の共有が簡単ではないことは十分理解しているが、本書がそのための小さな第一歩になればと願っている。
本書の著者はいずれも第一線で活躍されており、その活動で多忙を極める中ご執筆を快諾していただいた。これらの執筆者のおかげで、本書の内容は当初の想定をはるかに上回る内容になっている。本書が多くの技術者を刺激し、UV/EB硬化技術の今後の進展に貢献するものと期待している。
目次
第1章 UV・EB硬化技術の現状と展望 (有光晃二)
1 はじめに
2 光開始剤の動向
2.1 光ラジカル重合開始剤および光酸発生剤
2.2 光塩基発生剤
2.3 光開環メタセシス重合開始剤
2.4 光潜在性チオール
3 自己修復材料
4 影部分のUV硬化
5 3Dプリンタへの応用
6 住環境での利用拡大へ
7 おわりに
【第 I 編 材料開発・照射装置の開発動向】
<光源および硬化挙動>
第2章 UV, UV-LED, EB照射装置 (木下忍)
1 はじめに
2 UVとEBとの硬化反応の違いについて
2.1 UV硬化のメカニズム
2.2 EB硬化のメカニズム
3 UVとEBのエネルギー単位と計測について
3.1 UV量の単位と計測
3.2 EB量の単位と計測
4 UV照射装置
4.1 光源(ランプおよびUV-LED)
4.2 照射器
4.3 電源装置
5 EB照射装置
5.1 EBの発生と装置の構造
5.2 EB装置から放出されるEBの能力
5.2.1 加速電圧
5.2.2 電子電流
5.3 実装置と照射センター
6 おわりに
第3章 UV照射光源の発光状態とUV硬化反応 (足利一男、河村紀代子)
1 はじめに
2 UV硬化反応の基本的概念
3 光開始ラジカル重合の挙動
4 UV照射光源の発光状態の硬化物特性への影響
4.1 硬化物の相構造の観察
4.2 硬化物の耐候性試験
5 おわりに
第4章 キセノンフラッシュ照射装置 (木下忍)
1 はじめに
2 キセノンフラッシュ照射装置
3 キセノンフラッシュ光源(装置)の特徴
4 おわりに
<光開始剤およびモノマー>
第5章 光ラジカル重合開始剤 (鮫島かおり)
1 はじめに
2 光ラジカル重合開始剤の要求特性と種類
3 一分子反応型光ラジカル重合開始剤
3.1 アセトフェノン系開始剤
3.2 アシルフォスフィンオキサイド系開始剤
3.3 チタノセン系開始剤
3.4 オキシムエステル系開始剤
4 増感剤の利用
5 二分子反応型光ラジカル重合開始剤
5.1 分子間水素引き抜き型-ケト化合物/アミン類
5.2 電子移動型-色素/ボレート系
6 酸素阻害
7 おわりに
第6章 光酸発生剤 (岡村晴之)
1 はじめに
2 光酸発生剤の開発動向
3 光酸発生剤の応用研究に関する研究動向
4 おわりに
第7章 光塩基発生剤 (有光晃二、古谷昌大)
1 はじめに
2 新規光塩基発生剤の開発とアニオンUV硬化への応用
2.1 非イオン性光塩基発生剤の系
2.2 イオン性光塩基発生剤の系
3 おわりに
第8章 光潜在性チオール (有光晃二、石井拓、古谷昌大)
1 はじめに
2 ラジカルUV硬化
2.1 酸素による重合阻害
2.2 重合阻害・硬化収縮の対策例
3 チオール/エンUV硬化
4 チオール/エン系での保存安定性の向上
5 光潜在性チオール
5.1 光照射によるチオール生成と硬化反応
5.2 ポットライフの向上と硬化収縮の緩和
5.3 樹脂との相溶性
6 おわりに
第9章 光開環メタセシス重合開始剤 (有光晃二、天野翔太、古谷昌大)
1 はじめに
2 光開環メタセシス重合開始剤と光硬化への応用
3 光パターニングへの応用
4 おわりに
第10章 アクリルモノマー・オリゴマー (竹中直巳)
1 はじめに
2 モノマー・オリゴマーの役割
3 (メタ)アクリル酸誘導体の反応
4 アクリレートモノマー
4.1 耐熱性と設計
4.2 屈折率と設計
5 エポキシアクリレートオリゴマー
5.1 エポキシアクリレートオリゴマーの特徴
5.2 耐熱性と設計
6 ウレタンアクリレートオリゴマー
6.1 ウレタンアクリレートオリゴマーの特徴
6.2 硬度と設計
7 おわりに
第11章 環化重合性モノマー (金子知正)
1 はじめに
2 アクリル系主鎖環構造ポリマー
3 α-アリルオキシメチルアクリレートの特性・機能
3.1 モノマーの特性・機能
3.2 ポリマー・硬化物の特性・機能
3.2.1 Tg・硬さと可撓性の両立
3.2.2 密着性
3.2.3 耐熱分解性
3.2.4 位相差発現性
3.2.5 顔料分散性(分散補助能)
3.2.6 酸素捕捉性
3.2.7 その他
4 α-アリルオキシメチルアクリレートの応用方法・用途アイデア
4.1 反応性希釈剤としての利用
4.2 ポリマー原料としての利用
第12章 エピスルフィド (鷲尾典幸、竹下敬祐)
1 はじめに
2 水添ビスフェノールA型エピスルフィド樹脂「SR0100H」
2.1 概要
2.2 エピスルフィド樹脂「SR0100H」の基本物性
2.3 エピスルフィド樹脂「SR0100H」の硬化物物性と特徴
3 光塩基発生剤「PBG4」の有用性
4 「PBG4」と「SR0100H」による新規なアニオンUV硬化材料
5 まとめ
<新規な硬化システム>
第13章 リワーク型UV硬化樹脂 (白井正充)
1 はじめに
2 リワーク型UV硬化樹脂の設計概念
3 多官能アクリル系樹脂
4 多官能エポキシ系樹脂
5 高機能材料としての活用
6 おわりに
第14章 環動ゲルタイプUV硬化 (伊藤耕三)
1 はじめに
2 環動高分子とは
3 環動高分子材料の調製
4 滑車効果と環のエントロピー
5 環動高分子の応用
第15章 アニオンUV硬化型有機無機複合材料 (有光晃二、飯島大貴、古谷昌大)
1 はじめに
2 有機無機複合材料
2.1 カップリング処理
2.2 表面官能基の変換
2.3 ポリマーグラフト
2.4 非共有結合型修飾
2.5 in-situでの粒子形成
3 アニオンUV硬化
4 アニオンUV硬化型有機無機複合材料
5 おわりに
第16章 チオール/エン反応を利用したハイブリッド硬化 (室伏克己)
1 はじめに
2 チオール化合物を用いたUV硬化の現状
3 チオール化合物の複雑な反応機構
4 チオール化合物添加系でのUV硬化性の挙動
5 チオール/エン反応の挙動
5.1 UV硬化挙動
6 密着強度
7 機械的特性
8 ガスバリア性
9 熱的特性
10 耐水性
11 おわりに
第17章 組み換え可能な共有結合を有する化学架橋システム (大塚英幸、後関頼太)
1 はじめに
2 加熱により組み換わる共有結合を利用した化学架橋システム
3 光照射により組み換わる共有結合を利用した化学架橋システム
4 自発的に組み換わる共有結合を利用した化学架橋システム
5 おわりに
【第 II 編 応用編】
第18章 UV硬化材料を用いた高屈折率光学材料 (佐内康之)
1 はじめに
2 屈折率を決めるパラメーター
3 高屈折率のUV硬化材料を得るための手法
3.1 芳香族基の導入
3.2 フッ素以外のハロゲン原子の導入
3.3 硫黄原子の導入
3.4 脂環式構造の導入
4 おわりに
第19章 光架橋性有機無機ハイブリッド (松川公洋)
1 はじめに
2 光2元架橋反応によるアクリル/シリカ有機無機ハイブリッド
3 光カチオン重合によるエポキシフルオレン系有機無機ハイブリッド
4 エン/チオール反応による有機無機ハイブリッド
5 ジルコニアナノ粒子を用いた高屈折率有機無機ハイブリッド薄膜
6 おわりに
第20章 有機EL封止材 (佐古健)
1 はじめに
2 有機ELディスプレイの構造
3 有機EL用封止材
4 全面封止構造
5 最後に
第21章 UV後硬化形弾性接着剤 (山家宏士、河野翔馬)
1 はじめに
2 UV後硬化形接着剤
3 弾性接着剤
4 UV後硬化形弾性接着剤
5 おわりに
第22章 ジェルネイルの安全性に関する文献調査と硬化過程の解析 (瀧健太郎)
1 はじめに
2 一般的なUV硬化(キュア)技術とジェルネイルの違い
3 ジェルネイルに関する医学文献調査
4 ジェルネイルの硬化中に起こる発熱・未硬化層の形成・未反応モノマーの残留
5 ジェルネイルをより安全に使うために
第23章 可逆的な光接着材 (則包恭央、秋山陽久)
1 はじめに
2 フォトクロミック反応
3 光液化固化材料の開発と可逆的光接着剤への応用
3.1 光で溶ける有機材料
3.2 糖アルコール系材料
3.3 熱および力学特性
3.4 接着試験
4 おわりに
第24章 3Dプリンタの現状と今後の可能性 (小林広美)
1 はじめに
2 3Dプリント=積層造形(成形)法
3 3Dプリンタ市場について
4 3D Systems社について
5 様々な積層造形方式
5.1 熱溶融方式(PJP : Plastic Jet Printing)
5.2 フィルム透過方式(FTI : Film Transfer Imaging)
5.3 フルカラー方式(CJP : Color Jet Printing)
5.4 マルチジェット方式(MJP : MultiJet Printing)
5.5 光造形方式(SLA : Stereolithography)
5.6 粉末焼結方式(SLS : Selective Laser Sintering)
5.7 金属粉末造形方式(DMP:Direct Metal Printing)
6 「ものづくり」 の様々な段階で活用される3Dプリンタ
7 3Dプリンタを活用した新しい生産メソッド
8 オンデマンド3Dプリント事業
9 エンターテインメント, フィギュア, 記念品
10 建築, 土木, 住宅販売など
11 個人レベルに広がる3Dプリンタと3Dコンテンツ
12 最後に
<レジスト関連>
第25章 半導体レジスト (杉江紀彦)
1 はじめに
2 半導体レジストの遍歴
2.1 半導体レジストの起こり
2.2 光源波長の短波長化と半導体レジスト材料の推移
2.3 g/i線用半導体レジスト
2.4 KrF/ArFエキシマレーザー用半導体レジスト
2.5 EUV(Extreme ultraviolet)用半導体レジスト
3 まとめ
第26章 分子レジスト (工藤宏人)
1 はじめに
2 分子レジスト材料の例
2.1 カリックスアレーンタイプ
2.2 フェノール樹脂タイプ
2.3 特殊構造タイプ
2.4 光酸発生剤(PAG)含有タイプ
3 まとめ
第27章 ドライフィルムレジスト (宮坂昌宏)
1 はじめに
2 感光性ドライフィルムの組成と感光システム
3 最近の技術動向
3.1 配線微細化への対応
3.2 直接描画への対応
4 おわりに
第28章 ソルダーレジストの基本と光硬化技術に関する最近の開発動向 (岡本大地)
1 はじめに
2 アルカリ現像型ソルダーレジスト
2.1 基板の前処理
2.2 ソルダーレジストの塗布
2.3 乾燥
2.4 露光
2.5 現像
2.6 熱硬化
3 デジタル露光方式への対応
3.1 デジタル露光方式のメリット
3.2 デジタル露光方式におけるソルダーレジストの課題
4 黒色ソルダーレジスト
5 おわりに
第29章 MEMS用レジスト (小野禎之)
1 はじめに
2 UV/EB硬化技術のMEMSへの応用
2.1 接合プロセスとレジスト特性
2.2 テンティングプロセスとレジスト特性
2.3 埋め込みプロセスとレジスト特性
3 接合用感光性接着剤
4 環境対応型MEMSレジスト
5 まとめ
第30章 反応現像型感光性エンジニアリングプラスチック (大山俊幸)
1 はじめに
2 ポジ型反応現像画像形成
3 ネガ型反応現像画像形成
3.1 アルカリ水溶液/有機溶媒現像系
3.2 アルカリ水溶液現像系
4 おわりに
第31章 感光性ポリイミドの現状と課題 (富川真佐夫)
1 感光性ポリイミドの開発経緯
2 半導体パッケージの開発動向
3 低温硬化タイプの開発
3.1 ポリイミドベースでの開発
3.2 PBOベースでの開発
3.3 低熱膨張率化への取組み
3.4 海外の動向
3.5 その他の樹脂系を用いた開発
4 おわりに
<住環境・ナノテク・医療関連>
第32章 硬化技術による下水道管きょの更生工法 (大河原隆)
1 はじめに
2 管きょ更生工法の種類
3 シームレスライナーの構造と製造方法
4 UVライト
5 シームレスライナーの施工方法
6 シームレスライナーの特長
7 おわりに
第33章 放射性セシウム除去のための無機化合物を担持した繊維状吸着材 (斎藤恭一)
1 はじめに
2 不溶性フェロシアン化コバルトを担持した繊維状吸着材
2.1 不溶性フェロシアン化金属によるセシウム除去
2.2 ナイロン繊維への不溶性フェロシアン化コバルトの担持
2.3 繊維状吸着材のセシウム除去性能
3 おわりに
第34章 3Dプリンターの医療への応用 (能清高)
1 はじめに
2 歯科矯正への応用
3 補聴器
4 心臓シミュレータ
5 人工骨
第35章 集束イオンビームを使った医用プラスチックの微細加工 (大山智子)
1 はじめに
2 ポリ乳酸の特徴と加工技術
3 集束イオンビーム(FIB)を用いた微細加工と表面改質
3.1 FIBの特徴
3.2 ダイレクトエッチングによる微細加工
3.3 照射による表面改質
4 おわりに
第36章 UVナノインプリント法を用いたナノ構造成型 (平井義彦)
1 ナノインプリント法
2 UVナノインプリント法とUV硬化性樹脂
2.1 ナノ空間への樹脂充填過程
2.2 ナノ空間中でのUV光伝搬
2.3 ナノ空間中でのUV硬化
2.4 UV硬化収縮とナノ成型
2.5 離型とUV硬化性樹脂
3 UVナノインプリントのリソグラフィ応用
4 まとめ
第37章 UV / IBを用いたポリマー表面のパターニングと細胞接着制御への展開 (中路正、北野博巳)
1 はじめに
2 高分子修飾表面の構築
2.1 可逆的付加開裂連鎖移動 (RAFT) 重合法を用いた高分子ブラシの構築
2.2 シランカップリング基を側鎖に導入した高分子による表面コーティング
3 高分子修飾表面の特性評価
3.1 高分子ブラシ表面の特性評価
3.2 シランカップリングを利用した高分子修飾表面の特性評価
3.3 UV照射により改質したPCMBブラシ表面の特性評価
4 UV / IB照射による表面パターニングとタンパク質・細胞パターニング
4.1 IB照射したPGUMAブラシ表面へのタンパク質吸着とPGUMA表面のパターニングおよび細胞パターニング
4.2 シランカップリング基を側鎖に有するPCMBによって修飾された表面へのタンパク質吸着とIB照射による細胞パターニング
4.3 UV照射したPCMBブラシ表面へのタンパク質吸着・細胞接着および蛍光タンパク質パターニング
5 おわりに
第38章 フッ素系高分子材料の微細加工とインプリント用モールドへの応用 (鷲尾方一)
1 はじめに
2 RX-PTFEの微細加工法
2.1 放射光を用いた直接加工
2.2 イオンビームによる直接加工
2.3 熱-放射線複合微細加工技術(TRafプロセス)
3 ナノインプリントモールドへの応用
4 おわりに