レポート概要
<必要な統計手法・分析能パラメータ評価・妥当性/技術移転・同等性評価>
<2025年10月9日通知発出>
▶ ICH 分析法バリデーションGL改定版(ICH Q2(R2))及び分析法開発GL(ICH Q14)
~主な改定項目、ラボ業務に求められること、より良い理解のための筆者(檜山先生)おすすめポイント~
▶ 製薬企業目線での分析法開発とライフサイクルマネジメントにおける運用と課題
~Expert Working Group (EWG)で交わされた議論等も踏まえ、製薬企業の目線で、
分析法開発とそのライフサイクルマネジメントの課題と両GLを運用することへの期待を解説~
▶「より進んだ手法」、AQbDを踏まえた分析法開発・分析法バリデーションとCTD記載
ICH Q2(R2)と同時に公表された新規GL:ICH Q14 分析法の開発では、
分析法のライフサイクルを通じて、原薬及び製剤の品質評価に適した分析法を
開発及び維持するための科学及びリスクに基づく手法
「より進んだ手法」を活用した場合のCTDへの記載内容を提案したCTDモックアップについて紹介
▶ 分析法バリデーションで必要な統計の基礎と分析能パラメータ評価・妥当性と基準値設定
正規分布と標準偏差/平均値の信頼区間/標準偏差の信頼区間/相関と回帰など
基準値の設定と妥当性確認/「生産者危険率の基準値」の求め方とその評価など
▶ 分析試験法の技術移転・試験法変更時の同等性評価
技術移転に係る規制文書/分析試験法技術移転プロセス/試験法の同等性評価など
▶ 分析法バリデーションの承認資料と添付資料の作成
CTD-Q 視点におけるMinimum Approach とEnhanced Approach
ATP を反映した分析法バリデーションの承認資料例示など
▶ 核酸医薬品のバイオアナリシス法
Hybridization Assay を用いるLBA 法/LC-MS 法
<本書のポイント>
▼ICH 分析法バリデーションGL改定版(ICH Q2(R2))及び分析法開発GL(ICH Q14)
・ラボ業務に求められることとは。
・主要な点としては,開発データをバリデーションデータとして使うことである。
・"より進んだ手法”による分析法の開発,変更マネジメントを系統化するため目標分析プロファイルの概念,使用とは。
2つのガイドラインのより良き理解を進めるため,筆者のおすすめを記載する。
▼分析法開発とライフサイクルマネジメントの課題、及び製薬業界のICH Q2(R2)/Q14への期待
ICHQ2(R2)およびICHQ14に関連する内容について、コンセプトペーパーから読み取れるガイドラインの方向性、
ガイドラインの記載、またその記載に至るまでにExpert Working Group (EWG)で交わされた議論等も踏まえ、
製薬企業の目線で、分析法の開発とそのライフサイクルマネジメントにおける課題と両ガイドラインを運用
することへの期待を述べる。
▼「より進んだ手法」、AQbDを踏まえた分析法開発・分析法バリデーションとCTD記載
ICH Q2(R2)と同時に公表された新規ガイドラインICH Q14 分析法の開発では、分析法のライフサイクルを
通じて、原薬及び製剤の品質評価に適した分析法を開発及び維持するための科学及びリスクに基づく手法が
提案されている。両ガイドラインとも、分析法の開発・維持・管理の実務や、医薬品の承認申請に影響を
及ぼすものと考えられる。
研究班で作成した「より進んだ手法」を活用した場合のコモン・テクニカル・ドキュメント(CTD)への
記載内容を提案したCTDモックアップについて紹介する。
▼分析法バリデーションで必要な統計の基礎と分析能パラメータ評価・妥当性と基準値設定
サイエンティストである我々は、一を知って(サンプルのデータから)十を知る(試験をしなかったその他大勢の
全体像を推測する)ということを行おうとしているわけです。分析法バリデーションでも、バリデーション時の
試験精度がサンプルになり,これから当試験室で行うことになる試験の精度の保証が求めらるのです。
そこで,少数のサンプルデータからまだ見ぬ全体像を把握することが統計の目的だと、筆者は思っています。
基準値の設定は,安全性を保障できる製品の規格値や不合格品を出してしまうリスクなどを考慮して実施する
ことになるが,まずは基準値の対象である分析能パラメータから説明する。
分析能パラメータの妥当性は基準値に適合するかどうかで決まる。基準値設定の考え方と基準値の設定例を
紹介した後、室内再現精度を例に基準値を計算で求める方法を解説する。
▼各試験における分析法バリデーション実施~業務で想定されるトラブルとその対応~
分析バリデーションはなぜ必要か?
①申請時に必要だから
②製造移管後,試験でのトラブルがないようにするため
③規格幅に対し製造バラツキと試験バラツキで規格外(OOS)が出ないようにするため
分析バリデーションは①のために行われているといっても過言ではない。なぜなら製造移管後に②、③の
トラブルが起きるからである。本章では、様々な事例から分析バリデーションの考慮すべき視点と項目を
見ていきたいと思う。
▼分析試験法の技術移転・試験法変更時の同等性評価
21 世紀に入り,Quality by Design(QbD)に基づいた製剤開発が行われるようになり,医薬品品質保証に
対する取り組みは大きく変化した。しかし,設計された医薬品の品質評価の基礎となるのは依然として
分析試験であり,信頼性の高い,そしてより高感度・特異性の高い試験法の開発が医薬品開発の成否に
関わるものとなっている。さらに、医薬品開発のグローバル化や委受託製造が一般的になった今日、分析
試験法の技術移転が,製薬企業における重要な取り組み,そして課題となっている。
しかし,国をまたいだ移転の場合,それは単に技術的な問題だけではなく,文化的な問題・規制的な問題も
関わり,時間と経費がかかる厄介な問題である。こうした技術移転を行う企業が直面する主な課題について,
特に試験法に焦点を当て、そこでの留意点や評価法について筆者らの経験を基に紹介する。
▼分析法バリデーションの承認資料と添付資料の作成
ICH Q2(R2)とICH Q14を踏まえた分析法バリデーションの承認資料と添付資料について述べる。ICH Q14で
説明されている分析法開発や分析法のライフサイクルマネジメントに関しては,分析法バリデーションが
関わる部分には触れるが,詳細な解説には踏み込まず,ガイダンスの参照セクションを示すにとどめる。
ICH Q14の適用範囲は広範で複雑であり,本書は分析法バリデーション中心に編纂するという趣旨であり,
ICH Q2(R2)を中心に据え新ガイドラインへの申請資料作成対応策を記載することで読者の期待に沿う内容
となることを期待したい。
▼核酸医薬品のバイオアナリシス法
近年、核酸修飾技術やDDS の向上によりこれらの問題を解決できるようになり、これまでの低分子医薬品では
治療できなかった難治性疾患に対する新たな治療手段として注目を集めている。さらに、最近、核酸医薬品の
開発は高脂血症や高血圧といった低分子や抗体医薬品と競合する生活習慣病領域にも広がっている。
また、核酸医薬品の輸送技術の向上に伴い、静脈内投与や皮下投与が可能になり,生体内挙動を知るための
生体内薬物濃度測定(バイオアナリシス)が重要になってきている。そのため本稿では,核酸医薬品の基本
情報を概説するとともに、バイオアナリシス法について深堀りして紹介する。
レポート詳細
著者
檜山 行雄 国立医薬品食品衛生研究所
柴田 寛子 国立医薬品食品衛生研究所
井上 敬介 ICHQ2(R2)/Q14 JPMA トピックリーダー
福田 晃久 スタット・イメージング・ラボ
川口 謙 元(株)東レリサーチセンター
脇坂 盛雄 (株)ミノファーゲン製薬
宮嶋 勝春 (株)リボミック
伊藤 優 (株)リボミック
永井 茜 (株)リボミック
高橋 徹 (株)リボミック
林 善治 シミックファーマサイエンス(株)
根木 茂人 ルートT 技術士事務所
目次
第1章 ICH 分析法バリデーションガイドラインの改定版(ICH Q2(R2))及び
分析法開発ガイドライン(ICH Q14)からラボ業務に求められること
1. イントロダクション
1.1 ICH Q2/Q14ガイドラインと製薬ラボ業務との関係(ICH Q2;2 章,ICH Q14;2 章)
1.2 ガイドライン作成の背景
1.3 二つのガイドラインの守備範囲
1.4 適用範囲
1.5 主な用語
2. ICH Q2(R2)ガイドラインの主な論点
2.1 構成
2.2 分析法バリデーションに係る一般的な考慮事項(ICH Q2(R2);2 章)
2.2.1 分析法バリデーション評価(ICH Q2(R2);2.1 項)
2.2.2 分析法のライフサイクルにおけるバリデーション(ICH Q2(R2);2.2 項)
2.2.3 安定性の指標となる特性(Stability indicating property)(ICH Q2(R2);2.4 項)
2.3 バリデーション実験,実施方法及び評価(ICH Q2(R2);3 章)
2.3.1 特異性及び選択性(ICH Q2(R2);3.1 項)
2.3.2 報告値範囲及び稼働範囲(ICH Q2(R2);2.3 項及び3.2 項)
2.4 付属書2(ICH Q2(R2);7 章)
3. ICH Q14ガイドラインの主な論点
3.1 構成
3.2 一般的な考慮事項(ICH Q14;2 章)
3.2.1 最小限の手法及びより進んだ手法による分析法の開発(ICH Q14;2.1 項)
3.2.2 分析法のライフサイクル(ICH Q14;2.2 項)
3.3 目標分析プロファイル(ICH Q14;3 章)
3.4 分析法の開発及び継続的な改善における知識管理及びリスクマネジメント(ICH Q14;4章)
3.5 頑健性の評価及び分析法操作パラメータの範囲(ICH Q14;5 章)
3.5.1 頑健性(ICH Q14;5.1 項)
3.5.2 分析法デザインスペース(ICH Q14;5.2 項)
3.6 分析法管理戦略(ICH Q14;6 章)
3.6.1 システム適合性試験(ICH Q14;6 章)
3.7 分析法の承認後変更管理(ICH Q14;7 章)
3.7.1 分析法変更時の評価
3.7.2 分析法のエスタブリッシュトコンディション(ICH Q14;6.1 項)
3.7.3 EC 変更時のリスクに基づく薬事手続きのカテゴリーの決定(ICH Q14;7 章)
4. 多変量解析モデルを用いた分析法について(ICH Q2(R2);2.5項,ICH Q14;8章)
5. 承認申請資料への記述(ICH Q14;10 章)
まとめ
第2章 分析法の開発とそのライフサイクルマネジメントにおける課題と製薬業界におけるICH Q2(R2)/Q14への期待
はじめに
1. 本ガイドライン作成の目的と経緯
1.1 分析法バリデーション(ICH Q2(R1))の改訂
1.2 分析法開発ガイドライン(ICH Q14)の制定
2. EWGにおけるガイドライン作成過程の議論と方向性
3. 分析法のライフサイクル
4. 知識管理の重要性
5. 分析法バリデーション
6. 承認後の変更申請に関係する事項
おわりに
第3章 分析法バリデーションで必要な統計の基礎
1. 統計って何?
2. 正規分布と標準偏差
2.1 ばらつきの数値化
2.2 標準偏差の価値
2.3 ユーザーフレンドリーな表現
2.4 覚えておくと便利な数値
2.5 ヒストグラムの作成と基本統計量の算出
3. 平均値の信頼区間
3.1 平均値のばらつき
3.2 サンプルの平均値とは母平均の推定値
3.3 誤差を使いこなす(信頼区間の計算)
3.4 信頼区間の本当の意味合い
4. 標準偏差の信頼区間
4.1 準偏差のばらつき
4.2 χ2 分布の導入
4.3 標準偏差の信頼区間の計算
5. 相関と回帰
5.1 相関係数とその性質
5.2 回帰分析の考え方と結果の見方
5.3 直線性は何で判断すればよいか
5.4 回帰診断
第4章 分析法バリデーションの分析能パラメータ評価・妥当性と基準値設定
はじめに
1.分析能パラメータ
1.1 特異性
1.2 精度
2. 統計解析の基礎 ~正規分布の確率~
2.1 正規分布
2.2 正規分布は確率密度関数
2.3 正規分布曲線と確率
3. 基準値の設定と妥当性確認
3.1 基準値設定の考え方
3.2 基準値の参考例
3.3 計算による「室内再現精度の基準値」の求め方とその評価
3.3.1 室内再現精度の基準値計算のための前提
3.3.2 生産者危険率から室内再現精度の基準値を計算
3.3.3 消費者危険率から室内再現精度の基準値を計算
3.3.4 生産者危険率と消費者危険率から計算した室内再現精度の基準値の総合判定
3.4 計算による「生産者危険率の基準値」の求め方とその評価
おわりに
第5章 「より進んだ手法」,AQbDを踏まえた分析法開発・分析法バリデーションとCTD記載
はじめに
1. ICH Q2(R2)/Q14について
1.1 ICH Q2(R2)/Q14の背景と経緯
1.2 ICH Q2(R2)/Q14の承認申請資料へのインパクト
2. 「より進んだ手法」を使った分析法開発・分析法バリデーションの流れ
3. より進んだ手法を使った分析法開発のCTDモックアップ
3.1 目標分析プロファイル(ATP)(資料CTDモックアップ3.2.P.5.3.3.1参照)
3.2 分析法のリスク評価(資料CTDモックアップ3.2.P.5.3.3.3参照)
3.3 分析法デザインスペース(MODR)(資料CTDモックアップ3.2.P.5.3.3.4参照)
3.4 分析法管理戦略(資料CTDモックアップ3.2.P.5.3.3.5参照)
3.5 分析法バリデーション(資料CTDモックアップ3.2.P.5.3.3.6参照)
まとめ
【資料】
国立研究開発法人日本医療研究開発機構 医薬品等規制調和・評価事業
先進的製造・品質管理及び評価?法を反映した医薬品のライフサイクルマネジメントに関する研究
和4年度「AQbDによる分析法のライフサイクルマネジメントに関する研究」
より進んだ手法を活用して開発した分析法のCTDモックアップ
第6章 試験における分析法バリデーション実施~業務で想定されるトラブルとその対応~
はじめに
1. K 社のケースの真値
2. カラムの理論段数
3. フィルム錠のフィルムが粉砕されない
4. 類縁物質のデータ処理の問題/ 不完全分離
5. 固形剤で規格が95.0 ~ 105.0%と狭い
6. 規格幅に対して製剤バラツキ,分析バラツキをいくらに設定するか
7. ソフトカプセルの水分の試験方法
8. ビタミンA の定量(カール・プライス法)からHPLC への変更時トラブル
9. GC からHPLC への変更失敗
10. 分析バリデーションレポートを入手しているか,委託先に渡しているか
11. 標品
12. 分析バリデーションの官能試験
13. 新旧分析機器導入時の統計処理
14. 類似の化合物を特異的に検出する試験を必要により設定する
15. 剤型違い(錠剤,カプセル,顆粒)で抽出方法が異なり手間
16. ソフトカプセル中の軽質流動パラフィンの定量方法作成
17. フィルムコート上の捺印が取れやすい,評価方法作成
18. 夜間の長時間分析時のバリデーション
19. 移動相の有効活用による効率化と溶媒の節約
20. 自動化分析時の視点の変換
21. 日本薬局方収載時の対応
22. カラムの変更(オレンジレター)
第7章 分析試験法の技術移転・試験法変更時の同等性評価
はじめに
1. 分析試験法の開発・技術移転の現状
1.1 分析試験法開発の現状
1.2 分析試験法の技術移転上の課題
1.2.1 国内での技術移転
1.2.2 国をまたいだ技術移転
(1)言葉の壁:
(2)規制上の問題:
(3)契約上の問題:
(4)技術者の問題:
(5)カレンダーの問題:
(6)権利の問題:
(7)その他:
1.3 技術移転に係る規制文書
1.3.1 技術移転ガイドライン
1.3.2 ISPE 技術移管ガイドライン
1.3.3 WHO 技術移転ガイドライン
1.3.4 その他
2. 分析試験法技術移転プロセス
2.1 委託先の選択
2.2 委託先の監査
(1)品質管理システムの確認
(2)試験室の見学
(3)研究者・技術者の能力確認
(4)OOS・逸脱
2.3 委託先との契約(Quality Agreement)
2.4 技術移転プロセス
(1)必要となる文書
(2)移転計画書(Master Transfer Plan)
(3)移転の実施
(4)移転報告書
(5)役割分担の例
(6)試験法移転時の判定基準
2.5 技術移転の評価・判断基準
(1)確認試験:
(2)溶出性:
(3)含量均一性:
(4)定量法:
(5)類縁物質試験:
(6)微生物限度試験:
2.6 技術移転のトラブル事例
(1)転職に伴う試験実施者及び責任者の変更
(2)生データの提出
(3)HPCL による定量結果が逸脱(海外の事例)
(4)粒度分布の計算法
(5)日本的品質
(6)原料の品質バラツキ
(7)溶媒が十分抜けていなかった(ログブックが重要)
3. 分析バリデーションに係る最新情報
3.1 ICH Q2(R2)ガイドライン(「分析試験法バリデーション」の改定)
3.2 ICH Q14ガイドライン(分析法の開発に関するガイドライン)
4. 試験法の同等性評価の現状と課題
4.1 FDA ガイドラインに見るComparability の評価
4.2 IQ Consortium のアンケート調査に見るEquivalency 評価
5. 品質保証に対する新たな取り組み
まとめ
第8章 核酸医薬品のバイオアナリシス法
はじめに
1. 核酸医薬品
1.1 核酸
1.2 修飾核酸
1.3 Drug Delivery System(DDS)
1.4 核酸医薬品の種類
1.4.1 ASO
1.4.2 siRNA
1.4.3 アプタマー
2. 核酸医薬品のバイオアナリシス
2.1 Hybridization Assay を用いるLBA 法
2.1.1 Cutting Assay
2.1.2 Ligation Assay
2.1.3 Dual Hybridization Assay
2.2 LC-MS 法
2.2.1 LC 条件
2.2.2 MS 条件
2.2.3 前処理法
2.3 LC-FL 法
おわりに
第9章 分析法バリデーションの承認資料と添付資料の作成
はじめに
1. ICH Q2(R1)とICH Q2(R2)の比較
2. CTD-Q 視点におけるMinimum Approach とEnhanced Approach
3. ATP を反映した分析法バリデーションの承認資料例示
4. EC に分析法変更を予定する場合の文書構造
5. ATP-EC 化の課題 - Enhanced Approach と関連するICH Qガイダンス-
6. ICH Q14の例示から導き出し可能な解釈
まとめ