フードテックとは,食とITが融合すること。フード(Food)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語である。金融とITが融合したFinTech(フィンテック)が金融の枠を超えて新たなビジネスを生み出したように,フードテックも食とITが融合することで食の可能性を広げる新たな産業、ビジネスが創出されると世界中で注目されている。食の新技術に関する世界の市場は2025年までには700兆円規模に達するとの予測もあり,今後の展開が期待される。
日本においてもフードテックは食の生産,加工,流通にとどまらず,代替食の研究開発,外食,食関連サービスなど適用分野は広範囲に広がっている。フードテックには日本の農業の問題を解決する可能性もある。日本の農家は高齢化が進み、後継者不足もあって耕作放棄地も増えている。フードテックを活用して農産物の生産性を高めたり,付加価値の高い農産物にシフトしたりするなど,農地の有効利用や雇用の拡大も期待できる。異業種からの参入企業も多く,今後のますます市場の活況が期待される。
本書では広がりを見せるフードテックの展開について,栄養・健康×ITの取り組み,機能性食品,次世代食品,スマート農業,スマートファクトリー,サステナビリティとった観点から現時点での最新動向を専門家の先生方にご執筆いただいている。
目次
【栄養・健康×ITの取り組み】
第1章 フードテックをめぐる動向~官民連携による新市場の創出~
1 注目を集める「フードテック」
1.1 フードテックの背景
1.2 フードテックの国内動向
2 農林水産省の試み―フードテック研究会,フードテック官民協議会―
2.1 フードテック研究会の活動,中間取りまとめ
2.2 フードテック官民協議会の立上げ
3 今後の展望
第2章 食のパーソナライゼーションを実現する先進テクノロジー
1 パーソナライゼーションが注目されている背景
1.1 マクロトレンドと生活者価値観の変化
1.2 パーソナライゼーション市場の盛上り
2 パーソナライゼーションの変遷と未来
2.1 パーソナライゼーションの変遷と未来
2.2 パーソナライゼーションを実現するHuman Digital Twinの概念
3 食のパーソナライゼーションを実現するテクノロジー
3.1 食のパーソナライゼーション実現に向けたアプローチ
3.2 食のパーソナライゼーションに求められる健康データ
3.3 食のパーソナライゼーション実現に向けた生活者課題
3.4 食のパーソナライゼーション実現に向けた企業課題
4 今後の展望
【機能性食品の開発】
第3章 カシスポリフェノール(AC10)の脳機能(注意・集中力)改善効果
1 はじめに
2 カシスポリフェノール(AC10)とは
3 AC10による脳血流改善効果とその作用機序
4 AC10による「選択的注意力」の向上
5 「注意・集中力」の向上
6 「リラックス度・集中力」の向上
7 「頭の覚醒(集中度)」の上昇ほか
8 AC10のアミロイド斑形成抑制効果
9 AC10の安全性
10 おわりに
第4章 さとうきび抽出物とバンブーファイバーの特性と植物性代替肉への活用
1 はじめに
2 さとうきび抽出物について
3 食品用さとうきび抽出物の呈味改善効果について
4 食物繊維について
5 不溶性食物繊維「バンブーファイバー」の物性改善効果について
5.1 保水・保油効果
5.2 クッキーへの効果
5.3 唐揚げへの効果
5.4 餃子への効果
5.5 その他の用途
6 ミートレスハンバーグ(植物性代替肉)への活用
6.1 さとうきび抽出物による大豆臭の呈味改善効果
6.2 バンブーファイバーによる保形性向上,食感改善,歩留まり向上効果
6.3 カロブパウダーと酵素製剤ジョイナーE400について
7 おわりに
第5章 酢酸菌「ディアレ」の開発
1 はじめに
2 酢酸菌とアレルギー
3 機能性表示食品で求められるエビデンス
4 安全性確認試験
5 有効性確認試験
5.1 試験方法
5.2 試験結果
6 メカニズムの検討
6.1 TLR-4との反応性
6.2 IL-12産生
7 おわりに
第6章 腸内細菌叢調節物質イソマルトデキストリン
1 はじめに
2 水溶性食物繊維イソマルトデキストリン
3 イソマルトデキストリンの生理機能
3.1 食後血糖上昇抑制作用
3.2 食後血中中性脂肪上昇抑制作用
3.3 満腹感持続作用
3.4 整腸(便通改善)作用
3.5 腸内環境改善(腸内細菌叢調節)作用
3.6 下痢軽減作用
3.7 免疫調節作用
3.8 皮膚性状改善作用
4 イソマルトデキストリンの食品利用
4.1 食物繊維補給
4.2 機能性表示食品
4.3 プレバイオティクス
5 おわりに
第7章 パセノールTMの機能性:肌や糖・脂質代謝に対する生理作用
1 はじめに
2 肌に対する効果
2.1 肌について
2.2 ヒト試験
2.3 細胞試験
2.4 肌に対する効果のまとめ
3 糖・脂質代謝に対する効果
3.1 糖・脂質代謝について
3.2 ヒト試験
3.3 動物試験
3.4 細胞試験
3.5 糖・脂質代謝に対する効果のまとめ
4 おわりに
第8章 コラーゲンペプチドの効果と応用
1 はじめに
2 消化吸収・代謝について
2.1 コラーゲンペプチドの消化吸収
2.2 コラーゲンペプチドの代謝
3 効果について
3.1 コラーゲンペプチドの膝関節への作用
3.2 コラーゲンペプチドの骨への作用
3.3 コラーゲンペプチドの筋肉への作用
3.4 コラーゲンペプチドの皮膚への作用
4 分子作用メカニズムについて
5 まとめ
【次世代食品の開発】
第9章 代替乳製品の開発動向 代替チーズ「スティリーノ」
1 「スティリーノ」とは
2 代替チーズの歴史
3 代替チーズの存在意義と2つのアプローチ
4 海外の代替チーズ事情
5 現在の国内の代替チーズ事情
6 スティリーノの詳細と特徴紹介
6.1 コレステロール含量低減
6.2 脂肪分含量の低減
6.3 モッツァレラタイプ
6.4 乳成分完全不使用「ヴィーガン」
7 今後の課題
第10章 世界の食肉需給動向と代替肉の可能性―変わる「食肉の捉え方」―
1 はじめに:グローバル「かつ」ローカル
2 世界の食肉生産をめぐるマクロ環境の変化
2.1 農業と食肉の将来見通し
2.2 世界の食肉の生産
2.3 世界の食肉の貿易
3 食生活の変化と代替肉
3.1 代替肉はどこまで食肉需要の伸びに応えられるか
3.2 変わる「食肉の捉え方」
4 おわりに
第11章 伊藤ハム大豆ミート「まるでお肉!シリーズ」開発と,伊藤ハム米久ホールディングスグループにおける代替肉加工食品の製造技術と開発プロセス
1 マーケティング視点における商品開発
1.1 開発背景
1.2 狙うターゲット
1.3 メニューの選定
1.4 提供するベネフィット
2 製造技術における開発プロセス
2.1 はじめに
2.2 各成分の置き換えによる構築素材の作成
2.3 今後の技術的課題
第12章 藻類スピルリナの食品用途開発
1 はじめに
2 スピルリナという農産物について
3 代替タンパク質が必要な背景
4 スピルリナでタンパク質の生産をめざす
5 タベルモは生スピルリナ
6 「タベルモ」の生産
7 食文化の拡大に向けたさまざまな商品
8 おわりに
第13章 循環型タンパク質としての食用コオロギの飼育と食品への応用
1 はじめに
2 食用コオロギの飼育方法
3 フードロスを活用したコオロギ養殖
4 食用コオロギの品種改良
5 コオロギの食品原料への応用
6 コオロギ加工食品の開発
7 コオロギフード普及へ向けての課題
8 コオロギフード普及への社会的意義
9 おわりに
第14章 海産微生物ラビリンチュラの食品への利用
1 はじめに
2 ラビリンチュラ類について
3 ラビリンチュラの産業利用について
4 金秀バイオの取り組みについて
5 ラビリンチュラ末の安全性について
6 さいごに
第15章 デジタル技術を活用した次世代型商品開発
1 食を取り巻く環境変化
1.1 パーソナライゼーションとニーズの多様化
2 次世代型の商品開発とは?
2.1 食品業界における商品開発プロセスと特徴
2.2 「Personalization 3.0」で求められる商品開発
3 グローバルトレンドとデジタルテクノロジー
3.1 グローバルでの次世代型商品開発
3.2 他業界でのデジタル技術活用
4 次世代型商品開発へのデジタルトランスフォーメーション
4.1 商品開発プラットフォームの構築
4.2 デジタルトランスフォーメーションに向けた課題とアプローチ
【スマート農業】
第16章 土壌センシング技術とスマート農業
1 はじめに
2 土壌センシング
2.1 拡散反射スペクトル測定
2.2 トラクタ搭載型土壌分析システム
2.3 回帰モデル推定と結果
3 土壌マップとスマート農業
3.1 土壌マップの種類
3.2 土壌マップによる生産者判断と活用事例
3.3 スマート土壌センシング技術普及の課題
第17章 トマト自動収穫ロボット
1 はじめに
2 トマト自動収穫ロボットのシステム構成
3 収穫ロボットのハードウェア
4 収穫ロボットのソフトウェア
5 テスト結果
6 今後の展望
第18章 AI潅水施肥システム「ゼロアグリ」
1 はじめに
2 点滴灌漑と養液土耕栽培
3 少量多頻度潅水
4 ゼロアグリの構成
5 ゼロアグリ・クラウド
6 システムの管理と監視
7 ゼロアグリの動作
8 目標土壌水分と圃場容水量
9 培養液濃度設定
10 施肥量制御
11 高温対策制御
12 排液計測に基づく培養液供給制御
13 まとめ
【省人化・無人化・安全性への取り組み】
第19章 スマートファクトリー
1 はじめに
2 マルハニチロのスマートファクトリー(活動骨子)
3 新システム導入前の状況とそこから見えた課題
4 新生産管理システムの概要
5 変革に必要な技術
6 業務改革実現のポイント
7 導入効果
8 デジタル化による生産活動の変化
9 今後の展望
10 おわりに
第20章 AI自動検査 食品工場におけるAI活用事例
1 はじめに
2 AI導入の目的
3 AIと専門家の知見
4 AIの投資効果
5 撮像技術
6 画像判定サービス「MMEye」
7 おわりに
第21章 食の未来を支えるスマートファクトリー ~製造領域からはじめるデジタルツインサプライチェーン実現に向けて~
1 製造業全体の動向,背景
1.1 COVID-19による日本製造業の影響
1.2 危機に直面し今後どうしていくべきか
2 デジタルツインによる未来志向サプライチェーンマネジメント
2.1 Food Techトレンドと製造・サプライチェーン観点での深堀
2.2 デジタルツインによる未来志向サプライチェーンマネジメント
3 製造領域から始めるデジタルツインサプライチェーン導入ステップ
3.1 デジタル化の導入ステップ
3.2 NTTデータでの取組事例
4 (味の素の考える)スマートファクトリー化コンセプト
4.1 M3.0,M4.0の考え方
4.2 終わらない,継続的取組であること
5 スマートファクトリー像を定める際の考え方
5.1 ビジネス環境や商品特性によって目指す姿は多様であること
5.2 技術シーズからのアプローチとゴールイメージからの要素技術の選択
6 海外赴任経験を通じて得た学び
6.1 多面的,立体的におこる大きな変化
6.2 タイムリーな判断の価値
7 直近の具体的取組
7.1 スマートファクトリーグランドデザイン構築ワークショップ~SCM領域への貢献の拡大~
7.2 開発工業化リードタイム短縮~バリューチェーン連携強化の取組~
7.3 検査工程の自動化に向けたAI技術活用
7.4 予兆検知等のアナリティクス活用
7.5 OEE自動取得等の工程データ活用
8 これからの展望
8.1 SCM全体,ECM全体を見渡すデジタルツイン環境の導入・意思決定への活用
8.2 高度にデータを利活用し,解析・判断をスピードアップさせることの重要性
8.3 自社アセット保有によるオンプレ・エッジから,SaaS,PaaS活用のためのクラウド化
9 【詳細事例】味の素冷凍食品におけるデジタルトランスフォーメーションの取り組み
9.1 背景
9.2 取り組み内容と期待効果
9.3 今後の展望
第22章 食品企業における検査選別の自動化と食品ロスの取り組み
1 はじめに
2 食品工場における人手による検査の現状
3 冷凍食品における食品ロスの発生要因
4 弊社の食品ロス削減の取組み紹介と自動化の例
4.1 原材料調達段階での取組み
4.2 加工製造段階での取組み
4.3 流通販売段階での取組み
4.4 消費段階での取組み
5 今後の課題
第23章 食品の最先端工場における自動化とその先
1 はじめに
2 食品製造業に求められていること
3 生産現場をスマート化する”自動化”のポイント~製造現場編~
3.1 人手作業の自動化
3.2 ライン検査作業の自動化
3.3 生産業務の脱属人化
4 生産現場をスマート化する”自動化”のポイント~間接・管理業務編~
4.1 突発故障の起こらない環境の構築
4.2 ペーパレスでの製造が可能な環境構築
4.3 管理に必要なデータ収集の自動化
5 生産現場をスマート化する”自動化”のポイント~本社・事業部・経営者編~
6 自動化の先
【サステナビリティ】
第24章 食品ロス削減に有効な保存料ポリリジン
1 はじめに
2 ポリリジンとは
3 食品添加物としてのポリリジン
4 ポリリジンの特長
4.1 各種微生物に対する効果
4.2 pHの影響
4.3 熱安定性
4.4 微生物不活化効果
4.5 安全性
5 ポリリジンの利用
5.1 エタノールとの併用
5.2 有機酸の併用
5.3 グリシンの併用
5.4 グリセリン脂肪酸エステルの併用
6 ポリリジンによる食品ロス削減技術
7 おわりに
第25章 無孔通気性フィルムによる鮮度保持包材の開発事例
1 はじめに
2 無孔通気の原理
3 無孔通気性フィルムの機能
4 青果物に対する鮮度保持包装(例:ブロッコリー)
5 加工食品に対する鮮度保持包装(例:切り餅)
6 おわりに