プレフィルドシリンジは、海外での歴史は古く、戦時化の応急処置の一環として開発されたのが始まりと言われている。日本では1990年代のヒアルロン酸ナトリウム製剤とX線造影剤から本格的に市場展開された。海外では開発時期の関係から、材質としてはガラス製シリンジが採用され、現在でも主流になっている。・・・本章ではプレフィルドシリンジのシリンジ材質として使用されるプラスチック材料の特性、品質基準ならびにプレフィルドシリンジ設計時の留意点、機能付加の事例について紹介する。(第3章 抜粋)
プレフィルドシリンジの製造評価試験での出荷判定について筆者の個人的な考えで注意点について述べ、・・・特にグローバル対応ではICH合意文書Q8、Q9、Q10などの考えも踏まえて、経営を巻き込んだ全社的品質保証体制の構築が急務である。当局査察の動向もFDAのPIC/S加盟を踏まえてFDAの査察はより厳しくなる可能性も大きい。・・・グローバル対応にあたっては、当面海外からの査察も視野にいれておく必要がある。(第7章 抜粋)
プレフィルドシリンジの材質を考える上で、国内と海外の状況の違いを考慮する必要がある。主要部品である外筒、ガスケット、プランジャーの3つのうち外筒は、国内と海外で状況が大きく異なる。海外では、外筒はガラスが主流である。医薬品として登録されているものはほぼ100%ガラス製シリンジである。一方、アメリカで510K範囲の医療器として登録されているもので、ディスポーザブルシリンジに注射用水や生食を詰めたプレフィルドシリンジがある。・・・本稿では、医薬品容器として使用することを前提としたプレフィルドシリンジについて述べたい。(第11章 抜粋)
目次
第1章 プレフィルドシリンジの部材要求特性と留意点
1. プレフィルドシリンジに関する規制
1.1 医療機器としてのプレフィルドシリンジ
1.2 キット製品と医療機器承認申請
2. プレフィルドシリンジの部材と材料
2.1 プレフィルドシリンジの部材及び規格について
2.2 プレフィルドシリンジの材質と留意点
2.2.1 シリンジバレル
2.2.2 ピストン (ガスケット)
2.2.3 ノズルキャップ (チップキャップ,トップキャップ)
2.2.4 プランジャー (プランジャーロッド)
2.2.5 フィンガーグリップ
3. プレフィルドシリンジに適用される基準
4. プレフィルドシリンジに求められる主な機能評価項目
4.1 外観,透明性
4.2 形状,寸法
4.3 残量(デッドスペース)
4.4 摺動性
4.5 気密性
4.6 嵌合,強度
4.7 破壊強度
4.8 不溶性微粒子,不溶性異物
4.9 溶出物
4.10 生物学的安全性,無菌性の保証
4.11 滅菌保証
4.12 包装・輸送
4.13 投与システムの機能性試験
第2章 プレフィルドシリンジのゴム部材における部材要求特性と留意点
1. ガスケット・キャップ・ゴム栓の製品形状
1.1 ガスケット
1.1.1 摺動性の評価
1.1.2 気密性の評価
1.1.3 デザイン性の評価
1.2 キャップ
1.2.1 気密性の評価
1.2.2 デザイン性の評価
1.3 ゴム栓
2. ガスケット・キャップ・ゴム栓の材質
2.1 ガスケット
2.2 キャップ
2.3 ゴム栓
3. ガスケット・キャップ・ゴム栓の物理設計
3.1 ガスケット
3.2 キャップ
3.3 ゴム栓
第3章 プレフィルドシリンジの材料特性・品質基準と設計時の留意点,機能付加
1. プレフィルドシリンジの品質基準
1.1 プラスチック製容器試験法
1.1.1 ポリエチレン製又はポリプロピレン製注射剤容器
1.2 輸液用ゴム栓試験法
1.3 シリコーン油基準
1.4 新規樹脂採用時の留意点
2. プレフィルドシリンジの材料特性
2.1 ポリプロピレン(PP)の特性
2.2 シクロオレフィンポリマーの特性
3. ガスケット材質
3.1 ガスケット材質の選定
4. シリンジ設計上(PP, COP, COC)の留意点
4.1 シリンジへの気泡付着防止対策
5. ガスケット設計上の留意点
6. トップキャップ設計上の留意点
7. 設計時の品質,機能評価
7.1 品質・機能評価
7.2 流通時の品質評価
8. プレフィルドシリンジの付加価値向上対策
8.1 セイフティー機能付きシリンジ(針刺し防止)
8.2 医療過誤防止対応シリンジ
8.3 ペン型シリンジ
8.4 ユニバーサルデザインを取り入れた製品
8.5 皮内投与プレフィルドシリンジ
8.6 自動注入器を活用した製品
8.7 無心注射
第4章 PFSの摺動性の確保と対策
1. 摺動値
2. 気密性
2.1 圧力試験
2.2 吸引試験
3. シリコーン処理
3.1 シリコーンとは
3.1.1 シリコーンオイル
3.1.2 シリコーンエマルジョン
3.2 シリコーン油の基準について
3.2.1 シリコーン油の基準
3.3 シリコーン塗布工程
3.3.1 ガラス製シリンジバレルへのシリコーン塗布工程
3.3.2 プラスチック製シリンジバレルへのシリコーン塗布工程
3.4 シリコーン塗布方法
3.4.1 ノズル噴射方式
3.4.2 ディッピング(ドブ漬け)方式
3.4.3 ローラ転写方式
4. 摺動性対策
4.1 ガスケット形状
4.2 ガスケット材質
4.3 PTFEラミネート
4.4 コーティング
4.5 TriboGlide®
4.6 フィンガーグリップ
5. シリコーン塗布のバラツキ対策
5.1 シリンジバレル1本毎のバラツキ対策
5.2 シリンジバレル1本中のバラツキ対策
5.3 PTFEラミネートを施したガスケットの使用
第5 章 プレフィルドシリンジの規格と判定基準の留意点
〜高機能,高品質,摺動性の確保を踏まえて〜
はじめに
1. 注射剤/ プレフィルドシリンジ製剤を取り巻く環境
2. プレフィルドシリンジ容器に求められる高い機能,品質
3. プレフィルドシリンジ製剤で規格を作成する際のポイント
4. プレフィルドシリンジ容器が抱えている数多くの問題点
5. プレフィルドシリンジ容器の加工品質に対する管理
6. 医薬品メーカーの視点で捉えた最適なプレフィルドシリンジ容器,並びに製造ラインの設計
6.1 製造現場を取り巻く環境,並びに抱えている様々な問題点
6.2 次世代の注射剤棟を構築する目的/ 設計コンセプト/ フィロソフィー
6.3 バリアアイソレーターシステムの導入
6.4 MES&SCADA システムの積極的な活用,並びに大変ユニークな機能に関して
6.5 3 次元的なエンジニアリング手法/Gravity Transfer System(G・T・S)の構築
6.6 Self Navigation System(S・N・S)の構築
6.7 Self Assessment System(S・A・S)の構築
6.8 IT 化を図り,Process Control Technology 機能を兼ね備えた信頼性の高い医薬品工場の構築
7. プレフィルドシリンジ製剤の基本的な製造フロー
7.1 1 次包装,2 次包装ラインの基本的な製造フローに関して
7.2 1 次包装/ 直接容器のDQ 作業における参考事例
7.3 2 次包装・ラベル貼付&ピロー包装のDQ 作業における参考事例
8. 斬新,且つユニークな機能に関して/Equipment Innovation & Operational Excellence
8.1 高攪拌,高分散機能を兼ね備え省人化・省力化に優れた無菌注射剤調製システムに関して
8.2 シリコン塗布量のバラツキに起因する摺動性不良品の発生・流出を“ゼロ”へ
おわりに
第6章 PFS(Prefilled Syringes)/注射剤における不溶性微粒子の測定および評価
1. 三局における注射剤中の不溶性微粒子試験
1.1 第十六改正日本薬局方における注射剤中の不溶性微粒子試験
1.1.1 注射剤の不溶性異物検査法
1.1.2 注射剤の不溶性微粒子試験法
2. 試薬
3. バリデーション業務
第7章 プレフィルドシリンジの製造評価試験での出荷判定
1. 回収事例から学ぶ
1.1 試験の不備
1.2 異物混入
1.3 無菌の観点
1.4 機械的部分の不具合
2. 内部監査から学ぶ
3. FDAの査察文書から学ぶ
4. FDAの警告文書から学ぶ
第8章 高機能・品質・低コストを実現させるプレフィルドシリンジ自動検査システムの構築
1. はじめに
1.1 画像処理装置を応用した検査システムの動向
1.2 目視検査における利点と問題点
1.3 目視検査の問題点を踏まえた検査の自動化
1.4 検査項目の決定から検査システム導入までのプロセス
2. プレフィルドシリンジに想定される不良項目
2.1 プレフィルドシリンジの包装容器設計
2.2 包装容器設計から考える検査項目
3. プレフィルドシリンジの生産工程と想定される検査システム
3.1 充填ラインに想定される検査について
3.2 検査・包装ラインに想定される検査について
4. 各々の検査システムの特徴
4.1 ゴム栓(ガスケット,トップキャップ)検査装置
4.2 バレル外観検査装置
4.3 シリコン塗布検査装置
4.4 異物・外観総合検査機
4.4.1 異物・外観総合検査機の概要
4.4.2 異物・外観検査機の原理
4.4.3 異物・外観検査機の特徴
5. 検査システムのバリデーションについて
5.1 コンピュータシステムバリデーション(CSV)
5.2 設計時適格性評価(DQ)
5.3 工場出荷検査(FAT)
5.4 据付時適格性評価(IQ)
5.5 運転時適格性評価(OQ)
5.6 性能適格性評価(PQ)
6. 検査システム構築時の課題について
6.1 異物・外観検査機の課題
6.2 検査システムのパラメータ最適化手法の確立
まとめ
第9章 プレフィルドシリンジ製剤における,薬剤経済学を用いた価値と価格の評価
1. 諸外国における薬剤経済学の政策への応用状況
1.1 欧州諸国
1.2 日本
2. PFS製剤が有する価値と価格の薬剤経済学的手法に基づく評価方法
2.1 PFS製剤の薬剤経済学的有用性
2.2 薬剤経済学の分析手法
2.3 費用効用分析の効果指標:質調整生存年(quality-adjusted life year, QALY)
2.4 費用の種類と分析視点
2.5 費用効果分析モデルの種類
2.6 費用対効果の考え方
2.7 薬剤経済学的視点によるPFS製剤の評価事例
2.7.1 ヘパリンロック用のヘパリン生食液
2.7.2 インフルエンザワクチン製剤
2.7.3 インスリン製剤
第10章 医療現場でのPFS使用時の有用性とその課題
1. 注射用キット製剤とプレフィルシリンジ(PFS)
2. PFSの有用性
2.1 調製時の過誤,使用時の過誤に対する有用性
2.2 微生物汚染に対する有用性
2.3 異物汚染に対する有用性
2.4 調製作業時間に対する有用性
3. PFSの問題点(課題)
3.1 より廉価なPFS製剤の市販,大量使用する薬剤のPFS化
3.2 ハイリスク医薬品のPFS化
3.3 注射筒への吸着が懸念される医薬品のPFS化
3.4 PFS製剤の表示の類似性
3.5 各医療機関におけるPFS製剤の積極的活用による事故防止
第11章 海外市場を踏まえたPFS材質のトレンドと針の動向
1. PFS材質
1.1 外筒
1.1.1 相互作用
1.1.2 強度,寸法精度
1.1.3 設計の自由度
1.1.4 トレンド
1.2 ガスケット
1.2.1 相互作用
1.2.2 摺動性
1.3 プランジャー
2. 針の動向
第12章 現在のプレフィルドシリンジの流れと使用感比較
〜インスリンおよびGLP-1受容体作動薬のプレフィルド製剤〜
1. プレフィルド製剤の種類とデバイスシステム
1.1 プレフィルド製剤の種類
1.2 デバイスシステムと注目すべきポイント
2. 各論
2.1 針の取り付け
2.2 単位設定
2.3 空打ち(試し打ち)
2.4 注入操作
2.5 その他