炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、航空機やスポーツ用途を中心に順調に市場拡大してきた。さらに1990年代後半からは、産業用途を中心に需要が急増した。2008年後半のリーマンショックにより、一時的な成長の足踏み状態に陥ったが、2010年以降着実に需要が回復してきた。現在では、航空機用途での採用本格化、新規用途の拡大によるスポーツ用途の安定成長、風力発電ブレードなどの環境・エネルギー関連用途を牽引役とする産業用途が飛躍的に拡大し、大幅な成長が見込まれている。
CFRPは使用されるマトリックス樹脂の種類で炭素繊維強化熱硬化性プラスチック(CFRTS)と炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)に大別される。従来はCFRTSが主流であったが、近年ではCFRTPの開発が注目されている。その理由は、自動車のさらなる軽量化のためである。これまでの自動車用途でCFRPを使用する場合は、レーシングカーや超高級車に限られ、量産型の自動車では適用が困難であった。ところが、CFRTPによる量産化と低コスト化に期待と注目が高まっている。現在のCFRTPの需要量は少ないものの、数年後には需要が大きく伸びると予想されている。
市場のトレンドとしては、航空機用途や高機能スポーツ用途、圧力容器・送電線芯材など産業用途において、高品質・高品位のレギュラートウタイプ炭素繊維を使用するCFRPの需要が拡大する一方、風力発電、コンパウンドに加え自動車部材などの軽量と剛性のみが要求される産業用途を中心に、ラージトウタイプ炭素繊維を使用するCFRPの需要が拡大し、「市場の二極化」が進展している。
また最近ではCFRP量産化に向けて、効率的な成形・加工方法の開発が注目を集めており、技術開発が活発化している。本書ではCFRPの量産化技術動向についても重点を置いた。
本書【開発編】では、第一線でご活躍中の専門家の方々にお願いし、量産化技術、自動生産技術、せん断切断、切削加工、成形技術、自動車への展開、CFRTP、寿命予測、リサイクルなど、注目のトピックスを中心に執筆して頂いた。
【市場編】では、炭素繊維とCFRPの市場動向、マトリックス樹脂動向、成形法分類、用途別市場動向、メーカー動向について調べあげた。
CFRPの開発、製造、販売などをされている方々へ向けて、マーケティング活動の一助となれば幸いである。
目次
【開発編】
第1章 広がるCFRPの応用開発の最新動向と量産化のための製造技術
1 CFRPの近年の取組動向
2 CFRPのマルチマテリアル化と機械的締結事例
3 熱可塑性CFRPの多様な製造技術例
4 熱可塑性CFRPの融着・締結接合
5 ロボットワイヤーソーによる自動切断
6 CFRPの今後の動向と課題
第2章 CFRP成形における自動生産技術ならびに世界の動向
1 序
2 Coriolis Composites
3 MF TECH
4 KUKA LBR iiwa
5 島精機製作所
6 結論
第3章 CFRP積層板のせん断切断
1 緒言
2 熱硬化性CFRPのせん断切断挙動
2.1 切断試験方法
2.2 積層構成の効果
2.3 温度の効果
2.4 クリアランスの効果
3 熱可塑性CFRPにおけるせん断切断
4 結言
第4章 CFRPの切削加工
1 はじめに
2 CFRP切削の特長
3 CFRPの切削加工方法
3.1 切断加工
3.2 バリの種類
3.2.1 ポアソンバリ(Poisson burr)
3.2.2 ロールオーバーバリ(Roll‒over burr)
3.2.3 引きちぎりバリ(Tear burr)
3.2.4 切断バリ(Cut‒off burr)
3.3 CFRPの穴あけ加工
3.3.1 ドリルによる加工
3.3.2 放電加工による穴あけ
3.3.3 針状工具による穴あけ
3.3.4 電着砥石による穴あけ
3.3.5 ヘリカル加工
3.3.6 スパイラル穴あけ加工
3.3.7 ジャイロ式砥石による穴あけ加工
3.3.8 オービタル加工
3.3.9 傾斜プラネタリ加工法
4 おわりに
第5章 TAM成形法によるCFRTPの成形
1 はじめに
2 CFRTPのプレス成形技術の概要
3 通電抵抗加熱金型の原理
4 TAM成形システムの構成
5 通電抵抗加熱金型の温度予測
6 ヒートアンドクール金型による熱プレスの利点
6.1 材料を予備加熱する方式
6.2 TAM成形法
7 TAM成形法によるCFRTPのプレス成形プロセス
7.1 急速加熱
7.2 型開きと材料投入
7.3 成形材料の圧縮と樹脂含浸
7.4 急速冷却
7.5 型開きと取出し
8 TAM成形法で成形できるCFRTP材料
9 ランダムコンプレッション成形
10 熱可塑性UDテープ
11 おわりに
第6章 自動車用CFRP・CFRTPの最新技術動向
1 はじめに
2 自動車の軽量化を加速する背景
3 欧州での自動車の軽量化技術動向と我が国での自動車へのCFRP適用動向
4 自動車に適用されるCFRP成形技術の最新技術動向
5 名古屋大学NCCの自動車用CFRTPへの取組み
6 まとめ
第7章 連続繊維熱可塑性複合材料と自動車部品量産事例
1 はじめに
2 連続繊維熱可塑性複合材料
3 ハイブリッド成形
4 ハイブリッド成形の温度管理
4.1 予備加熱時の連続繊維熱可塑性複合材料の温度管理
4.2 成形時の金型の温度管理
5 孔あけ
6 自動車部品量産事例
6.1 フロントエンド
6.2 シートパン・バックシート
6.3 アンダーカバー
6.4 ブレーキペダル
6.5 バンパービーム
6.6 車載キャリア
6.7 ドアモジュール
6.8 ヒンジ
6.9 バス 回転ステップ
7 カーボンvsガラス
8 今後の課題
第8章 熱可塑性CFRPに向けたマトリックス樹脂の開発と成形加工
1 はじめに
2 CFRTPに向けた戦略
3 PPの高流動・高延性化
4 PPの無水マレイン酸修飾
5 PPへのナイロングラフト
6 反応性可塑剤を用いたPPE
7 PP系CFRTPの成形加工
7.1 CFRTP/PP/CFRTPサンドウィッチ成形
7.2 スタンピング成形
7.3 CFRTP成形加工上の問題点
8 Al/CFRTP/Al一体成形
第9章 連続繊維CFRPの繊維方向引張破壊と寿命について
1 緒言
2 SFFモデル
3 構成基材強度の温度・時間依存性
3.1 マトリクス強度
3.2 界面強度
4 複合材耐久性予測
5 動的き裂進展則
6 寿命予測の比較
7 結論
第10章 CFRPからの炭素繊維リサイクルの現状と課題
1 はじめに
2 リサイクル工程
2.1 CFRP廃材回収(搬出・搬入)
2.2 切断・破砕・分別
2.3 CF回収
2.4 配向調整
2.5 中間基材
2.6 成形・製品(用途)
3 リサイクル炭素繊維の強度特性
3.1 rCFシートの強度特性
3.2 二段階熱処理CFを用いたrCFRP強度特性
3.3 CF体積割合のrCFRP強度への影響
3.4 CF繊維長のrCFRP強度への影響
3.5 繊維強度のrCFRP強度への影響
3.6 バージンとリサイクル炭素繊維混合によるCFRP強度への影響
3.7 樹脂の違いによるCFRP強度への影響
3.8 リサイクル回数によるCFRP強度への影響
4 おわりに
【市場編】
第1章 炭素繊維の市場動向
1 PAN系炭素繊維の市場概況
1.1 市場概況
1.2 メーカー別生産能力
1.3 地域別,繊維別生産能力
2 ピッチ系炭素繊維の市場概況
2.1 市場概況
2.2 メーカー別,繊維別生産能力
2.2.1 メソフェーズピッチ系炭素繊維
2.2.2 等方性ピッチ系炭素繊維
3 CFRP供給組織体制(サプライチェーン)
3.1 サプライチェーンの概況
3.2 中間加工材メーカー
3.2.1 織・編み物加工メーカー
3.2.2 中間材加工メーカー
第2章 マトリックス樹脂の動向
1 熱硬化性樹脂
1.1 エポキシ樹脂
1.2 フェノール樹脂
1.3 ポリイミド
1.4 不飽和ポリエステル
1.5 ビスマレイミド
1.6 ビニルエステル
1.7 シアネートエステル
2 熱可塑性樹脂
2.1 ポリアミド
2.2 ポリプロピレン
2.3 ポリフェニレンサルファイド
2.4 ポリエーテルイミド
2.5 ポリエチレンテレフタレート
2.6 ポリエーテルケトン
2.7 ポリカーボネート
2.8 ポリエーテルエーテルケトン
2.9 ポリブチレンテレフタレート
2.10 ポリエーテルサルフォン
第3章 CFRPの市場動向
1 CFRPの市場概況
1.1 現在の需要実績
1.2 用途別需要実績と予測
1.3 炭素繊維の価格推移
2 CFRPの国内動向
3 CFRPの海外動向
第4章 CFRPの成形法分類
1 オートクレーブ
2 プレス成形
3 ハンドレイアップ成形
4 スプレーアップ成形
5 フィラメントワインディング法
6 RTM(Resin Transfer Molding)成形
7 SMC(Sheet Molding Compound)成形
8 オーブン成形
9 射出成形
10 引抜成形(プルトルージョン成形法)
11 その他
第5章 CFRPの用途別市場動向
1 輸送分野
1.1 自動車
1.2 レーシングカー
1.3 鉄道車両
1.4 船舶
1.5 その他輸送
2 航空・宇宙分野
2.1 民間航空機
2.2 ロケット・人工衛星
2.3 ヘリコプター
2.4 ドローン
3 スポーツ・レジャー分野
3.1 釣具
3.2 ゴルフシャフト・ヘッド
3.3 テニスラケット
3.4 その他のスポーツ用品
4 エネルギー分野
4.1 風力発電
4.2 燃料電池
4.3 リチウムイオン電池
4.4 高圧電線
4.5 高圧ガス容器
4.6 海底油田
5 一般産業用
5.1 コンポジットロール
5.2 家電機器筐体
5.3 医療機器
5.4 ロボットハンド
5.5 ブレーキディスク
5.6 断熱材
6 土木建築用途
6.1 補強材
6.2 建築資材
6.3 橋梁
第6章 メーカー動向
1 PAN系炭素繊維メーカーの動向
1.1 東レ
1.2 帝人
1.3 三菱ケミカル
1.4 Hexcel
1.5 Solvay
1.6 SGL Group
1.7 台湾プラスチック
1.8 その他
1.8.1 DowAksa
1.8.2 Zoltek
1.8.3 SABIC
1.8.4 Kemrock
1.8.5 泰光産業
1.8.6 暁星
2 ピッチ系炭素繊維メーカーの動向
2.1 クレハ
2.2 三菱ケミカル
2.3 大阪ガスケミカル
2.4 日本グラファイトファイバー
3 基材メーカーの動向
3.1 綾羽工業
3.2 王子エフテックス
3.3 金井重要工業
3.4 サカイ産業
3.5 サカセ・アドテック
3.6 SHINDO
3.7 創和テキスタイル
3.8 中国紡織
3.9 丸井織物
3.10 丸勝
4 プリプレグ加工メーカーの動向
4.1 一村産業
4.2 イノアックコーポレーション
4.3 サンコロナ小田
4.4 サンワトレーディング
4.5 JX ANCI
4.6 帝人
4.7 ニッタ
4.8 日本ポリマー産業
4.9 丸八
4.10 ミツヤ
5 成形加工メーカーの動向
5.1 UCHIDA
5.2 エーシーエム
5.3 KADO
5.4 栗本鐵工所
5.5 ジーエイチクラフト
5.6 シキボウ
5.7 ジャムコ
5.8 スーパーレジン工業
5.9 スピック
5.10 積水化成品工業
5.11 チャレンヂ
5.12 TiPコンポジット
5.13 東レ・カーボンマジック
5.14 東レプラスチック精工
5.15 日機装
5.16 日鉄ケミカル&マテリアル
5.17 福井ファイバーテック
5.18 フジワラ
5.19 フドー
5.20 矢島工業