めっきは古代文明の時代から利用されてきた3000 年以上の歴史を持つ技術である。めっきが使用されるものは多種多様であり、めっきが適用できる範囲は非常に広い。例えば、素材の腐食を防ぐためにめっきが施される。最も多く利用されているめっきであり、大半が鉄鋼の防食を目的としている。その大部分を占めるのは亜鉛めっきであり、その他にスズめっき、ニッケルめっきなどがある。
また、防食めっきと並ぶめっきの代表的な適用例が装飾めっきである。装飾品はもちろん、家庭で使われるさまざまな生活用具や自動車などの工業部品のめっきにも利用されている。金めっきや銀めっきが有名であるが最も利用が多いのはクロムめっきである。装飾めっきに使われるクロムめっきは硬度が極めて高く優れた耐摩耗性を有するので、各種機械の摺動部分や自動車の部品に硬質クロムめっきとしても適用されている。積層プリント回路の基盤に半導体部品を実装するために導電性を与えたり、高密度記憶媒体を構成するために磁性・非磁性を与えたり、高周波障害を防ぐために電磁波シールドを施したりといったように、多様化した電子部品にも使われている。
(中略)
このようにめっき技術は多種多様であり、技術の進歩も著しく新しいめっき技術も多数開発されている。そこで、これらの最新のめっき技術の動向を多数の研究機関の研究者および企業の技術者に知ってもらうため、各分野の専門家にトピックスになっている最新のめっき技術について執筆してもらい本書にまとめることができた。本書の構成は4 編からなっている。
目次
【第1編:めっきの基礎】
第1章 めっきの概要と歴史
1.1 めっきの概要
1.1.1 めっきとは
1.1.2 めっきの分類
1.1.3 めっきの前処理
1.1.4 めっきの後処理
1.1.5 めっき皮膜の評価法
第2章 無電解めっきの基礎と技術動向
2.1 無電解銅めっき及びCo合金バリア膜を用いた微細ホールへの電極形成技術
2.1.1 はじめに
2.1.2 無電解銅めっき技術の基礎
2.1.3 Cuの無電解ボトムアップめっき
2.1.4 3次元実装貫通ビア(TSV)形成に向けた無電解めっき技術
2.1.5 無電解めっきCoWB膜の密着性
2.1.6 まとめ
2.2 貴金属めっき
2.2.1 はじめに
2.2.2 貴金属とは
2.2.3 無電解めっきとは
2.2.4 無電解貴金属めっき液
2.2.5 おわりに
第3章 電気めっきの基礎と技術動向
3.1 ニッケルめっき
3.1.1 はじめに
3.1.2 ニッケルめっきの特性と用途
3.1.3 ニッケルめっきの耐食性
3.1.4 ニッケルめっき浴
3.1.5 課題と展望
3.2 銅めっき
3.2.1 はじめに
3.2.2 各種電解銅めっきの種類と主な用途
3.2.3 硫酸銅めっき液の成分
3.2.4 電解銅めっき設備
3.2.5 電流分布
3.2.6 添加剤の働き
3.2.7 添加剤の管理
3.2.8 まとめ
3.3 クロムめっき
3.3.1 電気クロムめっきの概要
3.3.2 装飾クロムめっき
3.3.3 硬質クロムめっき
3.3.4 めっきの廃液処理
3.3.5 クロムめっきの現状と動向
3.4 スズめっき
3.4.1 はじめに
3.4.2 スズめっき種類
3.4.3 めっき用途
3.4.4 スズウィスカ
3.5 亜鉛,亜鉛合金めっきの基礎と技術動向
3.5.1 はじめに
3.5.2 亜鉛めっきについて
3.5.3 亜鉛合金めっきについて
3.5.4 化成処理について
3.5.5 おわりに
第4章 貴金属コロイド触媒によるプラスチック基材への無電解めっき
4.1 はじめに
4.2 金属コロイド触媒による無電解めっきプロセスの開発
4.2.1 白金コロイドによるシアンフリー無電解金めっき
4.2.2 めっきメカニズムの解析
4.2.3 高効率パラジウムコロイド触媒の開発
4.2.4 無電解白金めっき
4.3 応用事例
4.3.1 無電解銅めっきの剥離強度向上と成形回路部品(MID)への応用
4.3.2 CFRPへの高密着性無電解銅めっきと耐雷性評価
4.4 総括
第5章 環境対策
5.1 めっき排水処理-分別処理とリサイクル
5.1.1 金属イオンの分離
5.1.2 クロム排水の処理
5.1.3 シアン排水の処理
5.1.4 ふっ素排水の処理
5.1.5 ほう素排水の処理
5.1.6 イオン交換樹脂法によるめっき排水のリサイクル
5.2 めっきプロセスのライフサイクルアセスメントによる評価と環境負荷の削減
5.2.1 はじめに
5.2.2 めっきプロセスのライフサイクルアセスメント
5.2.3 評価結果に基づく環境負荷の削減
5.3 土壌・地下水汚染問題の解決に向けて
5.3.1 はじめに
5.3.2 重金属類に係る法規制とめっき用金属
5.3.3 重金属類汚染の対策技術
5.3.4 おわりに
【第2編:電子・電極材料への応用】
第6章 MEMSのためのめっき・電鋳技術
6.1 はじめに
6.1.1 LIGAプロセス
6.1.2 LIGAプロセスの課題
6.1.3 インバーFe-Ni合金
6.2 インバー合金めっき膜の熱的および機械的特性
6.2.1 インバーFe-Ni合金めっき膜の組成に及ぼすめっき浴成分の影響
6.2.2 インバーFe-Ni合金めっき膜の熱膨張特性
6.3 インバーFe-Ni合金エレクトロフォーミングによる低CTEメタルマスクの試作
6.3.1 インバーFe-Ni合金メタルマスクのエレクトロフォーミング
6.3.2 インバーFe-Ni合金メタルマスクの熱膨張特性
6.4 まとめ
第7章 湿式法によるガラス上への金属膜形成
7.1 はじめに
7.2 ガラス基板の特性と電子関連用途
7.3 湿式法によるガラス上への金属膜形成法の種類
7.3.1 エッチング法
7.3.2 酸化物膜法
7.3.3 直接湿式めっき法
7.4 ガラス上への湿式めっき法による金属膜形成
7.4.1 ガラス上への湿式めっき法の基本工程
7.4.2 ガラス表面洗浄の効果
7.4.3 触媒付与の影響
7.5 ステイン法によるCu/Ag膜形成
7.5.1 ステイン法
7.5.2 ステイン処理による表面平滑性への影響
7.5.3 XPSによる拡散層分析
7.6 湿式法におけるCu膜形成
7.6.1 ガラス上への直接Cuめっき
7.6.2 TGVへの適応性
7.6.3 回路形成
7.6.4 ガラスウェハ・パネルへの適応性
7.7 今後の展望
第8章 機能性磁性薄膜のウェットプロセスによる形成
8.1 はじめに
8.2 合金電析法による合金系磁性薄膜の作製
8.2.1 Co-Pt,Fe-Pt薄膜磁石の作製
8.2.2 Fe-Ni系軟磁性薄膜の作製
8.3 金属-絶縁物系グラニュラ薄膜の無電解成膜
8.3.1 金属-酸化物同時無電解析出法の原理
8.3.2 金属-酸化物無電解析出法による薄膜作製
8.3.3 Co-Ce-Oの無電解析出の実験結果
8.4 EPD法と電析法を組み合わせた磁性薄膜の作製
第9章 銅-スズ合金めっき三次元構造体の形成とリチウム二次電池負極特性
9.1 はじめに
9.2 スズ系三次元構造体による電池特性改善
9.3 不織布をテンプレートとしたCu-Sn合金構造体
9.3.1 ポリエステル素材へのめっき
9.3.2 無電解めっきによるCu-Sn皮膜の作製
9.4 リチウム二次電池の負極特性評価
9.5 おわりに
第10章 遷移金属めっき膜の陽極酸化による多孔質電極材料の作製
10.1 はじめに
10.2 多孔質陽極酸化皮膜
10.3 電極作製法としての陽極酸化
10.4 めっき-陽極酸化による多孔質電極の作製
10.5 鉄合金めっき‐陽極酸化法によるナノ多孔質酸素電極の作製
10.5.1 多孔質スピネルフェライト電極の作製
10.5.2 多孔質電極のORR・OER活性
10.5.3 ナノ多孔質/マイクロクラック階層構造の作製
10.6 おわりに
第11章 クエン酸ニッケルめっきの電子部品用下地めっきへの展開
11.1 はじめに
11.2 電気めっき業におけるほう素の排水規制
11.3 ほう素フリーニッケルめっき(クエン酸ニッケルめっき)の概要
11.3.1 クエン酸ニッケルめっきの開発経緯
11.3.2 クエン酸ニッケルめっきの特性
11.3.3 クエン酸ニッケルめっきの析出機構
11.3.4 めっき浴中の金属不純物の影響
11.4 クエン酸ニッケルめっきの電子部品用下地めっきへの適用(高速連続めっき)
11.4.1 高速連続めっき法
11.4.2 高速連続めっき用クエン酸浴の開発
11.4.3 クエン酸ニッケルめっきの皮膜解析
11.5 クエン酸ニッケルめっきの電子部品用下地めっきへの適用(バレルめっき)
11.5.1 バレルめっき法
11.5.2 バレルめっき用クエン酸ニッケルめっきの開発
11.6 まとめ
【第3編:生物・医学分野への応用】
第12章 表面処理による生体適合性付与
12.1 はじめに
12.2 生体適合性
12.2.1 生体適合性材料
12.2.2 バイオマテリアルに使われる素材
12.3 生体適合性付与のための表面処理
12.3.1 表面処理の手法
12.3.2 表面処理の方策
12.4 まとめ
第13章 めっきによる金属製マイクロ針の開発
13.1 緒言
13.2 管創製手法の比較
13.3 極細針の創製技術の開発
13.3.1 極細管創製技術
13.3.2 剛性と強度の評価
13.3.3 管内表面の評価
13.3.4 熱分解中空化手法
13.4 極細管創製技術を用いた応用例
13.5 結言
第14章 貴金属めっきの材料特性と医用MEMSデバイスへの応用
14.1 はじめに
14.2 マイクロメートルサイズのめっき金属の機械的特性評価法
14.3 金めっきにおける微小機械的試験
14.4 リソグラフィーを用いた金めっき微小構造部材の力学的安定性
14.5 微小金めっき材料のヤング率測定
14.6 貴金属めっき材料の医用MEMSデバイスへの応用
第15章 電解めっき法を用いた白金系厚膜磁石の開発
15.1 はじめに
15.2 永久磁石
15.3 白金系薄膜磁石
15.4 白金系厚膜磁石
15.4.1 高保磁力Fe-Pt厚膜磁石の実現
15.4.2 クラックの低減
15.4.3 Cuの拡散が磁気特性に与える影響
15.5 おわりに
【第4編:自動車産業とめっき技術】
第16章 自動車用装飾めっきの概要と昨今のトピック
16.1 はじめに
16.1.1 自動車の歴史と装飾めっき
16.1.2 近年の自動車業界と装飾めっき
16.2 自動車用装飾めっきの皮膜構成
16.2.1 市場における腐食と防食設計思想
16.2.2 クロムめっき層
16.2.3 複層ニッケルめっき層
16.3 自動車用装飾めっきの品質管理方法
16.3.1 結果系管理と要因系管理
16.3.2 実際にあった不備の事例
16.3.3 近年加わっためっき管理項目
第17章 自動車端子用錫めっきの特性向上技術
17.1 はじめに
17.2 錫めっきの種類
17.3 電気的信頼性
17.3.1 高温接触信頼性
17.3.2 耐めっき剥離性
17.3.3 耐微摺動摩耗性
17.4 端子挿抜性
17.5 耐食性
第18章 電気自動車用高耐摩耗性銀-グラファイト複合めっき膜の開発
18.1 はじめに
18.2 AgCめっきの製造方法
18.2.1 製造工程
18.2.2 グラファイトの前処理
18.2.3 めっき最表面に存在するグラファイト
18.3 AgCめっきの特徴
18.3.1 耐摩耗性
18.3.2 耐熱性
18.3.3 耐食性
18.4 AgCめっきの応用
18.4.1 充電用の端子とその他の車載用端子の違い
18.4.2 耐微摺動摩耗特性
18.4.3 曲げ加工性
18.5 おわりに
第19章 自動車端子向けの銅合金へのAg@Nano-C複合めっきの創製および特性評価
19.1 はじめに
19.2 Ag@Nano-C複合めっき膜の作製
19.2.1 Nano-C添加による銀めっき過程への影響
19.2.2 Ag@Nano-C複合めっき膜の表面状態に対する電流密度と撹拌強度の影響
19.3 Ag@Nano-C複合めっき膜の化学組成に対する電流密度と撹拌強度の影響
19.4 複合めっき膜におけるNano-Cの化学構造の同定
19.5 Ag@Nano-C複合めっき膜の導電性および耐摩耗性
19.5.1 Nano-Cの添加によるめっき膜の抵抗率の影響
19.5.2 Ag@Nano-C複合めっき膜の硬度に対するめっき条件の影響
19.5.3 各種めっき膜の微摺動摩耗試験結果
19.5.4 各種めっき膜の摩耗痕の観察と分析
19.6 まとめ