本書は,2013年に発刊された『食品機能性成分の吸収・代謝機構』の発展版であり,その後のこの領域の研究進展が著しいことによる。食品機能成分については,培養細胞実験などの試験管内試験で生理作用が観察されても,その化学構造が生体内では代謝を受けて構造変化していて機能性が期待できない場合がある。当然に作用機序も変化する。また,生理的な意味を持つ程度の量が消化管から吸収されない食品成分もある。特定保健用食品や機能性表示食品の開発にあたっては,その食品成分の消化,吸収,代謝,作用機序の科学的エビデンスの十分な理解と考察が必要である。生化学領域で頻用される試験管内試験では,食品成分の実際のからだの中での効能の評価は困難な場合が多い。やはり,動物試験やヒト介入試験によるからだの中での機能性の検証は必須である。
本書を一読することにより,食品成分の吸収,代謝,作用機序の最先端が理解でき,機能性食品に関心のある研究者,栄養士,医師の方々のお役に立ち得ると信ずる。
(本書「はじめに」より抜粋・改変)
目次
【第Ⅰ編 吸収・代謝・作用効率に影響を与える因子】
第1章 腸管上皮トランスポーター
1 腸管上皮細胞
2 腸管上皮における食品成分の主要な吸収経路
2.1 トランスポーターを介した吸収経路
2.2 トランスサイトーシスを介したエネルギー依存的細胞内輸送経路
2.3 細胞間隙を介した透過経路
2.4 細胞内単純拡散経路
3 腸管上皮トランスポーター
4 腸管上皮トランスポーターの食品成分による制御・調節
5 終わりに
第2章 食品ナノ粒子化
1 はじめに
2 食品由来のナノ粒子
3 無機ナノ粒子の生体への暴露
4 食品ナノ粒子の用途
5 食品ナノ粒子の体内動態
6 食品ナノ粒子の安全性評価
6.1 細胞毒性
6.2 炎症
6.3 酸化ストレス
7 おわりに
第3章 腸内細菌
1 はじめに
2 食物繊維,オリゴ糖
3 ポリフェノール
3.1 イソフラボン
3.2 ケルセチン
3.3 エラグ酸
3.4 カテキン
3.5 クロロゲン酸
3.6 リグナン
第4章 体内時計,時間栄養学
1 はじめに
2 哺乳類の体内時計
3 時間栄養学,時間薬理学
4 糖吸収の日内変動
5 タンパク質吸収の日内変動
6 脂質吸収の日内変動
7 細胞間隙を介する吸収の日内変動
8 肝臓における異物代謝の日内変動
9 時差ボケ等による体内時計の不調
10 カフェインによる体内時計制御
11 ポリフェノールによる体内時計制御
第5章 食品成分の相乗・相加・相殺作用
1 食品成分の相乗作用
2 食品成分の相加作用
3 食品成分の相殺作用
【第Ⅱ編 機能性成分の吸収・代謝・作用機序】
第1章 アミノ酸
1 概観:アミノ酸の吸収
1.1 中性アミノ酸輸送
1.2 塩基性アミノ酸輸送
1.3 酸性アミノ酸輸送
1.4 Pro,Hyp,Gly輸送
1.5 β-アミノ酸およびTau
1.6 ジ・トリペプチド
2 ストレス・睡眠関連アミノ酸
2.1 はじめに
2.2 ストレス・睡眠調節作用を有するアミノ酸とその関連物質
2.3 概日時計の調節作用を有するアミノ酸
3 分枝鎖アミノ酸(BCAA)
3.1 分枝鎖アミノ酸の腸管での吸収
3.2 分枝鎖アミノ酸の肝性脳症改善作用
3.3 分枝鎖アミノ酸の代謝
3.4 ロイシンのタンパク質代謝調節機能
3.5 ロイシンによるmTORC1の活性制御
3.6 イソロイシンの糖代謝調節機能
3.7 おわりに
4 D-アミノ酸
第2章 タンパク質・ペプチド
1 概観:タンパク質・ペプチドの消化・吸収・代謝・体内動態(生理作用)
1.1 タンパク質の消化
1.2 タンパク質消化産物の吸収
1.3 ペプチドの吸収と生理作用
2 低分子・オリゴペプチド
2.1 はじめに
2.2 ペプチド機能
2.3 in vitroでのペプチド透過挙動
2.4 in vivoでのペプチド吸収挙動
2.5 おわりに
3 コラーゲンペプチドの吸収,代謝とその作用機序
3.1 はじめに
3.2 コラーゲンペプチドについて
3.3 コラーゲンペプチドの吸収
3.4 コラーゲンペプチドの血中動態と組織移行
3.5 コラーゲンペプチド摂取による効果と作用メカニズム
3.6 まとめ
4 大豆ペプチド
4.1 はじめに
4.2 大豆ペプチドの易吸収性
4.3 肉体疲労に対する大豆ペプチド摂取の効果
4.4 大豆ペプチド摂取によるロコモティブシンドローム予防効果(抗炎症作用)
4.5 認知機能改善に関与する大豆由来ペプチド
4.6 おわりに
5 乳タンパク質であるホエイタンパク質やカゼインおよびそれに由来したペプチド
5.1 乳タンパク質とは
5.2 ホエイタンパク質とそのペプチド
5.3 カゼインとそのペプチド
6 イミダゾールジペプチド
6.1 はじめに
6.2 イミダゾールジペプチドの消化・吸収について
6.3 脳機能改善効果について
6.4 イミダゾールジペプチドによる脳機能改善のメカニズム
6.5 イミダゾールジペプチドの安全性
6.6 おわりに
第3章 糖類
1 概観:糖質の消化・吸収・代謝・体内動態
1.1 食品中の糖質について
1.2 糖質の消化,吸収,代謝,体内動態について
1.3 糖質の消化過程と疾病との関連
2 食物繊維をはじめとするルミナコイドの大腸発酵を介した新たな展望
2.1 はじめに
2.2 大腸H2による酸化ストレス軽減
2.3 高H2生成細菌叢の導入による大腸高H2生成環境の構築
2.4 大腸内発酵によるH2の供給持続性
2.5 おわりに
3 オリゴ糖(フラクトオリゴ糖,マンノオリゴ糖(マンノビオース),ガラクトオリゴ糖)
3.1 はじめに
3.2 オリゴ糖の製造
3.3 オリゴ糖の食品としての機能
3.4 フラクトオリゴ糖
3.5 マンノオリゴ糖(マンノビオース)
3.6 ガラクトオリゴ糖
4 希少糖
4.1 はじめに
4.2 D-プシコース
4.3 体内動態(吸収・代謝・発酵)
4.4 生理機能および作用機序
4.5 希少糖含有シロップ
4.6 おわりに
5 グルコサミン,コンドロイチン硫酸,ヒアルロン酸
5.1 はじめに
5.2 グルコサミン
5.3 コンドロイチン硫酸
5.4 ヒアルロン酸
5.5 おわりに
6 β-グルカン,イヌリン,レジスタントスターチ
6.1 はじめに
6.2 食物繊維
6.3 おわりに
7 難消化性デキストリン
7.1 難消化性デキストリンとは
7.2 難消化性デキストリンの吸収および代謝(体内動態)
7.3 難消化性デキストリンの生理機能および作用機序
7.4 おわりに
第4章 脂肪酸・油脂類
1 概観:脂肪酸・油脂類の消化・吸収・代謝・体内動態
1.1 はじめに
1.2 トリアシルグリセロールの消化・吸収・代謝・体内動態
1.3 脂肪酸の消化・吸収・代謝・体内動態
1.4 リン脂質の消化・吸収・代謝・体内動態
1.5 ステロールの消化・吸収・代謝・体内動態
1.6 おわりに
2 n-3系脂肪酸(α-リノレン酸,EPA,DHA),n-6系脂肪酸(リノール酸,アラキドン酸)
2.1 はじめに
2.2 脂肪酸の吸収機構
2.3 リノール酸,α-リノレン酸の代謝と機能
2.4 アラキドン酸の代謝と機能
2.5 EPA・DHAの代謝と機能
2.6 n-3系,n-6系脂肪酸と保健機能食品
2.7 おわりに
3 グリセロリン脂質,グリセロ糖脂質,スフィンゴ脂質
3.1 グリセロリン脂質
3.2 グリセロ糖脂質
3.3 スフィンゴ脂質
4 油脂成分(植物ステロール・ステロールエステル)
4.1 植物ステロールとコレステロール-構造について-
4.2 植物ステロールの吸収
4.3 植物ステロールの食事コレステロールの吸収阻害
4.4 副作用
4.5 おわりに
5 γ-オリザノール
5.1 γ-オリザノールとは
5.2 γ-オリザノールの消化・吸収・代謝
5.3 HPLC-MS/MS によるγ-オリザノールの消化・吸収・代謝の評価
第5章 ビタミン様物質
1 コエンザイムQ10
1.1 はじめに
1.2 コエンザイムQ10の化学構造
1.3 コエンザイムQ10の生合成経路
1.4 コエンザイムQ10の吸収・代謝
2 PQQ
2.1 PQQとは(物質,分布,摂取,安全性)
2.2 吸収,代謝
2.3 機能
2.4 作用機序
2.5 まとめ
3 α-リポ酸
3.1 リポ酸とは
3.2 α-リポ酸の吸収性
3.3 α-リポ酸の抗糖尿作用,エネルギー産生作用,抗がん作用
3.4 おわりに
第6章 植物二次代謝成分
1 アントシアニン
1.1 はじめに
1.2 給源と摂取量,代謝・吸収
1.3 肥満・糖尿病予防・抑制作用の視点からのアントシアニンの機能と作用機序
1.4 アントシアニンの健康機能:代謝・吸収の知見も踏まえた課題,今後の展望
2 カロテノイド
2.1 カロテノイドとは
2.2 食品中のカロテノイド含有量
2.3 カロテノイドの消化/可溶化
2.4 カロテノイドの吸収選択性
2.5 カロテノイドの代謝(骨格の開裂)と機能性
2.6 カロテノイドの代謝(末端環の変換)と機能性
3 緑茶カテキン
3.1 はじめに
3.2 緑茶カテキン
3.3 緑茶カテキンの吸収と代謝
3.4 緑茶カテキンの生体調節作用とそのしくみ
3.5 緑茶カテキン代謝物の生体調節作用
3.6 食品因子による緑茶カテキンの活性調節
4 イソフラボンの吸収,代謝,作用機序
4.1 イソフラボン概要
4.2 食品中の大豆イソフラボン組成とその含量
4.3 イソフラボン配糖体とアグリコンの腸管における吸収
4.4 生体内における大豆イソフラボンの代謝
4.5 イソフラボンおよび代謝産物の機能性
5 ヘスペリジンおよびヘスペリジン誘導体
5.1 ヘスペリジンとは
5.2 ヘスペリジン誘導体の開発
5.3 ヘスペリジンの吸収と代謝
5.4 分散ヘスペレチンの血中動態
5.5 血中代謝物の構造
5.6 血流改善の作用機序
5.7 身体局部を冷却した冷え性改善試験
5.8 全身を緩慢に冷却した冷え性改善試験
5.9 まとめ
6 クロロゲン酸
6.1 はじめに
6.2 クロロゲン酸の吸収・代謝
6.3 クロロゲン酸の生理作用
6.4 おわりに