レポートナンバー 0000032044
熱エネルギーの有効活用に向けた蓄熱技術開発
株式会社シーエムシー出版
Development of Thermal Storage Technology for Efficient Utilization of Thermal Energy
発刊日
2022/04/04
言語日本語
体裁B5/262ページ
ポイント
カーボンニュートラルを実現する上で注目される未利用熱の有効活用技術!
脱炭素のキーテクノロジーとして期待が高まる,余剰熱利用や熱再生技術を駆使した高度熱マネージメント!
潜熱蓄熱・化学蓄熱・潜熱輸送などの蓄熱技術開発と,建材や排熱回収などへの応用事例を詳述!
レポート概要
【刊行にあたって】
2020年,「我が国は2050年までに,温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。すなわち2050年カーボンニュートラル,脱炭素社会の実現を目指す」ことを我が国は世界に向けて表明した。脱炭素社会は持続可能な世界を実現するために,急務であることは,周知のことではあるが,このことは産業界に「カーボンニュートラルショック」と呼ばれる衝撃を与えた。特に素材産業は我が国の産業部門の消費エネルギーのうち,80%以上を消費しており,その多くは熱である。現在その熱源として石炭・石油・天然ガスを燃焼することによって得ているため,二酸化炭素排出量は膨大となっている。カーボンニュートラルを実現するためには,産業界における代替エネルギー資源の確保が急務である。この代替エネルギー資源としては,アンモニア燃焼や水素燃焼が検討され,技術開発が急ピッチで進められているが,これらの代替エネルギー資源には生産技術開発や供給手段・火力不足,安全性や貯蔵性等の問題が山積している。一方で,本書で取り上げるように余剰熱利用や熱再生技術によって代替エネルギー資源に頼らない方法が現在検討されている。すなわち高度熱マネージメントである。この高度熱マネージメントを実現するためには,潜熱蓄熱・化学蓄熱・潜熱輸送などの蓄熱技術開発が欠かせない。
2016年に発刊された『潜熱蓄熱・化学蓄熱・潜熱輸送の最前線―未利用熱利用に向けたサーマルギャップソリューション―』(シーエムシー出版)によって,主として民生部門の熱エネルギーとして未利用熱を利用するための技術を紹介した。産業から排出される未利用熱は,蓄熱技術と組み合わせることによって,より高度な活用が可能であり,この高度熱マネージメントによって産業部門におけるカーボンニュートラル実現へ資すると考えられる。本書では産業部門から排出される熱(未利用熱)を産業部門でも活用できる技術であることを示し,カーボンニュートラル実現に向けた一助となすことを目的とする。これらの技術は平成24年度に設立された日本潜熱工学研究会が主催する潜熱工学シンポジウムで毎年議論されており,近年目覚ましく進展しつつある。このことを受けて,日本潜熱工学研究会は令和4年度から日本潜熱工学会と改称し,より我が国の熱マネージメントに資する議論を展開する。今後とも私どもの活動にご注目いただければと考えている。そのためにも本書を是非手にとっていただきたい。
日本潜熱工学会会長
神戸大学大学院工学研究科
応用化学専攻 教授
鈴木 洋
レポート詳細
著者一覧
鈴木洋 神戸大学
大越慎一 東京大学
吉清まりえ 東京大学
中嶋孝宏 (株)KRI
中曽浩一 岡山大学
平野聡 元(国研)産業技術総合研究所
石田豊和 (国研)産業技術総合研究所
堀部明彦 岡山大学
春木直人 岡山県立大学
丸岡大佑 東北大学
郷右近展之 新潟大学
中村洸平 東邦ガス(株)
熊野寛之 青山学院大学
小林敬幸 名古屋大学
相場康広 名古屋大学
鈴木基啓 パナソニック(株)
麓耕二 青山学院大学
鈴木正哉 (国研)産業技術総合研究所
万福和子 (国研)産業技術総合研究所
宮原英隆 (国研)産業技術総合研究所
川南剛 明治大学
丸岡伸洋 東北大学
日出間るり 神戸大学
(一社)日本潜熱蓄熱建材協会
栗原潤一 ミサワホーム(株)
田坂太一 (一財)建材試験センター
添田晴生 大阪電気通信大学
高村秀紀 信州大学
松村良夫 (株)カネカ
劉醇一 千葉大学
黒沢諒 千葉大学
竹内雅人 大阪府立大学
能村貴宏 北海道大学
川上理亮 高砂熱学工業(株)
鎌田美志 高砂熱学工業(株)
谷野正幸 高砂熱学工業(株)
定塚徹治 三機工業(株)
稲垣照美 茨城大学
板谷義紀 岐阜大学
目次
第1章 概論
1 我が国のCO2排出量
2 蓄熱材
3 蓄熱技術の応用
第2章 蓄熱材の開発
1 圧力印加で熱を取り出すことができる長期蓄熱セラミックス
1.1 はじめに
1.2 新種の酸化チタンλ-Ti3O5の発見と長期蓄熱セラミックスの提案
1.3 放熱圧力の低圧化
1.4 おわりに
2 放熱温度を制御でき自由に成形できる高機能潜熱蓄熱材
2.1 はじめに
2.2 潜熱蓄熱材の過冷却と結晶化温度の制御
2.3 新開発の高機能潜熱蓄熱材
2.3.1 融解と凝固の温度差の広域制御
2.3.2 熱エネルギーの長期保管・輸送
2.3.3 容器不要で自由な形状に成形できる蓄熱材
2.4 高機能潜熱蓄熱材の応用
3 化学蓄熱の熱出力向上を目的とした伝熱促進技術の検討
3.1 はじめに
3.2 粒子充填層内の伝熱
3.3 アルミナ粒子による基礎実験
3.4 反応粒子への適用検討
3.5 まとめおよび今後の展望
4 潜熱蓄熱開発における技術課題
4.1 はじめに
4.2 潜熱蓄熱の課題
4.2.1 安全性
4.2.2 安定性
4.2.3 応答性
4.2.4 利便性
4.2.5 経済性
4.3 おわりに
5 理論計算化学を活用した高密度蓄熱材の探索と蓄熱原理の探求
5.1 はじめに
5.2 蓄熱現象と計算化学手法に関して
5.3 潜熱蓄熱の計算化学
5.3.1 候補物質の予備調査
5.3.2 天然糖アルコール化合物の分子動力学計算
5.3.3 新規な糖アルコール化合物の計算分子設計と機能予測
5.4 化学蓄熱材の探索
5.4.1 候補反応系の事前調査について
5.4.2 第一原理計算を用いたアルカリ土類金属化合物系の反応熱計算
5.4.3 第一原理計算に基づく反応素過程の分子モデリング
5.5 今後の展望など
6 糖アルコール類を用いた直接接触潜熱蓄熱における融解・凝固
6.1 緒言
6.2 直接接触熱交換のメリット・デメリット
6.3 糖アルコール類の融点および潜熱の例
6.4 直接接触式潜熱蓄熱槽におけるPCMの融解・凝固挙動
6.4.1 蓄熱槽
6.4.2 マンニトールの直接接触融解挙動
6.4.3 マンニトールの直接接触凝固挙動
6.5 直接接触式潜熱蓄熱槽におけるPCM凝固時の高さ抑制
6.6 結言
7 潜熱蓄熱材含有ゼラチンカプセルスラリー
7.1 はじめに
7.2 潜熱蓄熱材含有ゼラチンカプセルスラリーの作製
7.3 ヘプタデカン含有ゼラチンカプセルスラリーの熱物性特性
7.4 ヘプタデカン含有ゼラチンカプセルスラリーの流動・熱伝達特性
7.5 まとめ
8 バイオマス炭化プロセス用蓄熱材としてのFe-Mn-C合金の相変態および高温酸化挙動
8.1 はじめに
8.2 相変態温度および潜熱量の評価
8.3 耐酸化性および潜熱特性に対するアルミナイジングの影響
8.4 酸化皮膜の耐摩耗性,耐衝撃性評価
8.5 おわりに
9 次世代太陽熱発電のための金属系潜熱蓄熱材料と蓄熱システムの開発
9.1 緒言
9.2 高温・高効率化に向けて進む次世代太陽熱発電
9.3 金属系熱媒体と潜熱蓄熱材および蓄熱システム
10 低温熱を対象とした潜熱蓄熱材の開発
10.1 はじめに
10.2 ガスエンジン排熱などを対象としたミョウバン系潜熱蓄熱材と蓄熱槽の開発
10.2.1 蓄熱槽のコンセプト
10.2.2 潜熱蓄熱材の調製
10.2.3 サイズ低減効果の試算
10.3 過冷却防止剤を添加した酢酸ナトリウム系潜熱蓄熱材の開発
10.3.1 酢酸ナトリウム三水和物の特徴
10.3.2 酢酸ナトリウム系潜熱蓄熱材の調製と蓄放熱性能の評価
10.4 酢酸ナトリウム三水和物を活用した防寒マットの開発
10.4.1 防寒マットの試作
10.4.2 ソーラークッカーを活用した蓄熱試験
10.5 おわりに
11 エマルション型蓄熱材
11.1 エマルション
11.2 エマルション型蓄熱材の物性値
11.3 エマルション型蓄熱材の凝固・融解挙動
11.4 エマルション型蓄熱材の伝熱特性
11.5 まとめ
12 レドックス反応(酸化・還元可逆反応)を用いた化学蓄熱材
12.1 レドックス反応で作動する化学蓄熱
12.2 酸素を用いる酸化還元系蓄熱材
12.3 酸化コバルトの酸化還元反応特性
12.4 小型実証機を用いる蓄放熱実験
12.5 おわりに
13 時空を超えた熱利用を可能とする蓄熱材料の開発
13.1 開発の背景
13.2 NEDOプロジェクトにおける研究開発概要
13.3 高密度蓄熱材料の特長とこれまでの研究開発成果
13.3.1 研究開発の対象
13.3.2 蓄熱密度向上のアプローチ
13.3.3 これまでの研究開発成果
13.3.4 成果の社会実装が期待される分野
13.4 長期蓄熱材料の特長とこれまでの研究開発
13.4.1 研究開発の対象
13.4.2 熱の長期保存のアプローチ
13.4.3 これまでの研究開発成果
13.4.4 成果の社会実装が期待される分野
13.5 今後の展望
第3章 熱輸送技術
1 蓄熱効率向上のための熱輸送デバイスに関する研究(パッシブ型熱輸送技術)
1.1 はじめに
1.2 熱輸送デバイスについて
1.3 蓄熱技術のための熱輸送デバイス
1.4 潜熱蓄熱エネルギーをパッシブに輸送する技術
2 低温排熱利用可能な熱輸送蓄熱システム~デシカント蓄熱~
2.1 はじめに
2.2 デシカント蓄熱剤
2.3 低温再生型デシカント吸着剤
2.4 ハスクレイおよび水蒸気吸着性能
2.5 発熱量と再生温度
3 流動性を有する相変化機能性熱媒体の物性および熱輸送特性
3.1 相変化機能性熱媒体とは
3.2 相変化スラリー
3.2.1 水平矩形流路内を流れる相変化スラリーの流動形態
3.2.2 水平矩形流路内における強制対流熱伝達特性
3.3 相変化エマルション
3.3.1 相変化エマルションの生成方法
3.3.2 エマルションの分散安定性
3.3.3 相変化点および過冷却
3.4 まとめ
4 伝熱面の機械的更新による高速熱交換器/潜熱蓄熱槽の開発
4.1 はじめに
4.2 潜熱蓄熱システムの放熱速度の問題点
4.3 伝熱面の機械的更新による高速熱交換器/潜熱蓄熱槽の開発
4.4 まとめ
5 硬殻マイクロカプセル化蓄熱材によるサーマルグリッド構築
5.1 潜熱輸送
5.2 硬殻マイクロカプセル化蓄熱材
5.3 硬殻マイクロカプセル化蓄熱材の潜熱特性
5.4 硬殻マイクロカプセル化蓄熱材の分散・流動特性
5.5 化学蓄熱材への応用
5.6 サーマルグリッド構想
第4章 建材への応用
1 潜熱蓄熱建材普及に向けた取り組み
1.1 はじめに
1.2 潜熱蓄熱建材とは
1.3 日本潜熱蓄熱建材協会の取組
1.4 潜熱蓄熱建材の効果予測計算ソフトの開発
1.5 潜熱蓄熱建材への期待
1.5.1 住宅の脱炭素化に向けた取り組み
1.5.2 住宅の省エネの困難さ
1.5.3 健康快適な室内温熱環境へのニーズの高まり
1.5.4 省エネ・断熱基準の強化
1.5.5 太陽熱を含めた再生可能エネルギーの活用
1.5.6 開口部からの日射熱取得と蓄熱の重要性
2 住宅におけるパッシブシステムと蓄熱技術への期待
2.1 はじめに
2.2 住宅におけるパッシブシステムを考える背景
2.3 パッシブシステム(パッシブデザイン)とは
2.4 蓄熱の必要性
2.5 住まい方
2.6 蓄熱技術への期待
3 潜熱蓄熱建材の蓄熱特性試験方法の開発
3.1 はじめに
3.2 潜熱蓄熱建材の比熱試験方法の検討
3.2.1 試験体
3.2.2 試験方法
3.2.3 試験条件
3.2.4 試験結果および考察
3.3 潜熱蓄熱建材の蓄熱応答特性の試験方法の検討
3.3.1 試験体
3.3.2 試験方法
3.3.3 試験条件
3.3.4 試験結果および考察
3.4 おわりに
4 潜熱蓄熱材(PCM)を利用した室内熱環境調整
4.1 はじめに
4.2 PCM壁ボードの研究事例
4.3 PCM壁ボードの試作
4.4 夏期及び冬期におけるPCM壁ボードの数値シミュレーション
4.5 おわりに
5 潜熱蓄熱材の住宅への活用
5.1 はじめに
5.2 暖房時のアクティブ利用
5.2.1 シート状PCMの活用事例
5.2.2 温暖地の事例(プラスチック製容器に封入したPCMの活用事例)
5.2.3 寒冷地の事例(アルミパックに封入したPCMの活用事例)
5.3 暖房時の換気負荷処理(アルミパックに封入したPCMの活用事例)
5.4 冷房時における遮熱対策(シート状PCMの活用事例)
5.5 まとめ
6 シート状潜熱蓄熱建材「パッサーモTMシート」
6.1 潜熱蓄熱材(PCM)とは
6.2 潜熱蓄熱建材とは
6.3 潜熱蓄熱建材の活用法
6.4 シート状潜熱蓄熱建材「パッサーモシート」とは
6.5 パッサーモシートによる夏対策
6.5.1 夏対策の効果例1(侵入熱防止効果の実測例)
6.5.2 夏対策の効果例2(室内表面温度低下効果の実測例)
6.5.3 夏対策の効果例3(冷房負荷削減効果の試算例)
6.6 まとめ
第5章 排熱回収への応用
1 オーダーメイド型化学蓄熱材の開発
1.1 はじめに
1.2 化学蓄熱の作動原理
1.3 水酸化マグネシウム系化学蓄熱材の性能向上
1.3.1 リチウム化合物を添加した水酸化マグネシウムの脱水/水和反応性
1.3.2 水酸化マグネシウム系化学蓄熱材におけるリチウム化合物の役割
1.4 今後の課題
2 高温鉄鋼排熱回収のための金属/合金系潜熱蓄熱材開発
2.1 はじめに
2.2 金属/合金PCMの特徴と利点
2.3 金属/合金PCMにおける課題
2.4 金属/合金系PCMの検討事例
2.4.1 金属/合金PCMの種類
2.4.2 腐食試験対象のセラミックス
2.4.3 実験手順
2.4.4 検討した合金PCMの蓄熱性能
2.4.5 腐食試験の結果
2.5 おわりに
3 100℃程度の低温排熱を利用する吸着材蓄熱システムの開発
3.1 はじめに
3.2 吸着材蓄熱システムの概要
3.3 実証試験の概要
3.3.1 蓄熱槽および搬送車両
3.3.2 蓄熱サイト(CGS設備)
3.3.3 放熱サイト(羽村市スイミングセンター)
3.3.4 放熱サイト(塗装工程の空調設備)
3.3.5 実証試験の工程
3.4 実証試験結果
3.4.1 蓄熱運転
3.4.2 羽村市スイミングセンターでの放熱運転
3.4.3 羽村市スイミングセンターでの季節間評価
3.4.4 塗装工程の空調設備での放熱運転
3.4.5 塗装工程の空調設備でのCO2排出量およびコスト削減効果
3.5 吸着材蓄熱システムの設計ツール
3.6 おわりに
4 潜熱蓄熱材を用いたオフライン熱利用システムの開発と導入事例
4.1 はじめに
4.2 システムの説明
4.2.1 本システムの特長
4.2.2 設備構成
4.2.3 蓄・放熱機構
4.2.4 適用温度
4.2.5 ラインナップ
4.3 開発から実設備導入までの経緯
4.3.1 大容量型
4.3.2 標準容量型
4.4 導入実績(実証試験,実稼働設備)
4.4.1 標準容量型 輸送式1(三重)
4.4.2 標準容量型 輸送式2(富山)
4.5 おわりに
5 潜熱蓄熱物質-脂肪酸-の熱物性とその温度依存性
5.1 緒言
5.2 実験装置と計測法
5.3 結果と考察
5.4 結言
6 サーマルトランジスタ機能に向けた温熱・冷熱同時生成
6.1 はじめに
6.2 伝熱と電気のアナロジー
6.3 熱的諸課題とサーマルトランジスタ機能
6.4 吸収式ヒートポンプによる高温生成
6.4.1 高温空気生成
6.4.2 微細結晶スラリーによる高性能化
6.5 サーマルトランジスタによる温熱アップグレード